無題(攻めショタ化記憶なし/ハロウィンネタ)<<ハロウィン仮装大会のお知らせ>>
指定された内番とは別に集団生活する上で本丸でやらなければならない事は沢山ある。加州清光と一文字則宗はそれを熟す為に内番着に暖かい素材の襟巻きを着け廊下を歩いている最中だった。
本丸の一番ひと通りの多い場所にある内番の内訳表。その右隣にある掲示板に張り出された張り紙を見て則宗は立ち止まった。
かわいいポップな書体とイラストが描かれたポスターは誰が作ったのだろうか?パソコン操作が得意な刀は数振りの大体が本丸の事務をする刀に偏る。
先ずへし切長谷部では無いのは分かる。仮に主命であってもこんなにポップに可愛く仕上げたりしないだろう。松井江はもっと彼の言う血、ハロウィンならヴァンパイアを連想させそうな色使いをしそうであるし、山姥切長義に至っては幼児化のバグが起きている真っ最中だ。これは恐らくイベント事が好きな篭手切江が作ったものだろうと則宗は結論付けた。
「本丸(此処)は海外のイベントも楽しむんだな」
「そうだよ、主がそう言うの好きでさ」
同じものを見ながら加州が答える。
「そうか、楽しみだなぁ、仮装大会・・お、景品が出るのか」
加州の言葉にうんうんと相槌を打ちながら、張り紙を下方の参加条件を読んで則宗は目を輝かせた。
「うん、地味仮装部門とガチ部門で違うんだ」
地味ハロウィン、最近現世で定着してきた低予算もとい日常のあるあるを表現した仮装だ。こちらの優勝者への景品は小豆長光へのお八つのリクエスト権利。それが五回分もある。普段夕餉のリクエストと同じで誉を多く取った者順になるのでまたと無いチャンスである。
本気の仮装部門は現世遠征ホテルのスイーツビュッフェ招待券。辛味、酒派に配慮しているのか焼肉屋に変更可とも明記してある。
出場するしないにせよ仮装を楽しみたい気持ちはあるが恋刀である長義が幼い姿では一緒に楽しめるか少し疑問だ。記憶も退化しているこの幼児化バグは面白くもあるが逆にこちらの事を覚えていない等の不便もある。
参加は任意。加州達は何かするのか訊こうと則宗が口を開けば
「それとは別に普通に菓子はねだるヤツはいるけど」
加州がそうだったと思い出した様に言う。
「包丁の坊主が?」
あの短刀は何時も誰にでもねだってくるぞと則宗は頭の上に疑問符を浮かべた。
「違うちがう、『トリックオアトリート』の方。今日がハロウィン当日でしょ?」
“本来”ハロウィンは子供がお菓子を貰うイベントではなく、海外の収穫祭と先祖の霊をお迎えし悪霊を追い払うお祭りで、日本の付喪神にあたる刀剣男士には無縁なものだ。現世同様に仮装を楽しむイベントになりつつある。
張り紙に明記されている大会の日付は二週間後。流石に審神者の仕事、刀の本分が優先である。
「そうだ、ちょっとこっち来て」
と加州が向かったのは厨だ。朝餉もその後の片付けも終わった時間帯で綺麗に片付けられておりそこには誰も居ない。
今日しなければならない仕事をする場所ではない。喉でも潤そうとでも言うのだろうかと則宗が入り口で待っていれば加州が小麦粉等の乾物が保管してある戸棚のひとつを開けた。中を探りそこから取り出したのは飴の袋だ。それを開けて則宗に数個手渡す。
「仮装した短刀・・たま~に大きいやつもいるけどトリックオアトリートって言われたらあげてやって」
「年上の仕事だな」
則宗は内番の羽織りのポケットの中に受け取った飴を詰め込んだ。
「年上って言うかアンタは今年初めてだから貰う方で良いと思うけど。足りなくなったら勝手に持って行っていいから」
加州は飴の外袋をクリップで留め、元あった場所に此処だからねと言いながら戻す。
「うんうん、分かった」
「さ、庭掃除しなきゃ。桑名が落ち葉を肥料にしたいって言ってたし」
「あぁ!寒くて腰が痛い」
あからさまに言わんばかりに則宗が訴え、腰に手を当てれば
「見え透いた嘘吐くな」
加州がいいから早く行くよ!!と則宗の腕を力強く引っ張った。
「則宗さん!トリックオアトリート!」
枯れた落ち葉が広がる中庭を竹箒で掃いていれば、則宗の元に仮装した短刀達が代わる代わるやって来て菓子かいたずらかを問いてきた。
「ありがとうございます!あなたもいってください♪」
飴を受け取った某ゲームキャラクターの仮装をした今剣が満面の笑みで言った。
「とりっくおあとりーと、これでいいかい?」
相手は子供の姿をとった短刀だが自分より年上だ。少し恥ずかしいなぁと則宗は内心思いながら言えば、今剣は斜め掛けされたポシェットの中から何かを取り出し手渡した。
「はい、とりーとです!」
受け取ってその手元を見れば透明の袋に詰められた小さなメレンゲのクッキーだ。
「おぉ、ありがとう」
「あなたはしんじんですからね!」
食べたらちゃんと歯を磨くんですよ!と言って今剣は次は村雲江を探しましょうと秋田藤四郎と共に走り去った。
(面白いイベントだな)
何故か年上の刀からじじぃだと言うのに菓子を貰ってしまった。
先程も外廊下を歩いている鶯丸に目が合ったと思えば来いと手招きされ、小さな羊羹を手渡された。某有名和菓子店の一口サイズの季節限定栗味のもの。ほうじ茶似合うぞと言われて。
これは庭の掃除の手伝いを頑張ってる子や孫に菓子を与えられたと言った感じだった。確かに古備前の鶯丸からすれば裔のひとつに福岡一文字の一振りである則宗も入るのだろうが。
その後もファミリーパックの大袋を持った髭切にパイの菓子を貰った。
新刃だから菊の君にもあげるよ~と言われ受け取れば君も源氏の仲間入りだねと言われた(隣にいた膝丸もうんうんと頷いていた)もしそのパイと対となる菓子を持った小烏丸と鉢合わせししてしまったら・・・と勝手に心配になった。
右のポケットにクッキーと羊羹とパイ。休憩の時間にでも食べようと反対側のポケットの中に手を入れればそこには何時も常備している扇子とスマートフォンしかない。さっき渡した飴が最後だったらしい。
飴を取りに厨へ行こう。掃除は怠いがやらなければならないしサボりだとは思われたくない。竹垣に箒を立て掛け、声を掛けようと加州の方に視線を向ければ陸奥守と何やら話していて彼の両手いっぱいにさつま芋が抱えられている。
(焼き芋か・・それもいいな)
と考えていれば突然突風が則宗を襲った。
「んんっ!?」
避けず事出来ずに思わず羽織で顔を覆うが一瞬だったらしい。腕を外せば視線の先、一カ所に集めておいた落ち葉はまた周囲に散らかってしまった。からからと音をたてて落ち葉がまだ地面を小さく舞っている。
ある程度溜まった分をその都度袋に入れていかなかったのが悪かった。やれやれと溜息を吐いていれば
「則宗!」
と背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「おお、山姥切の坊主」
振り返れば4、5歳位の男児の姿になった長義とその半歩下がった所に国広が立っていた。国広には幼児化バグは起きていないがその手元に南瓜もといジャックオランタンの容器に菓子が詰められている。大方戦利品なのだろう。
自分自身が刀剣男士と言う事は認識しているが記憶の方は一部退化していて則宗と恋仲だとは忘れている。然し性分なのか長船の刀達と仲がよく、則宗に対しても何かとかまってちゃんをしてくる。
「なんだ、国広の坊主の仮装か?」
長義は一緒に小さくなった内番着のジャージにマントにフェルトでおばけの目と口を貼り付けた(一瞬布の穴を再現したものかと思った)随分と簡易な仮装。今日がハロウィンだと知って急遽拵えたのだろう。
国広も修行済みだが今日は頭に襤褸布を被って同じ様な格好をしている。
「違う!おばけの仮装!」
長義が速攻否定の声を荒げたが、直ぐ眉を顰め国広の方を振り返った。
「ちょっと偽物くん俺を抱っこしろ」
「?」
急に何なんだと国広は真顔で首を傾げたが、小さいながら本科様の言う事素直に聞こうと両手を差し出す。
「後ろからだよ、則宗の顔の所まで上げて」
と言われ長義が国広に対して後ろを向き、国広がそのまま脇から抱え上げれば長義が則宗の頭に手を延ばしてきた。
「ん?どうした?」
「髪に葉っぱ付いてた」
先程の突風で付いてしまったらしい取ったそれを見せ、更に手櫛で髪を整えた。
「おや、すまんな。ありがとう」
(流石小さくても長船・・・)
こちらを屈ませずわざわざ己の写しを利用してまでやるかと関心してれば
「とりっくおあとりーと!だ」
国広にそっと降ろされた長義が則宗を見上げ元気に言った。
「すまんな、今菓子を持ってないんだ。とりっくの方でいいぞ」
流石に貰った菓子を渡す訳にはいかない。降参だと言わんばかりに両手を上げれば
「とりっく・・・?」
想定外の反応だったのか長義は口を開け困惑した顔を見せた。
「偽物くん、とりっくって何すればいいのかな?」
「いたずらだな。例えば・・・相手を擽らせるとか?」
丁度腕を上げているしなと国広が言えば
「いいぞ」
他人からくすぐられるのは正直余り効かないと大和守が以前戯れにしてきた時に気付いてしまったが、ほらと目線を合わせて中腰になれば
「は、はれんちなのはだめだろ!」
と顔を赤くさせて首をぶんぶんと左右に振った。
(幼いながらに純情だなぁ)
だったら何をもっていたずらとするか。ハロウィンを楽しむなら『とりっくおあとりーと』で無くてもいい。
「じゃあ・・僕と一緒に仮装大会に出るかい?」
仮装を楽しむだけでもいいがやるならとことんこの際だから大会出場して優勝を狙いたい。どちらかにしか出場出来ないとは言え甘味好きの則宗にとって魅力的な賞品だ。
「それはとりーとじゃない」
「まぁそうなんだが、ハロウィンだし僕の仮装した姿見たくないかい?」
好みの仮装を訊いて元に戻った時に冷やかしに言ってやろう。と内心微笑みながら尋ねれば
「俺は何時もの則宗の服が好きだ」
と意外?な答えが返ってきた。記憶が無く幼い姿だと本音が出やすいとは思っていたが長義が赤白の戦闘装束がお好みだとは知らなかった。
「それにそんな事しなくても俺がお願いすれば小豆はお菓子を作ってくれるし、ビュッフェも俺が連れて行ってあげる」
『えすこーと』は得意だよ。と長義は胸を張った。前者は身内の特権を行使しようとしている。間違ってはいないが仮装より賞品に目当てだと思われていた。
「な~にサボってるの、仕事しろ仕事」
それはそれで良いかもなぁと思ってれば則宗の後ろに箒を持って仁王立ちする加州がいた。
「サボってないぞ。飴が無くなったからとりーとを考えてたんだ」
「取りに行けばいいじゃん。つか散らかってるし」
ちゃんとやってた?と疑う視線で枯れ葉等が広がった周辺を見渡す。
「やってたさ、さっき集めたんだが突風でこの様だ」
「則宗、手伝うよ」
通常体の長義ならさっさとやれと叱り、自分は事務仕事があるからと立ち去ってしまう所だが幼い姿だとその仕事も免除されているのか申し出てきた。
「優しいな~山姥切の坊主は♡」
「偽物くんも手伝って。大勢でやれば直ぐ終わるだろ」
「わかった、塵取りと箒を持って来る」
国広が掃除用具入れのある方へ向かう。写しを使う所は変わらないなぁと思ってれば、てきぱき・・とはいかないがそれなりに長義が則宗の立て掛けていた箒を手に取り枯れ葉を集め始めた。
「ちっちゃくても甘やかすな・・まぁいいや。ねぇ今夜皆でDVD鑑賞しようってなったんだけど則宗も来る?」
一番大きいテレビがある大広間で21時からなんだけど~と加州が言う。
「おぉいいな、何見るんだ?」
「何かハロウィンだから?ホラー系とか言ってた」
ホラーと言っても日本と海外もの、お笑い寄り呪い系等大分幅が広い。
「ホラーか・・・山姥切の坊主は観るか?」
う~んと考えた後則宗は長義に問う。子供の姿に引っ張られて寝る時間だろうが途中退室してもいいし、明日は非番なので多少の朝寝坊は許されるだろう。
「則宗が怖いって言うなら俺が隣に居てあげてもいいよ」
「そうか!決まりだな」
DVD鑑賞は今回は和泉守と陸奥守が観たいと珍しく意見が一致した海外ホラー(悪魔祓い系)ものになった。
則宗は初見だったが、如何にもわざとらしい造られた演出で人間の業の方がよっぽど怖いと割り切り、エンターテインメントとして観ていた。然し隣に座った長義が終始則宗の右腕を握り、時折小さな悲鳴を上げ怖いとおぼしき場面では目を背けていた。
(幼いとは言え面白いなぁ)
普段の姿だったら主人公やヒロインの行動に苛立ちを覚えたり物理的にやれ等と文句を言っているだろう。
映画が終わりエンドロールが流れ始め、各々が感想を言い合っている中則宗が
「こりゃ夜ひとりで眠れんかもしれんなぁ」
と長義にこっそりと耳打ちすれば
「じゃあ俺が一緒に寝てあげる」
と則宗の予想通りの答えが返って来た。別に『誰が』とは言ってない。
「一緒に寝るのははれんちにならないのかい?」
ちょっといたずら心に言ってみれば
「ならない」
だって則宗が困ってるから自信満々に言う長義に則宗はうはは!そうかと笑う。
その様子を終始見ていた加州が、今日は寒いから湯たんぽ用意しようかと思ったけど則宗の分は要らないね~と小さく呟いた。