騎士と戦士の進捗続き「……ん、」
陽の光が眩しくて意識が浮上する。ゆるゆると瞼を開いた瞬間意識が落ちるまでの彼是が脳裏に甦り、勢い良く頭を上げた。至近距離にリーバルの顔があって、変な声が出そうになるのを必死で堪える。リーバルも、眠っているようだった。
そっと頭上を仰ぎ見て太陽の位置を確認する。半刻ほど眠っていたらしい。
静かに目を閉じるリーバルへ視線を戻す。子どものように駄々を捏ねたリンクを抱きしめて、眠った後もそのまま抱いていてくれたのか。リンクが寒いと言ったから?
嫌いな相手に対してもなんだかんだと優しくしてくれた事がどうしようもなく嬉しくて、こみ上げる感情を唇を噛んで耐える。もう一度だけ、リーバルの胸の中へそろそろと潜り込んだ。温かい。ずっとずっと欲しかった、リーバルの温もり。
「……これで、」
言葉がこぼれる。これで、未練はもうない。何を憂うことなくゼルダの盾になれる。
これから戦うのは厄災だ。分身でさえあの強さ、本体となればどれほどの苦戦を強いられるだろう。いざとなればゼルダの為に命を懸けることも、今のリンクは厭わない。最後に、この温もりを感じる事ができたのだから。
(命を懸けても姫様を護る。たとえ俺が死んだとしても)
厄災を封印しハイラルを救えるなら、リーバルが生きていてくれるなら、それでいい。
決意を新たにしたところで「これで、なんだい?」と声がする。驚いて顔を上げれば、翡翠が冷たくリンクを射抜いた。いつの間に起きたんだ。
「これでもう僕は必要ないって?」
「そんな事、言ってない。……これでもう、未練はないなって」
「ハッ。未練ときたか。大層な言い草だね」
鼻で笑い飛ばすリーバルに、ゆるりと首を振る。これはリンクの本心だ。これから戦うのは厄災本体。退魔の騎士として、ハイラルの姫の騎士として、ゼルダを護るために前線で戦い続けなければならない。リンクは、戦いが終わった後自分が無事でいられるなんて楽観視はしていなかった。むしろ──。
「……本心だよ。最後にリーバルに抱きしめてもらえたから、もう思い残すことなんてない」
「最後、ねぇ。もう死んでもいいとでも言いたげだな?」
「死んでもいいとは思ってない。いざという時にはちゃんと、姫様の盾になれるって」
死んでもいいなんて思っていない。けれど、ゼルダを護って死ぬのなら、それしか道がないのなら、それでもいいと思えた。リーバルのお陰だ。リーバルが、リンクの我侭を叶えてくれたから。
これがきっと、覚悟を決めたという事なんだろう。清々しいような、晴れやかな気分だった。口元が微かに緩む。
そんなリンクをリーバルはぎらりと獰猛に睨みつけた。
「……それが! 姫の為なら死んでもいいって思ってるって事だろ!」
「? なんで怒ってるんだ」
「君さぁ! なんで僕が、寝てしまった君をそこらへ放り出さずにずっと抱いてやってたと思ってるんだよ!? そんなの、言わなくてもわかるだろ……!」
「?? リーバルは、優しいから」
突然怒りを向けてきたリーバルに困惑する。リーバルは、嫌いだなんだと言ったって結局は面倒を見てしまう優しいところがあるから。リンクに対してもそうしただけだろう。
そう言うと、リーバルは更に目を吊り上げる。
「この僕が! 親切なだけで誰にでもこんな事すると思ってるのか!」
「……それ以外に、理由がない」
リーバルが怒っている理由も、親切にしてくれた事の意図も全く分からなくて、けれど怒られているからと体を小さくするリンクの顔を掴み、視線を合わせたリーバルは。
「あるだろ! まだ君が好きだからだよ!!」
「!」
とても、苦しそうな顔をしていた。
「君に捨てられたと分かっても君を想う気持ちは消えないままだ! 仕方ないだろ、リト族は生涯に渡って心に決めた一人を愛するんだから! 可愛さ余って憎さが百万倍になるとは思わなかったけどね!」