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    guri

    @guriguri_000222

    🈁🐶SS練習用。拗れきった二人が好き。

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    guri

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    マブ軸ココイヌ。
    大遅刻VD。
    WDはココ目線で書きたい気持ちだけあります。

    #ココイヌ
    cocoInu

    それは世界で唯一の鍋に水を張り、沸騰させない程度にお湯を沸かす。そこに刻んだチョコを入れたボールを浮かべて、まんべんなく熱が伝わるように大きく手際良くかき混ぜていく。チョコがすべて溶けきったらボールを外す。溶け残りがないかをチェックしながら型に流し入れ、冷蔵庫で冷やす。以上、終わり。レシピと言うのも憚られるくらい、あまりにも簡単すぎるそれはオレが唯一覚えられたチョコレートの作り方だった。

    領収書を買いに100均に行ったら一番目立つ場所に一際目を引くコーナーが出来上がっていた。
    『Happy Valentine Day』と印刷されたボードの下にはお菓子作りに必要な道具や材料の他に箱や袋が所狭しと並べられていた。先月来た時には無かったそのコーナーを見て、もうそんな時期かと時の流れの速さに驚かされる。
    オレは領収書と一緒に板チョコを数枚と、小さな箱と紙袋をひとつ取ってレジに向かった。


    毎年2月になると「おいしいチョコ食べさせてあげる」と唆されて赤音のチョコ作りを手伝わされた。最初は溶かして固めるだけの簡単なチョコだったのに、翌年には生チョコになり、その次はクッキー、ガトーショコラと年々レパートリーは増えていった。段々お手伝いの難易度も上がって行ったけど、赤音の腕が上がるたびにオレがもらえるご褒美も豪華になるのが嬉しくてこのお手伝いだけは割とキライじゃなかった。
    ある時、同じ作業に飽きてきたオレはずっと気になっていた事を赤音に聞いてみた。
    「赤音って、そんなにたくさん好きなヤツがいんの?」
    突然の質問に赤音はチョコを丸める手を止めてこてんと首を傾げてみせた。
    「あら、どうして?」
    「だってバレンタインは女が好きな男ににチョコを渡す日なんだろ? クラスの女子が言ってた」
    その年はトリュフを作っていた。オレは赤音が丸めたチョコにココアパウダーをまぶす係で、大きいトレーにびっしり並べられたトリュフはもう20個くらい出来上がっていた。
    質問の意味がわかった赤音はふんわり笑い、止めていた手を再び動かしながら言った。
    「ふふっ、バレンタインが好きな人にチョコをあげる日っていうのは正解なんだけど、好きにもいろいろ種類があるからね。おねえちゃんが作ってるのは大好きなお友達に『いつも仲良くしてくれてありがとう』って感謝を伝えるためのチョコなんだよ」
    だから、まだまだ作らなきゃ。そう言ってトレーの上にどんどん出来上がる丸いチョコはオレにパウダーをかけられるのを順番待ちしているようだった。
    「それって、男が男に渡すのでも良いの?」
    赤音の話を聞いてオレの頭の中にはココの顔が浮かんでいた。バレンタインが女が好きな男にチョコを渡すだけじゃなくて、大好きな友達にも渡して良い日ならオレは絶対ココにあげたいと思った。赤音は少しびっくりした顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔を浮かべて言った。
    「青宗にもチョコあげたいお友達が出来たんだね」
    「……うん。ひとりだけど」
    「あら、充分じゃない。友達って人数が多ければ良いわけじゃないの。ずっと仲良くしたいと思える友達がいるってことが素敵なことなんだよ」
    男が男に、オレがココにチョコをあげても良いと認められたのが嬉しくてオレはサボっていた作業を始めた時と同じくらいの真剣さで再開した。
    「そうだ! 折角ならお友達にこのチョコ渡してあげたら? 青宗が頑張ってお手伝いしてくれた手作りチョコ、きっと喜んでくれるんじゃないかな」
    「え、いいのか?」
    「もちろん! ラッピングの箱もあるから後で一緒に詰めようね」
    「おう!」
    その日の夜はなかなか眠ることが出来なかった。
    ココにどうやって渡そうか、ココがどんな反応をみせるのか、考え出すと止まらなくて布団の中を何度も転がった。こんなにも朝が待ち遠しいと思った夜は初めてだった。
    翌日、オレがひとりで起きてきたから母さんも父さんも驚いていた。赤音だけはなにかに気付いたようにニコニコしていたから少しだけウザかった。
    溶けないようにギリギリまで冷蔵庫で冷やしていたトリュフの入った箱を取り出して赤い紙袋に入れた。ランドセルに入れたら潰れちゃうよと、赤音がくれたものだった。
    待ちきれなくていつもの時間よりも早く家を出た。毎朝ココと待ち合わせる交差点に向かう間もそわそわして気付いたら早足になっていた。
    待ち合わせ場所に着いても当然まだココは居なくて、自分が早く来たせいなのにいつも先に待ってるココが居ないことに「なんで居ねえんだよ」と理不尽なことを思ったりした。それくらい早くココに渡したかった。寝る前にたくさん考えたココの反応の答え合わせがしたかった。
    「え、イヌピー?!」
    ココが来る方角をキョロキョロしながら見ていると少し離れたところで驚いているココの姿が見えた。
    「ココ! おはよ!」
    「お、おはよ! え、オレ遅れてた? いつもの時間に出たんだけど……」
    「違えよ! オレが早く来た! ココに渡してぇもんがあるんだ」
    「渡したいもの?」
    「そ! はい、バレンタイン!」
    「バレンタイン?」
    ココが見えてからそっと背中に隠していた赤い袋を押し付けるように渡す。渡し方とか色々考えてたはずなのに、いざココを目の前にすると早く渡したいの気持ちが勝って考えてたこと全部飛んでしまった。どうしよう、渡しちゃった。ココ、甘いの好きだっけ。給食残してるとこ見たことないけど大丈夫かな。押しつけてからどんどん不安が大きくなって、「やっぱりなし」って引っ込めようとした手を冷んやりとした手がギュッと握りしめた。
    「これ、もしかして赤音さんから?!」
    「え……」
    「イヌピー、預かって来てくれたの? だから早く来て待っててくれたの?! うわぁ〜……すっごい嬉しい……! イヌピー、ありがとう!」
    ココの反応はオレが寝る前に予想したどれにも当てはまらなかった。
    声を弾ませて飛び跳ねそうなくらい喜ぶ初めて見るココの姿に今さら「違う」だなんて口が裂けても言えないと思った。ココが赤音のことを好きなことはよく知っていたから。ココはたったひとりの、ずっと仲良くしたい大切な友達だから余計なことを言って傷付けちゃダメだって思った。
    口を開いたらボロが出そうだからオレは否定も肯定もせず「早く行こうぜ」とココの背中を押した。ココはずっとご機嫌で鼻歌でも歌いそうなほど浮かれていた。来月のホワイトデー、どうしようって悩みはじめたから「気が早えよ」って肩にワンパン食らわしてやった。痛えよって笑うココより殴ったオレの方が痛くてなんだか涙が出そうだった。
    その日、オレは家に帰ると赤音に言った。
    「もしホワイトデーにココが赤音にお返ししてきたら、なにも聞かずに受け取ってやって欲しい」って。赤音は少し難しい顔をしたけど、オレも赤音と同じくらい難しい顔をしていたせいか「わかった」とひと言だけ言って、黙ってオレを抱きしめた。

    翌年も、その翌年も、オレは2月になると赤音にくっ付いてチョコを作った。ココが嬉しそうに笑う姿が忘れられなくて、オレは懲りずに渡し続けた。ココは毎年変わらぬ反応を見せてくれた。声を弾ませて、その場で飛び跳ねそうなくらいいつもいつも喜んでくれた。その顔を引き出しているのがオレじゃなく赤音なのが悔しいけど、ココが幸せだとオレも嬉しいからオレが苦しいのは別にいいやと思った。

    火事になってからは、当たり前だけどココにチョコは渡せていない。赤音がいないのにココにチョコを渡すなんてそんなこと到底出来るわけが無い。
    街中が赤やピンクで装飾され始めると落ち着かない気持ちになった。赤音はいないのに。ココを笑わせてやれないのに。店先で幸せの象徴みたいに並ぶ小さな箱が煩わしくてぶっ壊したくて堪らなかった。

    出所の日にココが迎えに来るなんて夢にも思わなかったけど、それ以上に少し見ないうちにココが少し笑うようになっていたことに驚いた。あの頃みたいに無邪気で純粋な笑顔とは言えなかったけど、図書館で死にそうな顔で本を読んでいた頃を思うと少しだけホッとした。それと同時にココを笑わせられるのはまたオレじゃないのかと思うと悲しくもなった。
    黒龍が復活してガキの頃以上に同じ時間を共にした。小さなアジトで文字通りココと寝食を共にして過ごした。この頃のココは、たまに本当に楽しそうに笑うようになっていた。
    ココは何かにつけてオレの面倒を見たがった。最初はオレも嬉しかった。火事以降疎遠になっていたけど、どれだけ離れてもやっぱりずっと仲良くしたい大切な友達はココだけだったから。それが何かおかしかったとしても言わないことが、ココを傷つけないことが一番大切なことなんだと思うようにした。
    それが全ての間違いなんだと、気付いた時にはもう遅かったけれど。


    「イヌピー、来たよー」
    バックヤードの方からココの声が聞こえた。別に気にしねぇのにココはいつも正面ドアじゃなくて裏口から入ってくる。三ツ谷や松野はいつも正面から来るぞと言っても頑なに変えないからもう好きにさせている。
    「悪いな、休みの日に」
    「ぜーんぜん! むしろイヌピーからうちに来いなんて珍しいじゃん」
    「ああ。オマエに渡したいものがあるんだ。戸締りしたら上がるから、先に上行っといてくれ」
    「ふーん? まあ、了解。先に上がらしてもらうわ」
    そう言って軽い足取りで階段を上がるココの後ろ姿を見送ってから締め作業を始める。今日は暇だったし、ココが来る前に事務的なところは終わらしていたからあとは諸々の鍵締めだけで終わりだ。
    最後のシャッターを施錠してから、オレは階段を通り過ぎてバックヤードに向かった。ミニ冷蔵庫から小さな箱をとりだし、出納帳の間に挟んで隠していた紙袋にそれを入れた。
    緊張のせいか、指先が震える。心臓がうるさくて喉が渇く。こんなにも落ち着かないのは初めてココにチョコを渡したとき以来かもしれない。
    軽く深呼吸をして、階段を登る。ソファに座るココの後ろ姿が見える。
    またこの場所に、オレの側に、ココが居てくれる事実が嬉しくて堪らない。
    「ココッ!」
    少し声が上擦った。恥ずかしい。
    ソファの背もたれ越しにココが振り向く。
    「イヌピー?」
    「これ! バレンタイン!」
    「バレンタイン?」
    背中に隠していた紙袋をココの目の前に突き出す。勢いで出したけど、ココの顔が見られない。どうしよう、出しちゃった。見切り発車すぎた。オレだってこんなの用意するつもりじゃなかった。頭の中が焦りと言い訳でグルグルする。ココは何も言わない。「冗談だよ」って引っ込めようとした手を温かい手が力強く握りしめた。
    「赤音さんの代わりはしないんじゃなかったの?」
    「……別に、そんなつもりじゃねえよ」
    「じゃあ、どういうつもり?」
    「これは……マブチョコだッ!」
    「マブチョコ?」
    「昔、赤音が言ってた。バレンタインにはずっと仲良くしたい大切な友達に渡すチョコがあるって。ココは友達じゃなくてオレのマブだから、だから、マブチョコ……」
    段々自分が何を言ってるか分かんなくなってきて尻すぼみになる。耳が熱くて堪らない。手はまだココに握られたままだから逃げることも顔を隠すことも出来ない。オレが喋り終わっても何も言わないココは意地悪だ。どんな顔してるのか見てやりたいけど、今はまだ顔を上げられそうにない。

    「ふっ……ははッ! やっぱ、イヌピーって最高だわ!」
    笑い声が少し高い時は、ココが本気で楽しい時だってことを知っている。

    驚いて顔を上げたらココは目の端に薄っすら涙を浮かべるくらい大口を開けて笑っていた。繊細なツラに似合わない豪快な笑いかただった。
    「ココ……?」
    「あはッ、ごめんごめん。いやぁ〜、まさかマブチョコがもらえるなんて思わなくてさ」
    「……バカにしてんのか? 要らねえなら返せよ」
    「要らねえわけないだろ。9年ぶりのマブチョコだぞ」
    「9年、って……え、オマエまさか……ッ」
    「知ってたよ。ずーっと。あのチョコが赤音さんからのものじゃないって」
    「なんで……」
    「嬉しかったよ。世界にたった一つのマブチョコ。そんで今もめちゃくちゃ嬉しい。またイヌピーにチョコもらえたって、めちゃくちゃ嬉しくて堪んねえよ」
    「ココ……」
    「イヌピー、改めていうのすげぇ恥ずいけど、オレのことずっと気にかけていてくれて、本当に、本当にありがとう。今度はオレがオマエに返すから。ちゃんと、正しい方法で。青宗、オマエにだけ尽くすから。ずっと大切にさせてください」
    ココの瞳に射抜かれて心臓以外、ピクリとも動けなかった。真っ直ぐ、瞬きもせず、ココがただオレだけを見ている。ココの目に映るオレはとんでもなく情けなくて、心底幸せそうな顔をしているように見えた。

    「あれ、イヌピー泣いてんの?」
    「な、泣いてねぇよッ! ちょっとビックリしただけだ! ココが、その……プロポーズみたいなこと言うから……」
    「あははッ! イヌピー、ちょっと会わねえ間に可愛くなりすぎじゃね? ふふ、別にプロポーズって思ってくれてもいいぜ? オレ、来年はマブチョコじゃなくて本命チョコがもらいたいからさ」

    声を弾ませてココは笑う。
    昔に比べて全く無邪気でも純粋でもなくなったけれど、それは間違いなくオレがココに一番させてやりたいと思っていた顔だった。
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