光の連なり 歯みがきを終えてリビングに行くと、ベランダに続くガラス窓が開いていた。俺はまた狡噛が煙草を吸いに出たのかと思い、蒸し暑い風が吹き込んで来るその窓をくぐる。するとやはり彼はスピネルを咥え、空になったハイネケンの瓶ビールを足元に置いていた。
狡噛が見つめているのは高層ビル群のきらきらとした夜景と、その裏側に位置する猥雑な地域のどぎつい色味のネオンだった。彼はそれを等しく愛しているように思えて、俺はそんな恋人の仕草に安心感を覚えた。
狡噛は等しく人を愛する。博愛主義者と言ってもいい。赤の他人のために大切な全てを捨てられる人間なのだ、彼は。槙島に出会う前の彼を知っている者ならきっとそれを理解してくれると思うが、あの男に出会ってしまった後の彼しか知らない者なら、それも難しいかもしれない。何せ狡噛は長くあの犯罪者に執着していたので、そのせいで自分が身につけてきた者全てを捨ててしまっていたので。
2815