sign ナイフの柄が指先から離れる。その瞬間、バチバチッて火花が見えた。コレ絶対にうまくいく。ナイフ投げでも、空中ブランコでも、なんでも。うまくいくときは、今みたいに火花が見えたり、ビリビリって電気の糸みたいなのが見える。
澄んだ青にうっとりしていると、的に吊るしてあったリンゴが真っ二つに割れた。近くで練習していたジャグラーが口笛を吹いて、サルが落ちたリンゴを拾って食べる。
「調子良さそうだね〜本番もよろしく」
団長に頭をぽんぽんと叩かれて、私はニカッと笑い返した。ほっぺたを持ち上げると、フェイスペイントの雫が目尻にくっつきそう。この人に褒められて、私は嬉しいのかな、それとも悲しいのかな。
「そうそう、今日の的はトクベツになるかもね」
「え〜あんまり小さい体のマトはイヤだよ!」
団長は護衛を連れてテントを出ていった。私はため息をつくと、残っているナイフを宙に放おった。落ちてくるのを華麗にキャッチして的に投げる。
バチッ。また青い火がはじける。キレイなだなぁ。もっと見たくて、ポシェットにしまってあるナイフを全部取り出した。
バチッ。くるりとターンしてから一投。
バチバチッ。宙返りからの連続投げ。
今日はホントウにトクベツな日みたい。練習に飽きたみんなが私を見てる。でも、ゴメンネ。みんなの視線にも、歓声にも今は興味ないの。
バチッ。バチッ。息つくヒマもないくらい速さでナイフを投げる。連続であがる花火みたい。ナイフは的の一点めがけて飛んでいく。
あぁ、もう最後の一本。 惜しむように柄から手を離した。
(マミー)
離してしまった手は、ナイフよりも遠くに消えた。鼻の奥がツンと痛い。
「え?」
刺さると思った瞬間、的が炎に包まれた。青い火の中に、誰かが立っている。熱でふわりと舞い上がる髪の毛は炎と同じ青色で、私をじっと見つめる目も青い。その人が微笑む。そして、真っ白な手袋をした手を、ゆっくりと私に向かって差し出した。
バチバチッて、まるで雷に撃たれたみたいに私の心臓が脈打った。思わず伸ばしそうになった手を、反対の手で押さえつける。もう誰の手も離したくないから。
的にナイフが刺さって、パタンと後ろに倒れた。
あの人は、誰なんだろう。もしかして……私のトクベツになるヒトかしら? まっすぐに伸びてきた手を取ることができたら。私は祈るように両手をあわせて、ふりそそぐ歓声に向かってお辞儀をした。