デビュー戦は華やかといかず『今日から君も、サロン・ド・アキラの会員さ!』
サロンの開催日時は会員No.によって変わる。
私のNo.三xxの場合、毎月第三週の木曜日。
朝起きたときの天気は快晴、これなら放課後も持つだろう。
サロンに訪れるのはいわゆる『お嬢様』が多い、らしい。
私は別にそういうわけじゃないけれども、せめて見た目くらいは彼女たちの中に紛れたくて慣れぬアイロンで髪を巻き、普段はまともに結ばない制服のリボンもきちんと結んで、ちょっとだけスカートを長くして。
もちろん化粧もして目を大きめに見せて。
よし、準備万端。
放課後がやってくるのはあっという間だ。授業がたまにしか聞こえていなくたって問題ない。終礼が終わると、もう一度トイレに
立ち寄り身なりを整えた。
カバンを抱え、階段を降りて広い校内のなかですこし異質なそこへ向かう。
他の場所はそれなりに学校らしさがあるというのに、そこときたらまるで観光施設のような造りをしているのだ。
(だからこそ、『庭園』なんだろうけど)
こつ、こつ、石畳を進んだそこが開けた。噴水と色とりどりの花、白いテーブルクロスのかかった丸テーブルの上にはフルコースを食べるときのようなカトラリーがキラリと光る。場違いかもしれないここに、今日、入る権利があることが嬉しかった。
「サロンへようこそ。 君も俺に魅入られてしまったのかな?」
「……っ」
突然後ろからかけられた声に振り向く。
今日の主役を前に、どきりと胸が痛い。
「……はい……」
輝かんばかりの笑み。彼が次々とポーズを決めるたびにブロンドの美しい髪がたなびき、その背後には幻覚かと思うほどの美しい白薔薇の群れが見えた。
「はーっはっはっは! そうだろうそうだろう! どうぞ心ゆくまで楽しんでくれたまえ。君、このレディをお席まで」
「はい」
返事とともに、流れるような動作でウェイターのような格好をした人が私の隣へやってくる。
それでも私はその場から動けずにいた。うん? と首を傾げられる。
「そんなに熱心に見つめてくれるほどなんて、ありがとう! 何度でも来てくれたまえ」
「っ、はい! 晶様!」
気づけば私は両手を胸の前で組み、頬を高揚させて……いつか見た『エトワールのレディたち』と同じポーズを取っていた。
こちらへ、と促されながらも次の客をもてなす彼・紫藤晶のパフォーマンスから目が離せない。
――次はもっと、しっかりオシャレしよう。
私はそう胸に誓った。