狂い咲く花は風を乱吹く20俺は兄弟達に比べて、頭はそれほど回らない。
だから…だから、考える事も、選択するのも、全部兄弟達に任せていた。
俺の強みは「力」だ。
だから俺は兄弟達の、兄貴(ユディシュティラ)を支える為の道具だ。
父、パンドゥーはそれを望んだ。
だから…
だからそういう生き方にした。
パンダヴァ五王子が「力のビーマセーナ」
「ビーマ、また彼等を傷つけたのかい?」
これは父王が死んで、叔父のドリタラーシュトラ王の宮殿に住み始めた頃の記憶。
幼い自分は神の力を制御できなく、従兄弟の百王子を傷つけてばかりだった。
「ドゥリーヨダナが怒っていた。明日、私も一緒に行くから、謝りに行こう」
反省と罪悪感で俯いていた俺の頭を兄貴は撫でてくれた。
でも
「…ユディシュティラ、どこへ行くの?今からドリタラーシュトラ王との面会の時間ですよ」
母は次期王候補者の兄を連れた
「ビーマ?何をしてるの。貴方は早く百王子の所へ行きなさい。ドゥリーヨダナと遊びなさいな」
そう言われて百王子のいる場所へと置かれて、俺は居心地悪かった。
力のコントロールができない事を母に相談したのに、母はそれに対して何もしなかった。毎日毎日、百王子と衝突し、彼らを傷つけてしまう。
どうすればいいのか解らない
謝ろうとしても結局それは受け入れられない
相談しても誰も助けてくれない
嗚呼。やはり自分は間違いしか選択できない。
正しくない。
力だけの取り柄の自分は、やはり正しくない選択しかできないのだ。
嗚呼、兄貴が居れば、「こんな事」にはならなかったのだろうか
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「…兄上は俺達を守る為に自ら霊基から俺達を引き離した。
本来なら、この霊基は次男である「ドゥフシャーサナ」兄さんが主軸してるんだけども…パンダヴァとも手を組みそうだから。その場合だと生前はパンダヴァと良好関係であった僕をメインにって調整してくれたんだ、あの「兄上の事を誰よりも大好きな兄さん」がね」
百王子の末弟、ヴィカルナは淡々と事の出来事を伝えた。
「兄上から、マスターを守り、特異点を修復しろと伝わってる。百王子はいつでも貴方の命令に従うよ、マスター。」
「ありがとう…、で、でも…」
藤丸は遠くで暴れている獣を目にした。
それはバビロニア特異点であったティアマトの如く、巨大化し獣へと堕ちたスヨーダナ。禍々しい巨大な角が生え、彼の赤紫陽花色の瞳は人外の緋色に変わり白い眼球は黒に染まっていた。鋭い牙を何本も生やし、獣は大きく咆哮を響かせる。その咆哮から禍々しい呪いのような悪意を感じるが、同時に悲しみに満ちた哀しい訴えであった。
「……うん、解ってる。覚悟は…できてるよ。…ありがとう、マスター。やっぱり君は優しい娘だね。でもどうか兄上の願いを、叶えてほしいんだ」
「…………」
ヴィカルナの言葉にマスターは下を向いて俯いた。
『…立香ちゃん、先ほどみんなと話し合った。特異点の王であり、ビーストVIIのスヨーダナ、すなわちドゥリーヨダナ・オルタを撃破せよ』
「!」
「!!」
藤丸とビーマはその命令にピクリと反応した。目の前の敵はカルデアのヨダナではないが、それでも
『現在、応答普通のカルデアのサーヴァント、ビーマ・オルタことヴリコーダラ。もし彼が邪魔すれば、カルデアからの魔力供給を断つ。必要あれば令呪で自害するように命じるんだ』
「………」
藤丸立香はなにも言えずにただ地面を見て俯いたままだった。
…しかし色々な経験があったゆえに少女は意を決して顔を上げた。
「…了解」