春はやってくるカレンダーの上では穏やかな春を迎えたものの、相変わらず日々忙しくさせてもらっていて…けれど根を詰めすぎてもよくないからとしばらく休暇を与えられ、どうせならシミュレーターを使ってのピクニックを提案したである。
「よしっ、いい気分転換になりそうだよね!」
「何がよしっ、なんだ…毎回、僕を巻き込みやがってさ…」
「えぇ?人数多い方が盛り上がるじゃん?」
「疲れも溜まっているから、身体を休めろ…ってことじゃないのか、この休暇」
一人で行ってもつまらないから同じ状況のカドックに声をかけ、あれよあれよと準備を進めて今に至るわけだ…彼の言いたいことも何となく理解できるけれど、ジッとしていられない性分らしいのでその辺は許してほしい。
「カドくん、すっごくたのしいね!」
「あんまりはしゃぐなって、こけてもしらないぞ?」
「そ、そんなことしないもん!みてみて、こうえんがある!」
すっかりお馴染みとなった子供達も誘えば嬉しそうに乗ってくれたのでさらに環境を整えてもらい、お弁当片手にちょっとしたお出かけ気分を味わいつつ…周りの景色にも目を向けると、桜を始めとした春の花々が所狭しと咲き誇っている様子は圧巻の一言だ。
「ちゃんとまえをみろ、あぶないだろう」
「はやく、はやく!もう、おいていっちゃうよ!」
「だから…リツカ、はなしをきけ!」
サーヴァントかスタッフの誰かに言われた、カドックとのやりとりそのまんまだという関係性も微笑ましいというか何というか…わたしって、そんなに人のこと振り回しているんだと少しばかり気恥ずかしくなっている。
「結局、また子守りさせられるわけか」
「文句言わない!断るつもりなかったくせして…荷物持ちありがとう、パパ♪」
「…父親になった覚えはないぞ?まだ、な」
「ふふっ…ねぇねぇ、そろそろお昼ごはんにしようか!」
前を行く二人の小さな背中を追いかけながら、隣を歩く彼に声をかけると照れたようにそっぽを向いてしまった…そういうことをするから余計構いたくなるのにと言いたくもなる、けれど反撃が怖いので一旦やめておこうか。
「今日はスペシャルランチです!りっちゃん達、手は洗った?」
「はぁい!すごいすごい、おにぎりたくさん!わぁい、いただきます!」
「ぼ、ぼくはこのサンドイッチで…」
レジャーシートを広げてみんなで座り、まずは子供達が食べたいものを好きなように取っていってもらった…それから嬉しそうに頬張り始めた姿を見ていると、わたし達二人も自然と笑みが浮かんだのは言うまでもない。
「しょうがない、たまには贅沢してもいいか…んっ?どうしたんだ?」
「あのね、そっちのもたべたくて…ダメ?」
「いいんだよ、まだいっぱいあるから遠慮しないで!カドくんも、ね?」
「うん…あとでもらうよ、ありがとう」
のんびり過ごすことができるのも、ひょっとしたら今のうちかもしれないけれど…細かいことは後回しにして、口に運んだおかずの美味しさに小さな幸福感を覚えたわたしなのである。
「リツカ、かおについている…へたくそだな、たべるの」
「あれ?ほんとうだ、きづかなかった!」
「はんぶんにしたらいいとおもうぞ、こうやって…ほら」
「えへへっ…カドくん、やさしいね!」
そんな中でわんぱくな食べっぷりを見せるりっちゃんこと小さなわたし、子供の頃こんな感じだったんだとまたしてもむず痒い気持ちになっていると…カドくんこと小さなカドックに、ほっぺたについたご飯粒を取ってもらう光景を目の当たりにした。
「ちょっとそこの奥さん、今の見ました!?」
「誰が奥さんだよ…それと立香、おまえも大して変わらないぞ」
「はへっ?何のことです…カドック?」
「成長していないじゃないか、こんな所にくっつけてさ…」
からかい半分の冗談めいた言い方でカドックに同意を求め、振り返った瞬間に目を細めながら見つめられたので何だろうと首を傾げた瞬間…スッと手が伸びてきて何事かと身構えたが、次に待っていたのは思いがけない行動である。
「もしかして、ワザとやったのか?僕に取ってほしくて…ふぅん?」
「違いますよ!?しかも、食べちゃったの!?」
「立香、うるさいぞ…食事の時くらい、大人しくできないのか?」
上手いことしてやられた感は否めない、そして人前であることも忘れて声を上げると…ワザとなのはどっちなんだと言わんばかりに、大きなため息をつかれてしまった。
「おにいちゃんとおねえちゃん、どうしちゃったのかな?」
「あれは“バカップル”ってやつで、ほうっておけばいいんだとさ」
「りつか、よくわかんない…なかよしさん、ってこと?」
「それでいいかな…キレイにたべろよ、またこぼしちゃうから」
どうしようもないやりとりをするわたし達と比較して、何だったら子供達の方が落ち着いているんじゃないか…おそらく彼も似たようなことを考えたのだろう、互いの間に微妙な空気が流れていくのを感じてしまう。
「おまえだろう、変なことを教えたのは…」
「何でさ…あんなこと、普通は自分で言わないでしょう?」
「それは確かに…じゃあ僕達も、ひとまず“仲良く”しておこうか」
「やだ、カドックが言うと意味深…に、睨まないで!」
想定していた方向からだいぶ外れていったけれど、賑やかで温かい気持ちになれるひと時は何にも代えがたいもので…だからもう少しだけ続いてくれたら、そう願わずにはいられなかった。