「おいゆーじ。お前連絡もよこさねーでどこ行ってたんだよ」
暗闇の中、寮の入り口。
仁王立ちで待つ男は、夜でもサングラスを携えて、木枯らしと共に白い髪をそよがせた。
「どえぇ? 何でそんな怒ってんの?」
「早く任務が終わったから飯でも行こうと思ったのに、連絡しても返事一つよこさねー白状な後輩の事なんて、これっぽっちも腹なんて立ててねえけど?」
「めっちゃ怒ってんじゃん。え、あ、そっか、電源切りっぱだった。ごめん先輩」
「ほー。んで? こんな時間までどこ行ってたんだよ」
五条の長い腕が虎杖の首に巻き付くように引き寄せ歩き出せば、ぐっと二人の顔の距離が近づく。
「いや、東堂に無理やり拉致られたんだって。高田ちゃんのコアク? とかなんとか。いやあ初めて推し活? って言うのに行ったけど、すっげーのな。皆目キラキラさせててさ、なんかちょっと感動したわ……って、先輩どこ行くん?」
「お前に償わせてやる為にコンビニ」
「えー、俺悪いの? まあ俺もちょっと小腹減ってるし、肉まんくらいなら」
「あんまんだっつーの」
「へいへい」
所々で点る灯篭が二人の足取りを映す。
時折強く吹く風が冷たくて、虎杖は五条を風よけにでもするように寄り添えば、察した五条はわざと離れ先を歩く。勿論虎杖も屈することなく背後から抱きつき、そのままじゃれて高専敷地内を後にした。
「それにしても高田ちゃん凄かったなー。俺もファンになっちゃいそうだったもん。やっぱテレビで見るのと実際見るとでは違うよな~」
「はぁ? そうやって誰にでもホイホイ媚売るのがアイツらの仕事なんだよ。まんまとひっかかってんじゃねーよ」
「そりゃそうだけど。……ま、俺には他にいるし」
「は?」
低い声を出した五条が突然立ち止まるもんだから、背後で纏わりついていた虎杖の顔が、勢いよく五条の背中に押しつぶされた。
「ぐぇ。先輩急に止まんないでくれるかなぁ?」
「お前に推しとかいたのかよ」
ぶつけた鼻先を撫でながら虎杖が訴えるのを他所に、五条は虎杖の両肩をがっちり掴みながらその顔を覗き込む。
「んー、推しっていうか、でもまあ推しと言えば推しか。その人の事考えるだけで心がポカポカするし、会えたらそれだけで一日ハッピーって感じ。あと、メールだと意外と可愛いとか……」
「は? メール? 誰だよソイツ」
「痛い痛い痛い、先輩ちょ、タンマ、ねぇ聞けって!」
ギリギリと肩に指が食い込み虎杖が顔を歪ませた所で、思い切り五条の額に頭突きすれば、五条が漸くふらついた。
「ってぇ……」
「今のは正当防衛だからね。ったく。先輩って結構向こう見ずなとこあるよな」
「うっせぇ。お前がそんな顔してんのが悪い。お前は最強を教えて欲しいんだろ? そんなわけのわかんねー奴にうつつ抜かしてる場合じゃねーって事」
「無問題! だって俺の推し、っつか好きな人は、その……最強だから」
今度は決して鼻が痛い訳でもなく、照れくさそうに鼻を擦りながら笑う虎杖に対し、五条は暫し呆然と立ち尽くす。
「あれ? ちょ、先輩? なんか言ってくんねーとハズいんですけど……」
「っ、おま、ばっ、コンビニ、奢ってやるからサッサと行くぞ」
「え、先輩、待っ……てか返事とか、ねぇ!」
二人だけの夜道。
遠くなる背中を追いかけた、他愛もなく、かけがえのないただの一日だった。