初めての冬 二十四日の朝。
「光忠!」
僕が朝の支度をしている間に、先に外に出た実休さんが、弾んだ声で僕を呼んだ。
昨夜から結構冷え込んでいたと思うけれど、何かいいことがあったのかな?
「どうしたの? ……わ、真っ白だね」
僕も外に出てみると、部屋の前の庭は一面銀世界になっていた。一夜の内に積もったらしく、実休さんの脛の中ほどまで雪が積もっていた。
東の空は晴れていて明るいけれど、今もちらちらと雪が舞い落ちてきている。
実休さんは初めての雪が珍しいのか目を輝かせ、さらさらの雪を掬い上げて楽しんでいた。
普段は格好良いひとだけど、こんな純粋なところは可愛いくて愛しさが募る。
「今年は暖冬かと思ってたけれど……ちょうどホワイトクリスマスになって良かったね」
僕も雪の中に踏み出して、深い足跡を付けながら実休さんの傍に行った。
「ほわいとくりすます?」
実休さんは、何のことだろう、と首を傾げる。
そうか、実休さんにとっては初めての行事なんだ。
「玄関の前に山伏くんがもみの木を用意して、短刀の子たちが飾り付けをしていただろう? 今日の夕方からクリスマスなんだ。クリスマスの日に雪が積もってると、ホワイトクリスマスって言うんだよ」
普通に喋っていても息が白い。
「主がいた現世の感覚では、ホワイトクリスマスに恋人と過ごせると理想的なんだって」
僕は薄着の実休さんの首に幅広のマフラーを緩く巻き付けた。風邪知らずな彼はあまり防寒に気を遣わないけれど、身体が冷えないわけじゃない。
「ありがとう、光忠」
僕に笑みを向けた実休さんが、突然僕の腰を抱き寄せて雪の中に倒れ込む。
「うわっ」
「ふふ、ホワイトクリスマスに、最高の恋刀と一緒なんだから、僕は幸せ者だね」
突然引き倒されてせっかく整えた髪がぐちゃぐちゃになったけれど、それを怒る間もなく甘く蕩ける声で囁かれて、寒さが吹き飛んだ。むしろ暑いくらいだ。
「……僕も、幸せだよ」
雪に隠れるようにしてキスをする。
その後、雪の中で実休さんとじゃれあっていたら、通りかかった小豆くんに『おさふねはのそはいがいとむじゃきなのだな』と温かく見守られてめちゃくちゃ恥ずかしかった。
だけど、僕にとって、九回目のクリスマスは今までで一番幸せなクリスマスになったのだった。