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    sasaha_irm6

    @sasaha_irm6

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    sasaha_irm6

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    イルアズ・プランツドールパロの続き(2章冒頭部分)です。
    来年の2月もしくは3月に、1章とこの続きから最終章までのお話を1冊にまとめて発行予定です。

    1章
    https://www.pixiv.net/novel/series/8783188

    #イルアズ
    iluaz.
    #プランツドールパロ

    青葉、微笑む チチ、チチチ。
     アラームと一緒に、鳥の声が聞こえる。
    (朝かぁ)
     目を開けると、細い格子模様の欄間から、朝日が差し込んでいた。起き上がって目覚ましを止め、布団の上で伸びをひとつ。寝起きだけど、意識はもうはっきりとしていた。寝起きの良さには、もともと自信があった。けれど、最近はさらに調子がいいみたい。ゆっくり布団で寝ているからかな。今すぐにでも働けそうな気がする。

     布団をさっと片付けて一階におりた。雨戸を開けると、庭では紅葉や桜、南天が風にそよいでいた。
    (気持ちよさそうだぁ)
     縁側のガラス戸を開けてみる。すると吹き込む風に、髪や寝巻きの裾がふわりと揺れた。僕は目を細めてしばらく風に吹かれていた。
     縁側を伝って洗面所へ向かう。渋い焦げ茶の木の廊下はひんやりとしていて、洗面所へ着くころには足が冷たくなっていた。やっぱり、家って広いなぁ。家の中に水道があるのは、便利でありがたいけど……。蛇口をひねると、きれいな水がすぐに出てきた。冷たい水で顔を洗いながら、夜にくんでおいた水の使い道を考える。ため水自体もういらないのかもしれないけど、まだ止めるまでは踏ん切りがついていない。
     身支度をすませて、来た道を戻る。明るい縁側から階段のある薄暗い室内に入ると、視界がぼやけた。慣れるまでの間は、起きてるのにまだ布団の中にいるみたいな感じがして、少しだけ居心地が悪い。僕はある程度見えるようになったところで、階段をのぼるスピードを上げた。

     アリスくんの部屋の前に着く。僕は大きく息を吐いて吸った。アリスくんの部屋のドアを開ける時は、いつも緊張する。だって今の生活は、夢みたいだから。扉を開けたら、いつものテントで目が覚めてしまうかもしれない。心がざわついているのか、風で窓がかたんとなる音が、やけに大きく感じられた。
     ノックしてドアを開ける。すると、ほのかにハニーミルクティーの香りがした。アリスくんの好きな紅茶の香り玉と、ミルクの匂いが混ざった香りだ。
    「おはよう」
     ベッドの上に吊るした天蓋を開くと、アリスくんはベッドの端に腰掛けていた。ナイトキャップが少しだけ乱れているのが、かわいい。
    (待っててくれたのかな)
     そう思うだけで、気持ちが浮き足立つ。目が合うと、アリスくんが「おはようございます」って言うみたいに微笑んでくれる。その瞬間、ぶわっと頬が熱くなった。うっとりして、足元もふわふわして、やっぱり夢かなと頬に手を当てる。まだほてる頬をつねると、アリスくんが不思議そうな顔で僕を見つめた。
    「へへ、顔洗って着替えておいで」
     恥ずかしくなった僕は、アリスくんに朝の支度を促した。アリスくんはうなずいて、お行儀よくベッドを降り、部屋を出ていく。てとてと、とかわいらしい足音を聞きながらベッドメイキングをすませると、僕は早足でキッチンへと向かった。早くミルクをあたためなくちゃ。

     僕がコンロの火を止めるのと同じタイミングで、アリスくんが食堂へやってきた。
    「かわいい~。今日はセーラー襟のにしたの?」
     僕がほめると、アリスくんは恥ずかしそうにはにかんだ。きらきらと光る赤い目は、アリスくんの嬉しい気持ちを僕に教えてくれる。僕もうれしくなって笑う。すると、タイミングを合わせたみたいにトースターがチンとなった。
    「今、ミルク出すから」
     アリスくんがイスを引くのを横目に、僕は人肌に温めておいたカップにミルクを注ぐ。湯気とともに甘い香りが食堂へ広がった。ソーサーには銀色のスプーンと香り玉をひとつ添える。
     今日は薄い青色の地に、シロツメクサの描かれたカップを選んだ。住んでいた人の趣味なのか、食器棚にはカップとソーサーのセットがたくさん置いてあった。僕はステンレスのマグ一つしか持っていなかったので、これには本当に助かった。プランツに一番必要なのは愛情とはいえ、アリスくんにはできるだけ、お店にいた時と変わらない衣食住を用意してあげたかった。
    「はい、どうぞ」
     カップをサーブすると、アリスくんがお辞儀をしてくれた。僕は自分の食事をプレートに盛ると、アリスくんの向かいに腰掛ける。テーブルにカップひとつと大盛りのプレートが並んだ。こうして食べ物を比べると、アリスくんはドールなんだなぁ、と改めて思う。
    「いただきます」
     僕の手が皿へ、アリスくんの手がカップの持ち手へ、と伸びる。持ち手をつまんでカップを傾けるアリスくんは、貴族の子どもか王子様みたいに優雅だ。僕も姿勢を伸ばしてトーストをかじる。この家に来てから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
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    sasaha_irm6

    PROGRESSイルアズ・プランツドールパロの続き(2章冒頭部分)です。
    来年の2月もしくは3月に、1章とこの続きから最終章までのお話を1冊にまとめて発行予定です。

    1章
    https://www.pixiv.net/novel/series/8783188
    青葉、微笑む チチ、チチチ。
     アラームと一緒に、鳥の声が聞こえる。
    (朝かぁ)
     目を開けると、細い格子模様の欄間から、朝日が差し込んでいた。起き上がって目覚ましを止め、布団の上で伸びをひとつ。寝起きだけど、意識はもうはっきりとしていた。寝起きの良さには、もともと自信があった。けれど、最近はさらに調子がいいみたい。ゆっくり布団で寝ているからかな。今すぐにでも働けそうな気がする。

     布団をさっと片付けて一階におりた。雨戸を開けると、庭では紅葉や桜、南天が風にそよいでいた。
    (気持ちよさそうだぁ)
     縁側のガラス戸を開けてみる。すると吹き込む風に、髪や寝巻きの裾がふわりと揺れた。僕は目を細めてしばらく風に吹かれていた。
     縁側を伝って洗面所へ向かう。渋い焦げ茶の木の廊下はひんやりとしていて、洗面所へ着くころには足が冷たくなっていた。やっぱり、家って広いなぁ。家の中に水道があるのは、便利でありがたいけど……。蛇口をひねると、きれいな水がすぐに出てきた。冷たい水で顔を洗いながら、夜にくんでおいた水の使い道を考える。ため水自体もういらないのかもしれないけど、まだ止めるまでは踏ん切りがついていない。
    1893

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    青葉、微笑む チチ、チチチ。
     アラームと一緒に、鳥の声が聞こえる。
    (朝かぁ)
     目を開けると、細い格子模様の欄間から、朝日が差し込んでいた。起き上がって目覚ましを止め、布団の上で伸びをひとつ。寝起きだけど、意識はもうはっきりとしていた。寝起きの良さには、もともと自信があった。けれど、最近はさらに調子がいいみたい。ゆっくり布団で寝ているからかな。今すぐにでも働けそうな気がする。

     布団をさっと片付けて一階におりた。雨戸を開けると、庭では紅葉や桜、南天が風にそよいでいた。
    (気持ちよさそうだぁ)
     縁側のガラス戸を開けてみる。すると吹き込む風に、髪や寝巻きの裾がふわりと揺れた。僕は目を細めてしばらく風に吹かれていた。
     縁側を伝って洗面所へ向かう。渋い焦げ茶の木の廊下はひんやりとしていて、洗面所へ着くころには足が冷たくなっていた。やっぱり、家って広いなぁ。家の中に水道があるのは、便利でありがたいけど……。蛇口をひねると、きれいな水がすぐに出てきた。冷たい水で顔を洗いながら、夜にくんでおいた水の使い道を考える。ため水自体もういらないのかもしれないけど、まだ止めるまでは踏ん切りがついていない。
    1893

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    16natuki_mirm

    DONE忙しくて書けなかったワンドロお題を周回遅れで。
    本文に上手く入れられなかったんですが、「通常期まちを見たとたんにあずは悪周期から抜けちゃうから、あずに悪周期解放使わせるときは魔様モードになる魔王様」っていうのがやりたかったんですよ(本文でやれ)
    【イルアズワンドロ周回遅れ】悪周期 戦いは、苛烈を極めていた。
     新たな魔王がその座に就いてから、まだ日が浅い。支配は行き届いておらず、各地で小競り合いが頻発している。様々な勢力が、中央の目の届かないのを良いことに、その隙に影響力を広げようとしてはぶつかり合っているのだ。
     些細な勢力争い程度のことはなるようになるであろうと静観していたけれど、しかし、関係のない集落が巻き込まれて被害がでているとなれば黙ってはいられない。魔王は自ら側近を伴い、少数精鋭の手勢をつれて鎮圧へと乗り出した。
     はじめは投降を呼び掛け、話し合いでの解決を促そうとした魔王だったが、そんなことで場が収まるのならば最初から戦になどなっていない。いがみ合っていたはずの西軍東軍双方が結託し、魔王軍を追い散らそうと襲いかかってくる。こちらの軍勢はごく少数。いくら精鋭揃いとはいえ、数を頼みに押し切れると思ったのだろう。実際、前線に立つ兵たちは、烏合の衆を前に、倒されこそしないものの数の差に翻弄されて攻め倦ねている。
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