特別な一枚を今年も巡ってきたこの季節のイベント、昨年に引き続いてマスターとの撮影会が開かれることが決まっていた…そこに加えてスタッフ全員も巻き込んだお祭り騒ぎへと発展、いつも以上に僕達のカルデアは賑わいを見せている。
「立香、来てやったぞ…うわっ、本格的なセットがある」
「あははっ、いらっしゃい!そっちの撮影ブース、行こう!お着替え、持ってきた?」
「言われた通りに…なぁ、本当に僕でよかったのか?」
「もちろん!今年はね、カドックと一番最初に撮りたかったの!」
満面の笑みでそう答えるカルデアのマスターこと藤丸立香は、僕の後輩かつ恋人でもあって…どうにも彼女が時々見せる無邪気な一面に弱いため、渋々ではあるがイベントに参加することとなったのだ。
「相変わらず多いな、おまえの礼装って」
「でしょう?今日だけじゃ終わらないと思って、数日間は空けておいたんだから!」
「…僕、後で刺されたりしないか?」
そのおかげでマスター過激派のサーヴァント達から妬まれること必至な状況が生まれたものの、何かと多忙な立香をしばらく独り占めできるのは…正直、嬉しく思ってしまうのもまた事実である。
「さてと…じゃあカドックが何を持ってきたのか、まずは見させて!」
「大したものはない…あと、この辺は押し付けられた」
「おぉ?あっ、いいもの見っけ!これで撮ろう!えっと、他には…」
「マジかよ…わかった、付き合ってやる」
それは心の中に秘めておくとして、なおもはしゃぐ彼女にやれやれとため息をつきながら…断りきれない自分も大概だと自嘲して、せっかくもらえた逢瀬の時間をありがたく過ごさせてもらうことにした。
「で、何から始めるつもりだ」
「最初はね…やっぱり、決戦礼装!カドックも、今着ているやつで!」
「いつもと変わらないけれど、いいのか?」
いそいそとカメラをセットしながら、お揃いみたいで好きだからと臆面もなく言ってのけた立香…こういう奴だったと不覚を取られたが、本人のやりたいようにやらせている。
「ふ、ふふっ…カドック、サングラス似合っているじゃん」
「笑うな、外していいか」
「ごめんごめん!ねぇねぇ、一緒にエプロンも付けてみてよ!」
「やめろ立香、せめてどっちか一つに…」
おもちゃにされているというか、着せ替え人形扱いというか…さすがに悪ノリが過ぎる時は窘めるけれど、僕も何やかんやありつつけっこう楽しんでいた。
「…何が言いたい、そんな顔して」
「卑屈な少年時代のカドック、と思ってちょっと懐かしんでいました!」
「おい、はっ倒すぞ」
「きゃあ、怖い!そう考えると…丸くなったんだね、君も」
ただ、礼装以外に私服も見たいとのリクエストにしょうがなく以前着ていた服を引っ張り出してきた結果…立香から小馬鹿にされ、態度も拗ねた子供みたいになってしまったのは自分でもどうなんだと思う。
「はぁ…とりあえず、満足したか?」
「うん!残りは明日以降かな…そうそう!カドック、水着ある?」
「ない、と言いたいが…何故か持たされている」
それはさておき、今回も様々なロケーションを想定していると聞かされてはいる…そしてどこからともなく現れた狂人、もとい職人のミス・クレーン達に手渡された荷物の一つに水着も含まれていた次第だ。
「別に、あっても困らないし…ほら、サウナでも着られるから」
「えっ?何で突然サウナ?」
「言われてみれば…ふと頭に浮かんだだけで、意味はないがな」
「あれっ、でも確か…いいや、次の背景は海にしよっか!」
それを見た時に僕は不思議と既視感を覚えたが、たぶん気のせいだろう…予定もだいたい決まったことだし、今日のところはお開きとする。
「へへっ…また一つ、思い出作っちゃったね!写真、君にも送ってあげる!」
「任せた、適当に見繕ってくれ」
「了解!可愛くデコっておくから、お部屋に飾ってもいいよ?」
「だ、誰がそこまでしろと…立香?フリじゃないぞ!?」
あと数日こんな調子で大丈夫なのか不安を残してはいるが、立香になら振り回されるのも悪くない…そう思っている時点でだいぶ毒されているなと、満更でもない顔を隠すのに必死な僕なのであった。