それは伊地知さんといた時の事。
突然パッと五条先生が現れたかと思ったら、俺に向かって『やっほ~』なんて言いながら伊地知さんに向けて手を差し出す。そして伊地知さんから何かを受け取ると、俺たちに一言添えてすぐに消える。
なんて事が何度かあったので、俺は思い切って伊地知さんに聞いてみる事にした。
「いつも先生に何渡してるの?」
「嗚呼、あれはですね……五条さんって財布、と言うか現金を持ち歩かないんです。外ならカードも使えるんですが、高専の自販機で飲み物を買うには小銭が必要でしょ? それをとりに来るんです。あ、決して私のお金をせびってる訳ではなく、ちゃんと五条さんのお金ですので安心して下さい」
「わざわざ伊地知さんの所に来るのめんどくない?」
「五条さんにしてみれば飛んでくる事は呼吸と同じなんだとか。それよりも小銭を持ち歩く方が苦なんだそうで。正直私である必要はないと思うんですよね。一度取りに行くなら部屋に置いておけばいいはずなのに」
「確かに。あ、じゃあさ、その財布役、俺がやろうか?」
◇
「ゆーじ」
「先生⁉」
部屋で寛いでいたら五条先生が急に現れた。
ドアからではなく。
シュンって目の前に。
そして手を差し出す。
「聞いたよ」
「……あれか! ちょっとまってね」
俺はタンスの中にしまっておいた財布を取り出し先生へと振り返る。
「ん? おつりが出ない方がいいんだよね?」
「今日は悠仁ごと貰いに来たよ」
そう言って俺の腰を掴むと、一瞬にして高専の自販機前へと辿り着いた。
「奢ってあげるから好きなの選びなよ。って、財布持ってるのは悠仁だから、なんか僕が奢られる気分だねぇ」
「やった! ごちになりま~す」
「お前、これ狙いで僕の財布役に立候補したんだろ?」
二段目右端に陳列されているイチゴミルクのボタンを押すと、ガコンと音を立てて缶が落ちる。
「違うって」
多分先生が飲むのはこのイチゴミルクだろう。先手を打って手渡せば、ご満悦の先生。
俺もなんだか甘い物が飲みたくて、一段下のココアのボタンを押した。
「じゃあ僕に会う為の口実だったり?」
——ガコン。
取り出し口の前にしゃがむ。
顔が火照っていくのを感じて立ち上がれずにいると、代わりに先生がココアをとって、立ち上がるのを催促するように悪戯な笑顔と共に缶を差し出した。
「そう……って言ったらどうする?」
仕方なく白状して、想像より熱い缶を受け取り立ち上がる。
見つめた先、相変わらずの笑顔がグンと距離を縮めてこう言い放った。
「百点満点あげちゃう」
*****
単純にさとるって普段小銭持ってなさそうだなーってところから。
ゆじの片思いとみせかけて、実はさとるの手の上って言う。ゆじが伊地知といる時だけそんなんしてゆじの気を引いて、まんまと。
『実際小銭は持たないけど、そんな年がら年中高専の自販機で飲み物買わないでしょ?』by.S
健気なゆじ可愛いね。