精神が猫っぽくなった︎🌟の話(両片思い🎈︎🌟)「司くん⋯⋯?」
セカイでおやつを食べたら眠くなったので、ベンチでお昼寝をしていた。大好きな匂いがすると思って起き上がると、隣に類が座っていて、嬉しくなって抱きついた。
「えっ、わ、ちょっと司くん!?」
類の首元で深く息を吸うともっといい匂いがする。おれの大好きな、少しだけ甘い、落ち着く匂い。でも類はびく、って震えたあと、もぞもぞしておれから離れてしまった。寂しい。
「寝ぼけてる⋯⋯?誰かと間違えたのかい?」
おれが類を間違える訳ないだろ!なんとも不遜な事を言う類にムカムカして、なぁん⋯⋯と低い唸り声が出てしまった。類は、「何かセカイが司くんに影響を与えているのかな⋯⋯」などとブツブツ言っている。失礼な事を言っておきながら、さらにおれを放置するとは。勝手なやつだ。
ムカムカが溜まってきたからか、さっきから身体にまとわりついている布も、肌触りがごわごわしていて鬱陶しく感じてきた。白い布から身体ごと引っこ抜かせるために頭を縮こませてみるけれど、上手く抜けられない。首元の変な紐みたいなのも邪魔だ!
「なぁん!んにゃ。」
「え?何だい?⋯⋯⋯あぁ、ネクタイが苦しいのかな」
さすが類!おれが助けを求めるとすぐに理解してくれて、首の紐を取ってくれた。しかしまだ布から抜けられない。見ると、首元から布の下の方にかけて小さく丸い物が並んでいて、それが布を固定しているせいで、おれはこの布から抜け出せないようだ。手でくいくい、とひっぱると、一番上の丸はするんと抜けて、ちょっとだけ首元が楽になった。
「わ、司くんっ⋯⋯ダメだよ!」
どうだ、すごいだろう!類がなにか慌てていたが、とにかく褒めてもらうために、丸が外れて空いた首元が見えやすいように少し屈んでみせたのに、類は何も言わない。ちょっとだけ顔を赤くして、びっくりしたように固まっておれの首元をじっと見たかと思えば、慌てたように立ち上がった。
「さすがにこのままにはできないな⋯⋯カイトさん達を呼ばないと⋯⋯」
「う!!」
おれを置いてどこかに行こうとする類の腰に手を回して捕まえる。類はあたふたとするけれど、今はとにかく類と離れたくなくて、腕の力を強くする。行かないでくれと願いを込めて類を見つめると、類は「うぅ⋯⋯」と言いながら目を逸らしたが、また座ってくれた。目が合わないのは寂しいが、そばに居てくれるのが嬉しくて、類の膝を枕にしてベンチに寝そべる。ふふ、これで動けまい!
類はというと、ベンチの上でくしゃくしゃになっていた、さっきおれが食べたおやつの袋を拾って見つめている。それはそうと下から見ても類の顔はかっこいいな!
「なるほど⋯⋯意識だけ猫に近づいてしまって、人間としての意識や記憶が曖昧になっちゃってるんだね⋯⋯」
「ぅにゃー?」
「⋯⋯⋯あんまり心配させないでくれるかな。変なものを食べて、もしも君に何かあったらと思うと気が気じゃないよ。」
類の少し冷たい手が、おれの前髪をさらさらと撫でる。ちょっと怒ってるような言い方をしているのに、心配そうに眉毛は下がっているし、手つきはとても優しい。全部ちぐはぐだけど、おれの事を思ってくれているんだとわかって、胸が何かにつつかれてるかのようにくすぐったい。すき、すきだ。類に優しくされると、すきの気持ちが止まらなくなる。
寝転がってなんていられなくて、類にもう一度抱きつく。今度は剥がされなかったし、あーとかうーとか言った後、類もおれの背中に手を回してくれた。嬉しい。うずうずする気持ちがたまらなくなって、類の匂いが一番濃い首にかぷりと口をつけたら、「ぅわ!?」と、類にしては珍しく驚いた声を出した。見ると、美味しい柿みたいに赤い顔をした類が目を大きく見開いていた。食べられると思わせて怖がらせてしまっただろうか。ごめんなさいという気持ちを込めて類の唇をぺろりと舐めたが、類は一段と大きく震えた後やっぱり動かない。今度は怒ってしまったのだろうか。おれだって類がすきだという気持ちを伝えたいのに、どうにも上手くいかない。
怒った類に離れろと言われるのが怖くて離れようとした時、類の親指がおれの唇に触れた。
「⋯⋯⋯このお菓子の効果が出ている間の記憶も、曖昧になったりするのかな······」
下唇を上から下にぷるん、と弾くように撫でられて、なんだか恥ずかしい。おもちゃみたいに口を触られて、恥ずかしいのに、ちょっと嬉しくて、もっと触って欲しいとさえ思う。類がごくりと何かを飲み込んで、ゆっくりと顔が近づいてくる。お返しにおれも舐められるのかな、なんてドキドキして唇に力を込めた。けど、待っていた刺激は来ず、想像していたよりもずっと柔らかい物が額に優しく触れた。
ゆっくり唇が離れる。
霞がかっていたかのような脳内が一気に明瞭になり、何をされたのかゆっくり理解していく。自分から仕掛けてきた癖に、口元を抑えて視線を逸らす類に、言いようのない愛おしさが込み上げた。もう一度して欲しい。今度はちゃんとこの行為の意味がわかっている状態で。オレの目を全然見てくれない恥ずかしがり屋のおでこに、今度はこっちから唇を押し付けてやった。
「類、好きだ」
見開いた類の目があまりにも大きくて、こぼれてしまいそうだなと呑気に考えていた。
朝。家の前で会った幼なじみはやたらと欠伸を噛み殺していた。話を聞いてみると、やたらと良い夢を見たものの途中で目が覚め、そこからどんなに眠ろうとしても、逆に目が冴えて眠れなくなり、そのまま朝を迎えたらしい。
類のぽやぽやとした目元は寝不足のせいか、それとも夢の内容のせいか、ほんのりと赤い。恐らくここにはいないワンツーの片割れに関する事だと思う。けれど、こういう事は深入りせず放っておいてあげるのが幼馴染としての優しさだと思う。決して面倒臭い訳じゃなく。
ぼーっとしながら準備したんだろうな。シャツの裾の一部がスラックスに入り切らずに垂れてる。朝から大声で注意する司が目に浮かんでげんなりしていると、類のスラックスの膝の上に辺りに細かい毛のようなものが付いているのが見えた。声をかけようかとも思ったけど、まだ半分夢見心地な類を現実に引き戻すのも悪い。変人ワンに構ってもらう口実ができて、類も嬉しいよね。
動物に身体を擦り寄せられたかのようにびっしりと付く細かい毛には気づかないフリをして、わたしは学校へ歩みを進めた。