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    r_elsl

    @r_elsl

    全て謎時空

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    4スレ。ワンドロワンライ企画の「飲み干す」。

    ジュースとの正しい付き合い方 ぶちゅ、という音はスレッタとエランの穏やかな会話を打ち消すのに十分なものだった。
    「あ」
     原因はスレッタが無自覚に強く握り締めたこと。その手にあったオレンジジュースは真っ直ぐ突き刺さったストローから飛び出して宙を舞い、周囲に飛び散った。エランの制服のタイを橙色に染め上げる。
    「ひょええええぇぇ」
     衝撃で出た間抜けな叫びは同じく廊下にいた生徒たちの衆目を集めるが、気にする余裕もなく大慌てでハンカチを取り出す。
     危なっかしい様子にエランはそっとオレンジジュースを取り上げて、スレッタを見守った。タイの殆どにかかったので時間がかかりそうだ。
    「おおおお落ちない……どうして……」
    「気にしなくていいよ」
    「そ、それは駄目です! エランさんのイメージが私のせいでおかしくなります!」
    「何のこと?」
     何故ジュースの汚れから自分のイメージに話題が変わるのだろうと思いつつ首を傾げると、真剣な瞳はタイに注がれたまま、ハンカチの動きがやや大人しくなった。
    「皆さん王子様みたいだって……」
     一応影武者という立場なのでオリジナルのエランを何となく意識しているが、彼に王子様という印象はない。
     ただ彼の顔は整っていて、模して整形された強化人士4号の顔も同じように受け止められるだろう。顔の印象は相手に与えるイメージに大きく影響を与えるということを、自分は誰よりも知っている。
    「顔かな……」
     小さく溢れた声をスレッタは拾う。
    「多分、立ち振る舞いだと、思います」
     それなら心当たりがある。気を抜くと猫背になりがちだが、オリジナルはいつも背を伸ばして行動していた為、影武者として学園内ではなるべく背を伸ばすようにしていた。己の他人を拒絶するような雰囲気と相まって、結果的に王子と言われるようになったのかもしれない。
    「じゃあ君はどう思うの。スレッタ・マーキュリー」
    「えっ」
     手を止めてエランを見上げる。
     じっと覗き込むように見つめる眼差しに見る見る顔を赤くして、なんとか絞りだように、
    「か、かっこいいと、思います!」
     思いがけない言葉にエランは目を丸くする。
     かっこいい。
     知りたい、仲良くなりたいと思った女の子からそんな褒め言葉を貰うなんて。
     ふわりと気持ちが軽くなる。上機嫌になったのは自分でもわかった。まだオレンジジュースの跡が残るタイを一気に引き抜く。拘束の解かれた胸元が僅かに開いて、黒いインナーが顔を覗かせる。
    「本当に気にしなくていいから。替えはたくさんあるし、こっちで洗うよ」
    「だ、駄目です!」
    「じゃあお詫びに」
     エランはスレッタの顔を注視する。正しくはその頬を。
     宙に舞った際タイだけでなく彼女の頬にも付いたオレンジジュースを、顎を引いて舐め上げた。
     固まったままのスレッタだったが、見る見るうちに赤くなった。顔だけでなく首元や耳まで赤い。
    「あ、あ、あの、あの」
    「飲み物も貰うよ。またね」
     真っ赤になって立ち尽くすスレッタに背を向けた。

     嬉しそうにしたり、慌てたり、必死になったり、恥ずかしがったり。くるくる変わる表情は凍てついたエランの心を少しずつ溶かしていた。
     際限なく溢れ出す彼女の魅力は、味わい尽くそうとしても飲み干せない。自分だけに注がれているわけでもない。それでも一杯のオレンジジュース分くらいは自分のものでもいいはずだ。
     ストローで吸い上げられた甘酸っぱい液体はエランの喉を潤し、頬を緩ませた。

    ◇◇◇◇

     エランが去った後の廊下はすっかりざわめいていた。今日の二人のやり取りは早々に広まるだろう。水星女と氷の君ということもあって話題性も問題ない。
     しかし置き去りにされたスレッタは気づくこともなくその場に座り込んでいた。動くことすら出来なくて、膝を抱えて顔を埋める。
    (エランさんのばかばかばか!!なんであんな恥ずかしいこと……)
     舐め上げられた頬は今だにしっかりと感触を残している。ざらついた、生暖かい舌。ぬるりとした唾液。
    (でも……まだドキドキしてる)
     かっこいいと思ってしまった。得意げな顔も、胸元が開けて見えた黒いインナーも。
     そうだとしてもとりあえず一度は抗議するべきなのかもしれない。頭を悩ませながら、羞恥と余韻と彼への想いに浸った。


    <了>
    20230618
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