貴方は丸い目を瞬かせながら、屈んで花たちに視線を落とした。黒い瞳が花々に彩られ、きらきら光って綺麗だ。
「お庭のこんな隅っこにも、お花畑があるんだね」
些細な問い掛けに滲む興味や関心が嬉い。
「ここは品種改良用の花畑っす。主様のために、より綺麗に咲く新しい品種を作れないか試してるんすよ」
「ふうん…………」
オレが雑草を毟る手を止めて答えると、貴方は花たちをじっと見つめて、何か悩み始めた。そのまま数十秒が経って、やっと顔を上げる。
「じゃあさ、一番綺麗に咲いた花には、私の名前を付けてよ」
「え?」
笑顔で告げられた言葉は、一瞬理解できなかった。花に、主様の名前を……?
戸惑うオレをよそに貴方は立ち上がって、花たちの周りを歩きながら、まるで歌うように話す。
「例えばさ、グロバナー家のパーティーなんかに出席するとき、私がその花を挿して行ったとするでしょ? そうしたら、その花の美しさに感銘を受けた貴族の誰かが、その花の種を買うの。それが切っ掛けになって、まず貴族の間で大流行して、間もなく世界中の憧れの的になるの!
そのときに、デビルズパレスの主である私の名前が付いていたら、きっとそこで庭師をしている執事が育てた品種なんだって皆気付くでしょう? アモンが私を想ってくれた気持ちが世界中に根付いて、確かに残るの。素敵じゃない?」
首を傾げて笑ったその顔が、とても眩しかった。
「見てくださいっす、主様。あのとき言っていた花が、とうとう今朝咲いたんすよ!」