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    kadota_zy

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    kadota_zy

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    たいらさん夢です

    たいらさん夢 高校生活において、席替えというものは今後のスクールライフがハッピーに送れるのか、はたまたアンハッピーになってしまうのかが決まるといっても過言ではない、つまりはビッグイベントである。
    「ああ~神様、仏様~」
     祈るような気持ちを抱えながら、順番のまわってきたくじ引き箱とご対面する。長い夏休みが明け、教室内にはちらほらと日焼けで黒くなったクラスメイトがいるなか、日に焼けることもなく平凡な休みを過ごした真っ白な腕を、くじ引き箱のなかに突っ込んだ。何枚か紙の質感を確かめながら吟味したあと、勢いよく引き抜く。
    「えいっ!」
     書かれていた数字は、五番。
     一桁ということは、つまり……一番前の、席である。
    「うわぁ~! 最悪……やってしまった……っ」
     席替えで興奮が漂う騒がしい教室内に馴染む、私の阿鼻叫喚。これでは今後のスクールライフはアンハッピー確定演出である。お先真っ暗だ。あの席は絶対、先生とよく目が合っちゃう席じゃん。脳内ではぶちぶちとそんな懺悔が止まらない。
    「はい、みんな荷物持って新しい席に変わってね~」
     様々な感情が飛び交う生徒たちの表情をここぞとばかりに楽しんでいる担任に指示され、一斉に席替えが始まった。重く暗い気持ちを引きずりながら席を移動すれば、隣から明るく声を掛けられる。
    「なんだ、新しい席の隣はお前か~。仲いいやつで良かった。よろしくな」
     爽やかな笑顔で話しかけてきてくれた相手を、まじまじと見つめる。相手の容姿を再確認すれば、どくんと心臓が大きく跳ねた。話しかけてきてくれたのは、中村……平くん……。わたしの、片想いの、人……。
    「えっ! 平くんがとな、隣!? よ、よろしくお願いしますっ」
     一番前の席ということに思考が支配されすぎて、周りの席の名前などまったく確認していなかった。急に頬が熱さを増してくる。サッカーの練習でよく日に焼けた平くんは窓際の一番前の席で、「前の方は苦手なんだけど、お前が隣なら俺はくじ運良かったってことだなー」と呟いている。会話相手を嫌な気持ちにさせるどころか、嬉しくなるような、期待させるようなことを言ってくる平くんはずるいと思う。なにか言わなくちゃと思えば思うほど、きゅっと喉が塞がって言葉が出てこない。夏を置いていくような、どこか切なさが増しつつも眩しい九月の陽射しが窓ガラスに反射している。窓から見えている青々と茂っていた木々の葉は、いつの間にか所々が少しずつ赤に変わりつつある。……そういえば、夏休みの前に比べると平くんの体はなんだか逞しくなっているように思える。サッカーの練習、結構たいへんみたいだよ、と寮近くに住む友人から教えてもらった。私にできることと言えば、邪魔にならないように恋心をひた隠して、彼を応援することしかできないけど……せめて、せっかく話しかけてきてくれたのだから、精一杯の笑顔で、気持ちを伝えたい。
    「あ、ありが……とう……。そんなふうに言ってもらえて、嬉しい」
     顔が赤くなっていることに気付かれないようにと、無意識のうちに左手で頬杖をついた。好き、ってこと……バレてないよね。変な顔してなかったよね、私。ようやく席移動を終えた教室では、担任がホームルームの内容を告げようとしている。落ち着かない鼓動でもう一度、ちらりと平くんの姿を盗み見る。なぜか平くんも右手で頬杖をつきながら、こちらを見つめていた。
    「なぁ、さっきからこっち見過ぎだって。そんなに見られたら、流石の俺でも照れるから」
     雑音が溢れている空間のなかで、やけにはっきりと平くんの恥ずかしそうな声音が耳に届いた。私の心臓はまた、ぎゅっと縮こまったあとに大きく跳ね上がった。
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    kadota_zy

    DOODLEまきあき。青森星蘭戦後、秋山さんと槇村さんが連絡を取り合うまでの空白時間の小説です。
     青森星蘭高校との激闘を終え、秋山は何としてでも槇村に伝えたいことがあった。サッカーに賭ける想いは変わらない。それは試合を通じて十分に理解できた。しかし、まだ確認しておきたいことがある。大切に思ってきたからこそ、槇村と繋がっている糸を切らせたくはなかった。トイレに行ってくる、とチームに告げて集団から抜け出すと、青森星蘭高校が荷物をまとめているであろう場所をぐるりと見回す。冷めやらぬ熱気を抱えた観客たちからは、「優勝おめでとう」と労う声が秋山へ飛んでくる。会釈をしながら見慣れた背中を視界の隅に捉えると、秋山はすぐさま自動販売機の裏側へ駆け出した。
    「槇村!」
     槇村はひとりスタジアムの片隅で静かに泣いていた。試合終了後に崩れ落ちていた彼の周りには幾人ものチームメイトが集まっていたが、いま近くには誰もいない。人一倍、責任感の強い槇村のことだから自らひとりになりたかったのだろうと秋山は推測する。かつてのチームメイトがどこにいようが探し出してしまえる己の才能に、感心すらしてしまえる自分がいた。反射的にこちらを振り返った彼の目は赤く腫れ、頬は濡れている。名前を呼んだ人物が誰なのかを悟った槇村は、ちいさく「なんでお前がここに……」と唸った。そして秋山がなにかを言う前にと、踵を返してその場を去ろうとした。
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