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    readme0325

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    readme0325

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    言わせたい上条さんの話

     ごろごろごろごろごろ。

     そう聞こえて来てもおかしくないな、と。
     隣で寝転ぶ毒気の抜けた寝顔を眺めながら、上条当麻はそんなことを思った。
     
     昼下がりであった。窓から差し込む木漏れ日が、静かに寝息を立てる恋人の輪郭をやわらかくなぞる。薄く開いた唇からは規則正しい吐息が漏れ、時折小さく身じろぎすると、ふわりと髪が揺れる。
     上条は枕の上に肘をつきながら、その光景をぼんやりと眺めていた。
     安心しきった表情、ゆっくりと上下する胸、わずかに丸まった指先。いつもなら影のある眉間には、今はシワ一つとして寄ってない。
     そっと手を伸ばせば、触れることができる。けれど起こしてしまうのが惜しかった。
     聞こえてくる寝息がひどく耳に心地いい。ごろごろと喉を鳴らしてるように思えて仕方がない。例えるなら、そう。猫が甘える時のような。
     もちろん、ただの錯覚だということは分かっている。試しに真っ白な喉元に耳を寄せてみたものの、聞こえてくるのは口元から漏れる静かな寝息だけだった。
     触れたい衝動を押し殺したのも束の間。我慢の限界が訪れるのは早かった。
     静かに右手を伸ばす。頬に散る白い髪を拾い、柔らかな肌の上を指が滑る。そのまま耳元に髪を引っ掛けると、耳たぶをぐにぐにと揉んで、そして。

     …………にゃあ。

     まるでペットに話しかけるように呟いたものの、当然のごとく返事はない。
     代わりとばかりに、長いまつ毛がゆるりと持ち上がった。たっぷりと時間をかけて、真っ白な瞼から赤い瞳が覗く。その瞳は静かに上条を捉えて。
    「……ナニ?」
    「にゃー」
    「…………あン?」
    「にゃあ、って返してくれるかなって」
    「……………………、」
     ややあって。
     心底くだらなそうなため息が響いた。続けて、憐れむような視線を頂戴する。その目は若干の軽蔑を孕んでいた。
     しかし上条にそれを気にする様子はない。むしろ上機嫌に白い髪を撫でると、くすぐるように尖った顎の下をなぞった。
     するとその人は目を細めて身をすくめた。嫌がっていないことは分かりきっている。それよりも、心地良さそうに首を反らす仕草は非常にそれっぽいのだが、本人に自覚はないようだ。
     上条はからかうような笑みをこぼしながら。
    「言わねえの?」
    「……、それ言わせてどォすンだよ」
    「んー別に。言ってるお前が見たいだけ」
    「なンだそりゃあ?」
    「俺が先に言えば言いやすいだろ。ほら、にゃあ」
    「…………、」
     どうやら上条の誘導は意味を為さなかったらしい。心配そうにこちらを覗き込んでいたその人の表情は、徐々に不快さを募らせていく。
    「寝起きに馬鹿みてェな鳴き声聞かされるこっちの身にもなれってンだ」
    「あれれ、つられて言ってくれるかと思ったんだけどなあ」
    「ミラーニューロンか。空っぽな頭してると思ってたが、ちっとは知識もあるみてェだな」
    「んな難しい話してんじゃねえよ」
     じっと目線を交わす。上条の表情だけで意図を汲み取ったらしいその人は、うんざりしたような舌打ちを返した。
    「……その必要性がどこにあるってンだ」
    「だってほら、お前って猫っぽいし」
     説得にはなっていない。しかし問題はないだろう。大抵のことは頼まれればやってしまう性格だということを、上条は知っている。
     健気な恋人の頬を優しく撫でながら、上条は甘えたような声で言う。
    「他の奴には見せないとこ、見たい」
    「……、もォ十分見せてンだろ」
    「ん、もっと」
     尖った顎の先を引き寄せて、軽く触れるだけのキスを落とした。まるで挨拶のように交わされたそれに、眉を寄せながらも応じるその人が、いつになく愛おしく見えた。
    「……好きな子の可愛いところはさ、全部見たい」
    「ハッ、……そォいうモンかねェ」
    「俺しか知らないの、優越感っつーか、特別感あるし」
     趣味悪りィな、と漏らす唇を塞ぐように口唇をなぞる。それから手繰り寄せるようにして舌を絡め合った。頬を撫でていた手を耳元まで滑らせて耳たぶをくすぐると、漏れる吐息が熱を帯びていくのが分かった。
    「たまには良いだろ? そういうのも愛情表現の一つだよ」
    「……愛情表現、ねェ」
     そうそう、と頷いて見せると、その人はつまらなそうな相槌を打った。
     すると何の前触れもなく。白い手がそっと伸びてきて、上条の頭をふわりと撫でた。それから気怠そうに身体を起こしたその人は、上条を見下ろす位置に座り込んだ。
    「……?」
     不思議そうに見上げた上条だったが、それを口はしなかった。その言動の意図は分からなかったが、こちらを見下ろす穏やかな視線と、頭を撫でる柔らかな手の感触が、上条に安心感をもたらしたのは確かだ。
     いつも気まぐれで掴みどころがないその人の。触れる指先が妙に優しかったから、上条は何も言わず、ただじっと赤い瞳を見つめていた。
     そして、その人は言う。

    「わン」
    「わ、……わん」

     ぽかんと固まる上条を眺めながら、その人はフッと目を細めた。
     なるほどなァ、と笑うその人の表情が、いつまでも目に焼き付いていた。


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