騎士と戦士の進捗の続き「フン、お断りだね。そんなに尾羽の軽いように思われていたなんて心外だ。他を当たれば？　例えば、そうだな、君を慕っているシドあたりか？」

　他を当たれって、なんて事を言うんだ。リンクは頭を殴られたような衝撃を覚えた。
　こんなにも焦がれているのはリーバルなのに。リーバルだから、欲しいのに。他の誰かじゃなくて、触れられたいのは、

「リーバル」
「！」
「リーバルが、いい」

　焦がれるままに言葉を紡いだ。こんな話をしている時間はないはずだけれど、厄災との戦いを控えているこの先、お互いにどうなるかわからないから。ようやく巡ってきた話し合いの機会を逃したくなかった。

「ずっと、さむいんだ」

　あれから。リーバルが隣からいなくなったあの日からずっと。
　どんなに探しても見つけられなくて、もう会えないのだと絶望して。ならばリーバルが平和に幸せに暮らせるように、唯一厄災を封印する力を持つゼルダを護ろうと思った。
　だけど神獣の繰り手候補としてリーバルと再会して。喜んだのも束の間、何も覚えていないような、むしろリンクを嫌うような冷たい態度に何度胸が痛んだか。
　騎士の仲間に媚びているというようなひどい物言いをされた事もあった。リンクには、リーバルだけなのに。それすら言葉にする事もできず、同族には心を許している様を見せつけられてどれほど苦しかったか。
　被せられたままのリトの布。これは温かいけれど、心の寒さまでは温めてくれない。この寒さをどうにかできるのは、リーバルだけ。リーバルにしか温められないし、リーバルじゃないとイヤだ。

「さむいよ、リーバル」

　疲労で立っていられなくなって、その場に座り込んだ。リーバルがいなくなった時から続く寒さにはもう慣れたつもりでいたけど、彼と二人きりになれば、自分勝手な我侭が沸き上がってくる。ぎゅうっとリトの布に包まって、少しでも寒さを堪らえようとした。

「チッ！　ほんっと、君さぁ……」

　盛大な舌打ちと感情を抑えるような低い声に、やっぱり怒らせてしまったかと目を伏せる。我侭ばかり言い過ぎて見放されただろうか。
　リーバルの大きなため息の後、鉤爪の音が近づいてきたかと思うと、柔らかな羽毛に包まれた。抱きしめられたのだと認識し、ぶわりと顔に熱が上がる。

（なに、なん、いい匂いする、じゃなくて、ええと……）

　リーバルの思わぬ行動に固まってしまったリンクはそのままひょいと抱え上げられる。
　リーバルはメドーの内部にほど近い日陰を選んで腰を下ろした。吐息がかかってしまいそうなほどの距離の近さに、心臓が変にうるさい。なるべく距離をとろうとくっついていた上半身を起こしたら至近距離でリーバルと目が合って、その目にはもう嫌悪の色は見えなくて。
　リーバルの態度に堪えられず、リンクは視線をうろうろさせることしかできない。無言のまま、温かくて優しい翼はふわりふわりとリンクの背を撫でる。
　ずっと欲しかったリトの、リーバルの翼。どれだけこの温かさを夢に見たか。胸の奥がぎゅうっとなって、リンクはリーバルの胸にそうっと顔を埋めた。怒られるかなと上目で伺えば、リーバルは引き離そうとも怒りもしない。ほっとして、ゆるゆると全身の力が抜けた。
　くたりとリーバルに寄りかかると、あまりの安心感に泣きたくなった。ほんの少しだけでいいから、触れてほしかった。少しだけでも触れてくれたらすぐに離れるつもりでいた。ゼルダのところへ戻らなければいけないと分かっているのに、リーバルの温かさから離れられない。
　力が抜けるに任せて目を閉じる。リト、と口から小さくこぼれた懐かしい呼び名。応えるように体を包む翼に力が込められたのを感じて、リンクの意識が白く溶けた。