年輪のレンズ 私の旅は、潮騒の響く村を出た頃からずっと変わらない。
無造作に打った宙の点と点を繋いで線を描き、描いた線同士を繋げて、更なる線を伸ばす。伸ばした線はやがて不恰好な絵柄となり、気づけば意味を成していた。
彼の知らない私の旅とは、結局のところそのようなものだったのだ。
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「たくさんのものを見たし、感じたんだね」
かちかちとデジカメのスイッチをゆっくり弄りながら彼は言う。彼の手にちょうど収まるくらいの少し古ぼけたそれは、私の分身たるわたしがあの夏の間からつい先程までずっと肌身離さず抱えてたいたものだ。
それがなぜ今彼の手元にあるかというと、端的に言えば拝借したのだ。説明を付け加えるとするならば、珍しくも自室の机にぽつりと寂しく置いてあったから、とも言う。
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