冷静さを忘れずに新たな特異点が発生する、それはすなわち新たなサーヴァントと縁が結ばれることとほぼ同義である…次々と増えていく有様に軽く引いていたものの、最近じゃあとりあえず何とかなるかで済ませている自分がだいぶここに毒されてきたと感じる今日この頃だ。
「洞窟の中で卵を見つけて、パカッと割れると中からチビーネちゃん…あっ、その時はチビドラちゃんか!」
「ふぅん…で、おまえがソイツを育てたと?」
「どちらかって言えば、お手伝い…って感じかな?最後まで頑張ったのは、あの二人だもん!」
「そうか、何にせよ無事解決してよかったな」
上機嫌な満面の笑みで今回の出来事を語る立香が、こうして帰還後にいきなり僕のところへ訪ねてきて…ということにも、今ではすっかり慣れたものである。
「一応、サーヴァントなんだよな?」
「どっちかと言えば、その分身?最初は歩いたり走ったり…成長するとね、飛べるようにもなるの!」
こんな感じでと大げさなジェスチャーを交えつつ、テンションも高めに説明する様子も自分の中ではごく当たり前の光景と化していた。
「成長、ね…“可能性の竜”、だったか?」
「そう!炎が吹けるようになったり…あとは風とか、雷まで起こせるんだよ!」
「まぁ、竜と聞いてイメージする姿は…」
なので、軽快な口調で話すのがぜんぜん止まらない立香に対して…よく飽きもせずと若干呆れつつ、僕も適当な返事をしながらゆるく付き合ってやっている。
「能力を見ても、味方として心強いし」
「確かに!できることもたくさん増えて、どんどん大きくなってさ…お別れは、寂しかったけれどね」
「…忘れずにいてやれ、それくらいしかできないが」
最後には円環の蛇であるウロボロスの片翼として、特異点修復の鍵を担ってくれたらしいだが…後日召喚された本人に、記憶は持ち越されなかったようだ。
「なるほど、子離れってこういう…わたしって、実はやっぱりママだったのかも」
「いや、何をどうしたらその発想が浮かぶんだ?」
そんなことはさておいて、相変わらず突拍子もなくおかしなことを言い出したわけなのだが…一瞬だけ、家族を名乗る不審者どもの顔が脳内を過ぎる。
「話をややこしくするな、これ以上」
「えぇ?言われてみたらわたしの子、みたいなものじゃん?つい構いたくなるというか…」
「知るか、どうでもいい」
とにかく一人で勝手にあれこれとやけに楽しそうな様子の立香に、僕は無愛想な態度を取ってしまって…自分でもくだらない理由だと気づいているものの、うっかり口に出したせいで撤回もできなかった。
「…いいから僕も構え、放ったらかしなんだが?」
「ふぁっ!?君、時々可愛いことするよね…」
見知らぬ相手、しかも産まれたばかりでまだ無垢な存在なのに…こんな嫉妬じみた感情を向けるなんて、おかしいのはどう考えたって僕である。
「喋るだけ喋って帰るつもりだったんだろう、どうせ」
「すぐ拗ねる…はい、もう許して?」
「おまえな…さんざん聞いてやった礼がこれか?」
「むむっ?急に怒ったのはそっちのくせに…」
何を察したのか、まるで僕を諭すような立香に頭を撫でられ…そこで素直に絆されてやってもよかったのだが、いつもと立場が逆転していることにだんだんと悔しさの方がこみ上げてきた。
「悪いとは思っている…でも、別にいいよな?」
「うにゃあ!?近い!カドック、近すぎ!」
「はぁ、本当におまえはいつ慣れてくれるんだよ…」
少しばかりからかって紛らわせようと、半ば強引に身体を引き寄せた途端…気の抜けた声と慌てふためき手足をバタつかせる姿にニヤリと口角を上げて、次は何を仕掛けようかと企んでみる。
「ボス…じゃない、マスター!こちらにいられると聞いて、少し相談が…うわわっ!?お、お取り込み中でしたね!失礼しました!」
唇が触れるか触れないかギリギリのところで、突如として現れた例のサーヴァント…その本体とも言えるビショーネはすぐに出ていったが、このタイミングで対面するという何とも言えない気まずさが漂っていた。
「え、えっと…続き、したいです?」
「…僕はちょっと頭冷やしてくるから、立香も自分の部屋に帰っていいぞ」
「あはは…だ、大丈夫!わたし待っているね!」
元気よくそう返されても、これはこれでどうしたらいいのやら…余計なことはするべきじゃないよなと、深く反省した僕なのである。
おまけ
「昨日はすみませんでした!以後、気をつけます!」
翌日の朝、食堂でたまたま再会したビショーネから平謝りされたのだが…場所も場所なだけに、何事かと僕まで注目を浴びてしまう。
「誰にも言いませんので、どうぞご安心ください!」
「お、おう…できれば、声を小さく…」
「繁殖行為は自然の摂理ですから!蛇も竜も人も、みんな同じで安心しました…もごごっ!」
「いいから黙れ!違う、僕は何もしていない!」
あらぬ誤解を招きかねない発言で、外野は何故だか大盛り上がり…そこへ運悪く通りかかった立香も話を聞いてしまったことで、さらに混迷を極めていった。
「うわぁん!カドックの浮気者、普通の女の子じゃ満足できないんだ!」
「だから、そうじゃないと言っているだろう!?おい、言うだけ言って逃げるな!」
いつもの痴話喧嘩かと飽きたらしい周りの連中も、何やらいまいちピンときていないビショーネも…全員無視して、僕はただただこの理不尽と戦っている。