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    pesenka_pero

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    pesenka_pero

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    吸血鬼ものとして正統派耽美を目指したいノスクラ。執拗にちゅっちゅしてるだけです。

    愛咬 私の身に何が起こったのだろうか。野犬に襲われて野垂れ死んだはずだったのに、言葉すら通じない異国の地で突然目が覚めた。夜なのに明るすぎる町を心細い思いでさまよい歩いていたら、紆余曲折あって親切な人、いや高等吸血鬼であるドラルクさんが保護してくださった。更にいろいろあって、今は柔らかい寝台に横たえられ、口髭を蓄えた見目のよい男に覆い被され、唇を彼の唇に塞がれ、口中を舌でまさぐられている。

     しかし私は抗うことができない。それどころか自分から舌を差し出して、彼の舌を舐め返している。唾液なので特に味はしないはずなのだが、何故か甘くて美味だと感じられて、快くてなんだかぼんやりとする。彼は押さえ込むように私の頭を抱えていた。圧迫感はあるのにそれが逆に安心できて、私もつい彼の首に腕を回してしまった。彼はいやがることもなく、私をますます強く抱きしめて深い接吻を続けた。

     どれだけの時間が経ったのか。長く交えていた唇を放すと彼は私にこう告げた。

     また来るからな、クラージィ。それがいやなら早く私の血を吸いなさい。

     私は息も絶え絶えで、まだ私の上に覆い被さっている男をぼんやりと眺めることしかできなかった。氷笑卿ノースディン。美しい男だ。至近距離でしばらく見とれていたが、また眠気が襲ってきて私はそのまま目を閉じた。眠る私の体を、彼が抱いていてくれた気がする。

     
     目が覚めると、部屋には誰もいなかった。今の私は、ロナルド吸血鬼退治事務所の入っているビルの一室に住まわせてもらっていた。家具は最小限だが私にとっては十分だし、食事はドラルクさんがいそいそと運んできてくれている。

     この新横浜で目覚めてから、しばらくはドラルクさんのご厚意でヴリンスホテルに宿泊していたのだが、ある時氷笑卿ノースディンが直接訪ねてきたので驚いた。私を吸血鬼にした本人だったとはいえ二百年近く経っていたのに、私のことを覚えてくれていたとは。

     その後、ロナルド吸血鬼退治事務所に私も同席し、ノースディンとドラルクの会話を聞かされた。日本語学習を始めたばかりなので、何を言っているのかはほぼ全くわからなかった。

    「吸血鬼としての教育をするためにも、彼を私の屋敷に連れて帰りたいのだが……」

    「はあ? 連れて帰る? あんたがスケコマシのくせに人間嫌いなの知ってたんだよ! なのに何でこの人だけ吸血鬼に転化させやがった? この人に何するつもりなんだ? ロリコン、いやショタコン野郎が! 今生で吸血鬼生を教えんならおポンチ吸血鬼が蔓延るシンヨコが荒療治だが最適なんだよ! 二百年前の正統派吸血鬼なんか今更どこにももいねえぞ! 今までのホテル代払えとは言わんがこのビルの部屋を契約してやるから家賃はてめえが出せや! 一月八千円だから安いもんだろうが! ヴリンスホテル一泊するより安いわ!」

    「一月八千円!? ちょっと待て、ここ、一応新幹線が止まる駅だろう!? お前なんてとこに住んでんだ! どう考えても事故物件だろう! 今すぐ引っ越せ!」

    「うるっせーわ! 一度シンヨコに住んでから言えよ!」

     彼らがとにかくいがみ合ってることだけは理解できた。私はアルマジロのジョンくんを膝に乗せて、提供された温かい牛乳をすするしかなかった。私と同じソファーに並んで座るロナルドさんはおろおろしていた。


     何が何だかよくわからないまま、数日後に私は新横浜ヴリンスホテルからロナルド吸血鬼退治事務所のあるビルの一室に移動させられた。

     確かにホテル住まいよりもこっちのほうが断然安いですねえ。何か困ったことがあったらすぐ事務所に来てくださいね。仮に不在だったとしても、誰でも入れますから。しばらく待っていてください。できれば入り用なものは言っていただきたいけれども、まあのちほど。急がなくてもいいですよ。

     彼は、分厚いカーテンで閉ざされた窓、寝台と机に椅子、棚のある部屋に私を通した。棚には私にも読めるルーマニア語の本や、ルーマニア人用の日本語学習本が並んでいた。CDプレーヤーやエアコンという器具の使い方も教えてくれて、暖かい寝間着も何着か与えてくれた。

     さすがにここまでしてもらうのは申し訳なかったものの、せっかくのご厚意だし、この地で暮らすなら日本語の勉強はもちろん必要だ。私はテーブルに置かれたCDプレーヤーというらしい器具の使い方をドラルクさんに教えてもらいながら、語学書についていた円盤を中に入れて、ゆっくりとした日本語の発声練習を聞きながら語学書を読みふけった。ドラルクさんもしばしば部屋を訪れては私の日本語学習に付き合ってくれた。

     しかしまだほとんど聞き取れない異国語の音声を流しながら、初心者向けとはいえど文字からして違いすぎる語学書を読んでいると、どうしても眠気が押し寄せてくる。テーブルに突っ伏したり、寝台に倒れ込んだりして、すぐにまどろんでしまう。

     うとうとと眠り続けていると、寝台の横に誰かの気配がする。

    「……まだ弱っているな。ほら、早く私の血を吸え。」

     ノースディンが私に被さって、シャツをはだけた首元を私の口元に近づけていた。ああ、おいしそうだ。誘われるまま彼の首に口を寄せたが、牙を立てることはできなかった。しかし誘惑には抗えなくて、血が出ない程度に甘嚙みをする。

     ふふ、くすぐったいぞ。そう囁いて、彼は笑った。

     
     人間から吸血鬼に転化した者は、吸血した相手と擬似的な親子関係を結ぶことになり、親の血を摂取しなければその関係は解消されない。私と再会したノースディンは、真っ先にそう説明し、シャツのボタンを外した。だが元人間であり聖職者だった私は、どうしても生き血を口にすることができなかった。

     ノースディンの指先にいくつかの切り傷が見える。ドラルクさんが定期的に持ってきてくれる温かい牛乳が、時折飲めないことがある。おそらくは、ノースディンが自分の血を牛乳に数滴垂らしているのだろう。私を吸血鬼にした彼の厚意であるのはわかるのだが、私にはとても飲めない。

     ドラルクさんが差し入れてくれる牛乳やクラムチャウダーなどで日々をまかなっていたが、やはりさすがに栄養が足りなかったらしい。この現代に吸血鬼として甦った私は、いつまでも痩せ細ったままだった。

     僅かではあるが血の匂いのする牛乳のカップをそっと押しのけた。ノースディンは溜息をついた。

    「……仕方ないな。」

     ノースディンは寝台に座っていた私の前に屈み込み、両手で私の顔を挟み込んだ。

    「血液ほどではないだろうが、少しは糧となるだろう。」

     そう言って、ノースディンは私の唇に唇を重ねてきた

     待ってくれ。口と口を合わせる接吻など経験がない。押しのけようとはしたが、顔が少し離れると、ノースディンは言った。

    「こら、暴れるんじゃない。」

     ふっと全身から力が抜けた。もしかして、この男はチャームを私に使ったのだろうか。彼の言葉に私は抗うことができない。おとなしくなった私の唇を改めて塞ぐ。せめてもの抵抗で口を固く結んではみたが、吐息が直接触れる位置でまた囁かれた。

    「口を開けなさい。」
     
     駄目だ、彼の甘い声が耳から染み入るようで、どうしても従ってしまう。恐る恐る口を開くと、舌を差し入れられた。

     吸血鬼として今生に生まれ変わってから、口にしたのはドラルクが持ってきてくれる牛乳や具の少ないクラムチャウダー、固形物も試してみましょうと言って差し入れる粥、紅茶程度だった。

     しかし口中に差し入れられた彼の舌から伝わる唾液が、これまでに口にした何よりもおいしいと感じてしまった。味などさしてしないはずなのに。私はどうしてしまったのか?

     はしたないとは思ったが、私に口づける彼の首に自分から腕を絡めてしまう。すると彼は、そのまま私を寝台に押し倒して、接吻を更に深めた。

     彼は私の唇に唇をこすりつけ、差し入れた舌で私の口中をくすぐるように舐めて、舌を絡めた。気持ちいい。とてもおいしい。私も夢中で彼の舌を吸い、唾液を味わいながら喉を鳴らす。

     女性ともしたことがなかった深い接吻に頭の芯がぼうっとしてしまった。もう何も考えられない。

    「少しは腹が満ちたか?」

     ノースディンが顔を上げた。唇と唇のあいだに唾液の糸が引く。私達をつなぎ止めようとしているのだろうか。意識がもうろうとしながらも、また腕を伸ばして彼の首に回し、引き寄せてしまう。そんな私を見下ろしながら彼は笑って、ベッドに横たえられた私を抱きかかえた。氷笑卿との二つ名を持つ彼の体は、今や冷たく冷え切った私には温かく感じられた。
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    Replies from the creator

    pesenka_pero

    SPUR MEこちらの「密室( https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19509352 )」その後のノスクラ進捗です。私はとにかくこいつらをイチャイチャさせたい。
    密室その後 目が覚めると、私はそろそろ見慣れてしまったヴリンスホテルの一室のベッドに仰向けで横たわっていた。他の地のグループホテルのことは知らないが、ここ新横浜は吸血鬼が多いため、吸血鬼用に完全遮光仕様の部屋も数室用意されている。灯りの消えた室内は暗いが、今が夜なのか昼なのかよくわからない。

     私の上腕近くにはいつものように重みがあった。今更確認するまでもない。ノースディンが私の腕を枕にして眠っている。ああ、またやってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいになって、私は彼に向き直るとその体を抱きしめた。普段よりもひんやりしていた。私のせいだ。


     私はクラージィ。人間だった頃は悪魔祓いとして教会に仕え、黒い杭のクラージィと呼ばれていたが、二百年の時を経てこの新横浜に吸血鬼として目覚め、私を吸血鬼化した氷笑卿ノースディンと再会し、「昏き夢」という新たな二つ名を与えられた。ある日突然発動した私の能力に由来するのだが、その時の私は意識がもうろうとしていたため、何をしでかしたのか正確には思い出せない。
    1820

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