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    しぐ🧸

    @shigu_remoon

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    しぐ🧸

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    間に合わなさそうなので供養
    誤字脱字も何もチェックしてないすっぴん状態

    クリスマスngro 人々は服を着込み、木々は葉を枯らし、風が髪や小枝を揺らす冬のある日の朝。空は相変わらず鬱々とした天気で、寒さも相まって気の沈む季節だ。カーキ、ベージュ、ダークブラウン……。淡く暗い色に塗れた視界も、それを助長しているように思う。
     どうもこの季節は好きになれない。寒いし、考えなくちゃいけないことが増えるから。
     凍える寒さに背を丸め、手をコートのポケットに突っ込み、下を向く。体重をレンガの壁に預け、白く染る吐息を眺める。
     小さく震える。内蔵が氷になってしまったのではないだろうか。体は重いし、芯から冷えていくようだし、きっとそうだ。
     そんな間抜けなことを考えていたら、両頬にじわり、温もりが伝わる。

    「こんなとこで何してんだよ!」

     褪せた視界に鮮やかな紫が差す。
     その温もりの正体は、家から出てきたレオの手だったらしい。
     レオは焦ったような、困ったような、心配そうな、それでいてどこか嬉しそうな、沢山の気持ちをごちゃまぜにした表情をして俺の顔を覗いた。

    「待ち合わせは駅前のはずだろ?」
    「うん。でも、レオを驚かせたくて」

     だって今日は、特別な日だから。目移りしがちなレオの記憶に、鮮烈に残るようにしないと。

    「……珍しいな。お前がそんなこと考えるなんて」

     レオは少しばかり目を見開いて、そう言った。

    「そうかな」

     そうかも。レオのことを想うと、俺の知らない俺が顔を出す。俺はレオによって、全てを知っていく。今までがそうだったから、きっと出会って数年経った今でもそれは変わらないのだ。
     レオの両手に自分のを重ね、指を絡ませ、手を握る。

    「じゃあ、行こっか」
    「行くって、どこに?」
    「秘密」

     小首を傾げるレオは、どこか幼く見える。出会った頃より大人びた輪郭や色気を纏った身体のラインも素敵だけれど、瞬きの間に色を変えるこの瞳が一番好きだ。
     今日はどんなレオの表情が見れるだろうか。想像するだけで楽しみだ。
     エスコートするように手を引いて、道脇に止めてある車のドアを開ける。

    「どうぞ」
    「ありがとな」

     ほろり、花弁が舞うように柔らかく笑う。レオはどんなシーンを切り取っても様になるから不思議だ。
     運転席に乗り込み、アクセルを踏む。

    「今日は革靴なんだな。」
    「うん。去年の俺の誕生日にレオがオーダーメイドで作ってくれたやつだよ」
    「ああ、覚えてる。使ってくれて嬉しいよ」

     大事な日にしか履いてないし、手入れをしてるからね。大切にしてるよ。レオがくれたものだから。
     暫く大通りを走り、そこから小道に入り、また大通りへ抜ける。数十分車を走らせれば、目的地に着く。
     レオは助手席に乗っている間も、車窓を覗いたり、お喋りしたり、表情をころころと変えていた。

    「着いたよ」

     運転席から降り、助手席のドアを開けると、レオはクスッと顔を綻ばせた。

    「今日は随分と紳士的だな?」
    「今日は、じゃなくて今日も、でしょ」
    「悪ぃ悪ぃ、つい可愛くて」
     
     きっとレオは、3年前のあの日を思い浮かべているのだろう。あのときはエスコートの仕方すら知らなかったが、不器用ながらも頑張っていたのを思い出す。レオもエスコートされる側というのは中々慣れなかった様で、少し戸惑っていたっけ。
     今ではもうこんなにスムーズに出来るようになったのだから、レオに褒めて欲しいな。
     差し出した手の平に、レオの手の平が乗せられる。手を引こうと思った矢先、レオが俺より前に歩み出た。先を行くレオの弾みそうな程軽い足取りを見て、悴んでいた心がじんわり溶けていくようだった。
     足の向かう先は、思い出のあの場所。

     ***

     12月24日。一般に、クリスマス・イヴと呼ばれる日。クリスマスとは、恋人と共に過ごすには甘い一日になるであろうイベントだが、独りで過ごすには中々に侘しく虚しいものだ。
     今までクリスマスには人に囲まれていた俺は、大人になってからも一人で聖夜を迎えることはなかった。勿論、隣には相棒の凪がいて。暖かく楽しい時間を共に分け合っていた。
     そんな俺達の関係が変わったのが、3年前のこの日。例年通り待ち合わせをして屋外でショッピングをし、俺の家で夜を越そうというプランが立っていた。
     しかし、その日はそうはならなかった。まず、昼過ぎに家を出れば凪がドアのすぐ隣に立っていたのだ。待ち合わせは駅前だった筈なのに。凪に手を引かれるまま車の助手席に乗せられ、あれよあれよと名の知れた大きな自然公園まで連れてこられたのだ。
     たまにはこんなのもいいな、なんて思いながら暫く園内を散歩した。疲れたからベンチに座ろう、という凪の提案に頷いて散歩道の脇にある小洒落たベンチに腰かけた。
     あのときの事は鮮明に覚えている。その日もどんよりとした曇り空で、俺は不満げに天を見上げていた。そこで、不意に凪が言ったのだ。
    「今日は曇りだけどさ、レオがいれば晴れみたいなもんだよね」
     何を突然訳の分からないことを言い出すのかと凪の方を見やれば、彼の視線は下を向いていた。
     空なんて見ていないじゃないか、と凪の挙動を不思議に思って見つめていれば、数秒してやっと顔を上げた。その顔は、ケーキの上に乗った苺のように真っ赤だった。寒さを理由にするには無理があるくらいに。
    「つまり、何が言いたいかって、」
     所々詰まりながらも言葉を零す凪がなんだか面白くて、思わず笑ってしまう。
     笑わないでよ、と凪が言うから、ごめんと一言謝ってもう一度目を合わせる。
    「俺にとって、レオは太陽みたいな人だよって、言いたかったの」
     俺の手をそっと握る凪の手は、普段の彼からは想像できないほど震えていた。
    「レオのことが好きです。」
     なんて甘酸っぱい告白だろうか。今まで幾度となく投げかけられ色を失っていったその言葉が、凪の手によって色彩を持つ。
     もういい大人だというのに体を捻り足をばたつかせて悶えたくなったが、凪の真剣な眼差しに目を逸らせなかった。
    「パートナーっていう関係に、恋人を付け足したいんだけど……いいですか?」
     控えめだけど、確かに愛を感じる言葉だった。
     そりゃあ答えは一択だ。
    「勿論!」
     それから俺達は、フィールド場のパートナーとして、そして人生のパートナーとして互いの隣を歩むことになったのだ。
     これが、3年前のクリスマス・イヴの出来事。
     車に揺られながら、思い出に耽ける。あのときはどんな物をプレゼントしたっけなあ。ああ、オーダーメイドで香水を作ったんだっけ。そうそう、運転席から香るような、軽い甘さと爽やかさのある俺好みの香水。
     自分が贈った物を使って貰えるって、結構嬉しいんだよな。気分が良くなって鼻歌を歌っていると、車はゆっくり静止した。

    「着いたよ」

     駐車場から出て入り口を目指す。視界に広がるのは、広大な敷地と枯葉の絨毯。それから、多くの子連れの家族やカップルだった。
     ここは、3年前に訪れた自然公園だ。

    「懐かしいな」
    「そうだね」

     足先で空を掻けば、落ち葉がひらり舞う。遠目で見れば美しい布のように見える枯葉の一つ一つが、異なった表情で俺を出迎えた。
     空気が澄んでいて息がしやすい。肺いっぱいに空気を吸い込めば、微かな草花の匂いが鼻腔を通り抜ける。
     踊るような足取りで先へ進む。一歩後ろから凪が俺を追って歩く。

    「俺、ここ好きなんだよな。力が抜けるっつーか、なんか安心する。」
    「そっか。良かった」

     本当は凪のその素っ気ない返答も、絶妙な距離感も、俺は心地良いと感じるのだけど、少し恥ずかしくて言えなかった。
     木々に囲まれた道を奥へと進み、湖畔に踏み入れる。暫くすれば、一つ目の出口が見えた。

    「そろそろ出よっか」
    「もう出るのか?」
     
     もう少しだけこの空間を堪能していたいと思ったが、凪が優しく手を引くので仕方なく連れていかれることにする。
     少し歩いて駐車場へ向かう。車に乗り込めば、すぐに次の目的地へと進んだ。

    「どこ行くんだ?」
    「秘密」
    「また秘密……」

     今日はサプライズが多いな。ま、そういうの嫌いじゃねえけど。

    「少し時間かかるから寝てていいよ」
    「そんなかかるのか?じゃ、遠慮なく」

     目を瞑れば、己の鼓動が生き生きと鼓膜に響くのを感じた。

    ***

    「レオ、起きて」

     目を覚ませば、窓から差し込む光が瞳に染みる。
     
    「着いたのか」
    「うん」

     車から降りれば、そこはサッカーコートだった。

    「なんでまた……」
    「クリスマスだから使ってるチームもないし、小さいとこだから貸切できたよ」
     
     さっさと前を歩く凪に着いて歩く。受付を通って中に入る。受付にはきちんと人がいて、クリスマスだっていうのに大変だとぼんやり考えていると、いつの間にか更衣室に入っていた。
     
    「着替えるのか?」
    「うん。レオに貰った服だし、汚したくない」
    「ふーん……」

     凪にしては珍しくタイトな服を着ていると思ったら、俺の好みだったのか。
     最近は凪の好みに合わせて緩めの服をプレゼントしているから、少なくとも4年以上前の贈り物だろう。筋肉量も増えているだろうし、キツくはないのだろうか。
     しかし、こうして今でも大切に使ってくれているのは嬉しい。思わず笑みが零れる。
     服を渡され、それに着替えてコートに向かう。

    「サッカーでもすんのか?」
    「いや、今日はしない」

     凪は手に持った箱のようなもの見せた。

    「これはクリスマスプレゼントです」

     変に畏まった言い方をする。

    「これが欲しければ、俺を捕まえてください」

     なるほど、鬼ごっこで勝てばプレゼントが貰える。実にシンプルなゲームだ。
     
    「いいぜ。やってやるよ!」

     それを合図に俺たちは緑の上を駆け出した。リーチの長い凪に追い着くには足の回転を速くしなければならないが、如何せん履き慣れていない靴の所為か上手く走れない。
     凪がカーブをしようとしたとき、内に回り込んで凪に触れようとすると、ターンで躱された。バランスを崩した俺は地面にダイブ、なんてことはなく、気付けば大きな手に支えられていた。

    「うおっ」
    「危な〜。レオがバランス崩すなんて珍しいじゃん」
    「服も靴もいつもと違うからな」

     というか、これって。

    「ありゃ、俺これ捕まった判定になる感じ?」
    「俺の勝ちだな!」

     息を整えながら、凪は手に持った箱を俺に手渡した。

    「中身見ていいか?」
    「いいよ」

     美しい白基調の箱を開けると、中には紫の宝石のネックレスが丁寧に仕舞われていた。

    「ネックレス?」
    「そう。たまたま見かけて、レオみたいだなって思ってたら買っちゃった」
    「そっか!ありがとな!」

     アクセサリーをじゃらじゃらと身につけるタイプではないが、これは大切に使おう。ネックレスを箱に仕舞い服を着替えここを出た。

    「今日はまだあります」
    「まだあるのか!?」
    「うん。楽しみにしてて」

     車に乗れば、運動の疲労からかすぐに眠気がやってきた。

     ***

     目覚めれば辺りはすっかり暗くなっていた。

    「そろそろか?」
    「うん」

     暫く窓の外を見ていると、暗かったはずの視界がいつの間にか数多の電球によって照らされた。

    「ここだよ」
    「イルミネーションか」

     車を降りて並木を眺めながら歩く。ずらりと続く光に圧倒させられる。

    「規模でかいな」
    「有名らしいからね」

     イルミネーションなんてただの電球の集合体だと思っていたが、凪と一緒に見るだけでこんなにも見え方が変わるのか。

    「綺麗だね」

     目が合う。瞳に映る光があまりに美しくて、つい見蕩れてしまう。

     再び視線を並木移し、その場に佇む。ふと、シャッター音が聞こえたので振り返る。

    「上手く撮れたか?」
    「うん。最高」

     こいつもイルミネーションに心動かされることあるんだな。昔じゃ考えられなかったのに。

    「ちょっと眩しいくらいが丁度良いよね、レオは」
    「俺?」 

     言葉の意味を理解出来ないまま手を取られる。するりと指が絡まり、きゅっと握られた。冷えた指先がじんわりと熱を持つ。

    「ねえレオ、まだレオに見せたい景色があるんだけど」

     なんだ、まだサプライズに続きがあるのか。

     ***

     凪の手の温もりを感じながら歩くこと約十五分。俺たちは再び自然公園に足を踏み入れていた。

    「なんでまたここに来たんだ?」

     問えば凪はこちらを見たものの、黙って歩みを進めた。答える代わりに、握った手に力が籠っていくのを感じる。
     足の向く先は、いつか見た湖だった。湖はこの寒さに氷となっていた。
     
    「すげえな」
    「レオ、こっち」

     手を引かれるままついて行く。

    「おい!そっち湖の方だぞ」
    「そうだよ」

     凪は氷の上に乗ると、繋いでいない方の手も絡めてきた。

    「入っていいのかよ」
    「さあ」
    「さあってお前……」

     恐る恐る足を踏み入れれば、強く手を引かれた。

    「うおっ」
     
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