おねむ 仕事が終わり家のドアを開けるとふんわりと花畑のようないい匂いがする。
玄関にはスニーカー。
靴を脱いで部屋に入るが部屋の空気はしばらく動いた気配がない。
(寝てるのか)
俺の番は気まぐれで何の連絡もなくふらっと家に来る。そして自由にこの家の中でのんびりと過ごしている。まるで猫のようなパートナーだ。
寝室に行くとベッドには俺の服がこんもりと積まれその真ん中で丸くなってすやすやと眠っている。
(こうなると本物の猫だな)
柔らかで穏やかないい匂いが部屋中に充満している。発情期のソレではないので下半身が疼く事はあまりない(多少はある…まあ、あるか?あるな)が寝顔の愛しさに負け、思わず指でほっぺをつんつんしてみた。ぷにぷにと柔らかくて心地よく調子に乗って何度か押したら番が目を覚ました。青と緑のオッドアイはまだ少ししか開かず微睡の中ぽーっと俺を見つめる。
「じゅーとぉ?」
夢と現の境にいるのか小さな声で俺に確認を取る。その表情と言い方が可愛すぎて思わず顔が綻ぶ。ちょっと目が開いて
「おかえりなさい」
と起き上がる気もなくそのままへらっと笑う。俺は上着だけ脱いで三郎の隣に横になる。すると三郎が俺にぴったりとくっつく。そして俺の胸に顔を埋める。
(こ、これは……お誘いと受け取っていい、のか?)
そう思い抱き寄せると、
「苦しいから離して。触んないでいいから」
と眼球だけこちらに向けて睨むと大きく鼻から息を吸う。
「……銃兎、いい匂い。仕事の後の匂い、好き」
そう言って俺の胸元でスーと大きく何度も吸われ続ける。グーにした手で隙間の調節をしている様が猫のふみふみする行動に見えつい甘やかしたくなる。
発情ではなく安心を求められたようだがこれも番の特権だなと悦に浸る。
あとでゆっくり愛情表情をしてやろう。