2月11日は誕生日 誕生日とは、誕生を祝う日だ。
一般的には生まれた日に祝うが、誕生を祝う記念の日ならば誕生日といえるだろう。……屁理屈かもしれんが。
だから私はクラージィと再会した日を彼の誕生日と決めた。
すでに人間達に誕生日を決められていたが、それは人間どもと考えたものであって、私が祝う記念日があってもいいだろう。
クラージィに伝えるつもりはない。彼を祝いたいが、彼と祝いたいわけではなのだから、という言い訳めいた思考で毎年2月11日を祝い始めた。
「……だから一人で勝手に祝っていたと? 九年も?」
クラージィが渡される事のなかった九年分のプレゼントと、今年の贈り物の山を前に質問する。
口調がどこかこちらを責めているように聞こえ、ノースディンはソファーに座り、グラスを回しながら少し早口になるのを自覚しながら説明する。
「さっきも説明したが、私のソレは私が我が一族であるお前の誕生を祝い健やかな生を願う日であり、あの人間どものようにお前と共に巨大ケーキを食べたり、プレゼントを宝探し形式で貰う日ではない。だから初めて会った日ではなく、噛んだ日でもなく、彼が新横浜で目覚めた日ではなく、再会した日に決めたのだ。お前が、私の一族として私と共に無窮の時を壮健に過ごせるようにと祈る為に」
「ならば贈り物はいらないだろう。プレゼントは送る相手がいるから用意するものだ」
「確かにそうだな。だがそれも、お前ようであってお前ようではない」
「メッセージカードに『クラージィへ』だの『私が唯一、一族へと望んだものへ』だの『愛しきクラージィへ』だの書いてあるが?」
クラージィが同じ目の色でジッとノースディンを見つめてくる。
「…………」
グラスに入っていた赤い液体を一気に飲み干す。とっておきのボトルを開けたはずのその味はなんだか苦かった。
「……ペアだ」
「なんと?」
「だから、その贈り物は全部、お前と私のペアになっている。私の分もある」
クラージィがノースディンから目線を離してプレゼントの山を睨みつけるように見た。
「ノースディン、それはペアリングとかペアカップとかペアブレスレットとかか?」
「一年目はペアの万年筆で、二年目はペアのペーパーナイフで、三年目はペアの猫の置物で、四年目はペアの時計で、五年目はペアの食器一式で、六年目はペアの財布で、七年目はペアのオーダーメイドのスーツで、八年目はペアのリングで、九年目はペアの靴下だ。今年はペアの棺桶を送ろうとしていた」
「…………」
クラージィがまた同じ色の瞳でノースディンを見てくる。
ノースディンは気づかないふりをして、手酌で苦い液体をカパカパと飲む。
ボトルの四分の三ほどかあいた時、クラージィが軽く息を吐いた。ため息のようなソレに、ノースディンは内心ビクリと震えたが、外面は取り繕う。
またグラスに血を注ごうとすれば、その手をクラージィによって止められ、ボトルを取り上げられる。
見上げたクラージィは怒ってはおらず、悲しそうに顔を歪めていた。
「ノースディン。私はお前に祝ってもらえる事はとても嬉しい。だが、それを伝えてもらえなかったのはとても悲しい」
「………………」
「お前は良かれと思って隠しがちではあるから、先ほど語った事が全て本心かもしれないが、そうでないかは鈍い私にはわからない。だが、私に伝えられないような何かがあったのなら教えて欲しい」
「………………………………………………………………………………………………お前が」
「私が?」
酔いもしないが、ボトルを四分の三も一気にあけたせいか、口が軽くなる。
「人間どもと、すでに誕生日を決めていたから……」
「つまり拗ねた、と?」
「そうだがもっとこう言葉を選べないのかお前は! 選べなかったな知っていたとも! そんなところにも惚れたんだ! 何とでも言え! お前が誕生日を知らないと知って、三日三晩悩んで決めた誕生日を伝えようとしたら、すでに人間どもと決めていた私の気持ちがわかるか! 一人で勝手に祝うと決めて何が悪い!!」
「恋人となった八年目に伝えなかったところでは?」
「正論は時に人を傷つけると知れ!」
あぁクソと、クラージィからボトルを取り返そうとするが、彼が背中に隠してしまう。
「ノースディン」
クラージィがノースディンの頬に片手を添え、顔を近づける。キスをされるかと思ったが、当たったのは額と額だった。
「これからは毎年、私がいる所で私を祝ってくれ」
「…………まぁバレてしまったからな」
「そして私にもお前と共にあれる事を願う日として祝せてくれ」
「………………プレゼントは私が用意するからな。それは譲れん」
「では料理は私が担当しよう」
「巨大たこ焼きか?」
「巨大お好み焼きも上手くなったぞ」
「それは楽しみだ」
嫌味っぽく言えば、至近距離すぎて視界がぼやけて見えなかったが、クラージィが笑うが気配で分かった。