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    nekononora

    94。書くのも読むのも雑食でいきます。逆、リバ、R、G、などなど書きたいように書き散らかします。
    なぜかもう一個のアカウントがよく弾かれるようになったので、こっちで上げる。
    設定がわからーん!

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    nekononora

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    クラ→←ノス
    花吐き病

    #クラノス
    kranos

    ともに溶けた花びら2つ◆◆クラージィ◆◆

     約二百年の眠りから目覚めた時、世界はガラリと姿を変えていた。
     文明や文化の進化や進歩はそうだが、なにより吸血鬼と人間の関係性が異なった。
     隣人と在るのを良しとし、言葉を交わし、時には手を取り合っている。
     吸血鬼となれば即座に胸に杭を打つのが当然だった二百年前とはあまりにも違い、衝撃を受け、感動した。
     こんな世界を見せてくれたノースディンには、命を救ってくれたのも含め、返しきれぬほどの恩がある。
     そんなノースディンがここ一ヶ月ぐらい、しつこい風邪をひいていると知れば、心配の一つや二つするというもの。
     その心配は私にできる事ならという行動にうつり、スマートフォンという便利な道具を使って得た知識をもち、ノースディンの風邪へと挑んでいた。


    「次はキャベツの葉を被ってみよう」
     梅干しをこめかみに貼っても効果はなかった。
     たが落胆する必要はない。
     色々調べてきたのだと、ソファーに座るノースディンにキャベツを見せれば、彼はケホと咳をする。
     喉に居座る風邪らしく、ここ一ヶ月、彼はよく咳をしている。
     キャベツの外側の葉をめくっていけば、あー、とノースディンは言いにくそうに話しだす。
    「……クラージィ。気持ちは嬉しい。とてもだ。だが、私はお前の親吸血鬼として言わねばならん」
     ノースディンの頭にキャベツの葉を乗せる。
     どうだと真剣な表情で至近距離で彼の顔を覗き込めば、ノースディンは言葉に詰まった後、また咳をした。
    「だめか。ならばネギだな」
    「……クラージィ。あのだな、」
     ノースディンの首にネギを巻く。
     長いのを買ってきたが、結ぶことはできず、紐で括った。
     これならばとまたノースディンの顔を覗きこむも、咳がまた出る。
    「たまご酒を作ってくる。キッチンを借りるぞ」
     たまご酒の材料を持ち、部屋を出ようとして、一緒に着いてこようとした気配を感じて振り返る。
    「ノースディン。早目に戻る。いい子で待っていてくれ」
     今は冬。
     厨房は暖房のスイッチも入れていない。
     温かいこの部屋で待っていてくれと伝えれば、ノースディンは何か言いかけたが、「……わかった」とソファーに座った。





    ◇◇ノースディン◇◇

     二ヶ月ほど前、咳と共に氷の花びらを吐いた。

     始めは能力が変な方向に暴走したのかと考えた。
     この一年ほど、情緒を乱される事が続いている。
     だからこれも自分で気付かぬうちにストレスでも抱えたかと考えたのだ。
     だが三日後に氷の花びらを吐き、また三日後に家でリラックスしている時にも吐いて、そこでようやくこれは何か違うと思いいたった。
     能力の暴走や吸血鬼だけがかかる病等、さまざまな可能性を考え、インターネットや文献をあさり、そして古びた本から一つの病気にたどり着いた。

     花吐き病。

     症例が百年に一人というほどに少ないそれは、誰かに恋するものが花びらを吐くのだという。
     花びらを吐くだけならよいが、両想いにならなければ完治せず、衰弱して死にいたるとの事。
     それを知り、真っ先に思い浮かべたのは、唯一自分が血族に迎え入れた男だった。
     生涯隠し通すつもりだった想い。
     病気だと知れば受け入れてくれるかもしれないが、それはあの善なるものに嘘をつかせる事になる。
     それに過去、告白された側が命を救う為と恋人になったが、想いはなく、結果、花吐き病の者は衰弱死してしまった事例がある。
     そうなったらどうする。ノースディンが告白して、クラージィが受け入れても、ノースディンが死ねば、彼は悔いるだろう。それにクラージィの想いがどうあっても自分にはないと突きつけられた上で死ぬのは耐えられない。
     ならば知らせないほうがよい。
     衰弱死といっても、ノースディンは吸血鬼なのだ。それも古き血の。血さえいつもより多く飲んでいれば治る可能性すらある。そんな希望のような楽観に縋ってみたが、一ヶ月経過する頃には一日に一回は花びらを吐くようになり、咳も頻繁にでるようになった。





    ◆◆クラージィ◆◆

     ノースディンが咳が悪化している。
     元より悪い顔色がさらに悪くなったようにも思う。
     クラージィは私に何かできる事はと、吸血鬼の事なら吸血鬼に聞いたらいいと、ドラルクの元を訪ねた。

    「風邪? 私達吸血鬼って、風邪ひきましたっけ?」





    ◇◇ノースディン◇◇

     最近は立っているだけで頻繁に眩暈がするようになってきた。
     用事がない日は一日、棺桶の中で微睡み、用事がある時は血液ボトルを一本空けて気合いを入れて常に気を張っていないと、動けないほどだ。
     幸い、最近、ドラウスからのヘルプコールはなく、古き血の集まりもない。
     クラージィもゆっくり休んだほうがいいと、一日に一回のメールのやり取りだけで、屋敷に訪ねても来ない。
     あぁ、このまま塵になるのか。
     一族の事やドラウスの事、心配事はあれど、私がいなくともやっていけるだろう。
     クラージィの事は、親吸血鬼がいなくなったあの子を一族がほっておくはずはないから、心配はない。
     だから、と夢と現実の間で揺蕩っていれば、使い魔からクラージィの来訪を告げる知らせが入った。
     あの男がアポ無しでくるとは珍しい。いや、ひよっとしてRiNEがと、スマートフォンを操作すれば、“今から屋敷に伺いたい”というメッセージが届いていた。
    「……」
     こちらの返信や既読無しで来るとは珍しい。
     ひょっとして何か困り事があるのかと、念動力で棺桶の蓋を開け、重い身体をなんとか動かしてクラージィの元に向かった。

     久しぶりに見る彼はどこか思い詰めた表情をしていた。憔悴していると言ってもいいかもしれない。
    「クラージィ。顔色が悪いな。何かあったのか?」
     悩みなら解決してやるし、お前を困らすものがいるなら氷漬けにしてやろう。
     そんな想いを込めて尋ねれば、クラージィは視線を少し逸らし、迷った動作をしてから口を開く。
    「ノースディン。実は……」
     そこから先は聞けなかった。
     咳が出たのだ。
     クラージィから。
     ゴホゴホと続く咳。
     そして治った時には、彼の手の平には氷の花びらがあった。





    ◆◆クラージィ◆◆

    「クラージィ!」
     ノースディンに肩を掴まれる。
     衰弱しやつれてもなお美しい彼は、その真紅の目を怒りかそれとも悲しみかで煌めかせていた。
    「誰だ!? 言え! 私が両想いにしてやる!!」
    「……何の事だノースディン」
    「花びらを吐いただろう!」
    「……あぁ、口の中から出てきたな」
     何度も練習した台詞を言う。
    「それは花吐き病といって、想いを寄せる相手と両想いにならなければ死んでしまう病だ」
    「……想いを寄せる相手?」
     そんな相手が?
     ノースディンの顔を見ていれば、彼は安心させるように語りかけてくる。
    「大丈夫だクラージィ。何の心配もいらない。お前ほどの男に惚れぬ奴はいない。もしお前をふるような奴なら、私が何とかしてみせよう」
     脅しや拷問では駄目か。ならば魅了をかけ続ければどうだろうか? それともクラージィに魅了を覚えてもらって? どうすれば、どうにかしなければとぶつぶつ呟く彼の言葉を遮る。
    「……ノースディンはしたのか?」
    「何をだ?」
    「告白だ。ノースディンは花吐き病なのだろう? お前が氷の花びらを吐くのを見た」
     息を飲むノースディン。
     クラージィの肩から手をどかし、目線すら逸らす、
     クラージィは申し訳なく思いながらも、言葉を続ける。
    「私にとってお前ほどの男に惚れぬ奴はいない。告白をしたのなら治っていると思うのだが……」
    「あいにく、片想いでな……」
     告白はしていないという事か。
    「では、手本を見せてくれないか? もしくは相手だけでも教えてくれ」
    「……」
    「ノースディン。頼む」
     一分ほど後、ノースディンが口を開いた。
    「…………私が告白したら、お前もすると誓うか?」
     神にでも何でもいい、誓うか?
     そう尋ねられ、クラージィは答える。
    「ノースディン、命の恩人であるお前に誓おう」
    「そうか」
     ノースディンは目を瞑ると、息を吸い、ゆっくりと吐き出してから目を開く。
     クラージィの顔をしっかりと見ると、眉間に眉を寄せて告白した。

    「クラージィ、私はお前を愛している。おそらく二百年前からずっと」

     その声は震えていなかったが、触れれば泣いてしまいそうに聞こえ、クラージィはすぐに膝をついた。
     そしてノースディンの手を取り、甲に唇を落とした。

    「私はノースディン、お前を愛している」

     気取った愛の言葉も考えた。
     だが気取らぬ方が直球でノースディンに届くと思い、飾らぬ言葉を選んだ。
     手の甲から唇を離し、ノースディンを見上げる。
     一秒、二秒……三十秒、一分、二分と経過し、少しずつノースディンの頬が赤く染まり、手まで温かくなっていく。それから、
    「な」
     と、ノースディンと声を出したのは、五分後の事だった。
    「な、なん、なっ、なに、を、クラージィ。そ、そうか! 家族愛的なものだな!」
    「恋愛だが」
    「か、勘違いだ! お前は親愛を勘違いしているだけで、それか私の命を助けようと!」
    「……ふむ」
     クラージィはノースディンの手をとったまま立ち上がる。
    「花吐き病が治っていたら、両想いと信じてくれるな?」
    「……それは」
    「両想いならば治るのだろう?」
    「そうなのだが……」
    「では、氷の花びらを吐かなくなったか見張らなければ。吐くまでは私はお前の愛する者で、お前は私の愛する者として隣にいても?」
    「治っていたらもう一生吐かないのだから、一生を誓うことになるぞ?」
    「そうだが? 愛する人と一生を誓っているんだ」
     クラージィがさらりと認めれば、ノースディンはまた五分ほど押し黙り、小さな声で「私もだ」と誓った。













    ーーーーー


     いやぁ、上手くいってよかった。
     お父様が調べてもわからない病、本人からゲロってもらうのが早かったですからな。あのヒゲも知らない可能性はありましたが、まぁそれなら何かしらの相談を親族の誰かや古き血の皆様にはしてそうですし、そういうのをしてない時点で、なんか隠してるなっていうのはありましたよね。
     調査中、お父様とクラージィさんもヒゲヒゲに会うのを控えるように言ってたのはあれですよ。だって隠し事、下手でしょ二人とも。顔見たら我慢できず、直球で聞きそうじゃないですか。
     一日一回のメッセージで我慢してもらいました。
     だけど調べてもわからず……並行してクラージィさんの氷の能力の特訓、やっといてよかったですな!
     ほぼ100%の確率で綺麗な氷の花びらを出せるようになりましたから。
     後はヒゲヒゲヒゲの前で、咳き込み、吐き出したようにみせればいい。クラージィさんが同じ病気にかかったと思い、何かを教えてくれますよ。
     愛情深いヒゲヒゲヒゲヒゲを騙すようでと渋るクラージィさんを説得するのは苦労しましたが、ヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲの命がかかってるって言えば納得してくれました。
     いやぁよかったよかった。あのヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲが両想いになれて調子乗ってるのはいただけませんが、クラージィさんが幸せそうでなによりです。
     いやぁ本当にヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲが惚気まくってるのはどうにかしてほしいですが、っていうか、親族の集まりで着飾ったクラージィさんの横にいるあのヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲヒゲの隠せず弛んだ顔! ダチョウの群れにでも踏まれてしまえ!
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