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    9s0z9

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    ちょそ推し五悠狂い

    ついったしたごゆの壁打ち置き場にしたくて。

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    ワンドロお題 下準備 より
    ケーキバース

    #五悠
    GoYuu

     偶然か必然か。それとも運命か。
     宿儺の器となったこの子供が僕にとっての最高のケーキだったなんて。
     気付いたのは仙台で初めて会ったあの夜。宿儺と入れ替わった悠仁と手合わせした時、汗か何かが丁度口元に飛んできて理解した。
     身震いする程の感覚。十数年ぶりに感じた味覚は、一滴でも舌先から毛細血管まで一瞬で僕の中を駆け巡り、高揚感と幸福感を一気に絶頂へと導いた。
     僕の事実を知るのは硝子と伊地知だけ。
     症状が現れ始めたのは親友が離反した日。味がしなくなった事に、最初はストレスだろうと思っていたが、いつまでたっても味はしない。むしろ段々泥の様に糞まずくなっていく。あいつもこんな味したものを飲み込んでいたんだろうか。そんな事が過る夜を何度か過ごし整理を付けた頃、いざ硝子に話をしてみれば、フォークと呼ばれる人種じゃないかと仮説立てられた。
     探してくれた古い文献によれば、味覚障害の発症は言わばガンのようなもので、生まれながらにその細胞は組み込まれているが、発症するもしないも人それぞれ。発症せずに死を迎える者も少なくない。ガンと違うのは、フォークと呼ばれる人間以外にはその細胞はなく、全人類の細胞の中に組み込まれてる訳ではないらしい。
     そしてもう一種、普通の人間とは違う細胞を持ち得ている人種がいる。それをケーキと呼ぶ。
     ケーキもまたフォーク同様希少な人種ではあるが、フォークのような何か障害がある訳でもなく、ただケーキ細胞が組み込まれている人種と言う事。フォークもケーキも見た目はなんら大勢いる人間と変わらない。
     何がある訳でもないので、自身がケーキであると認識する事なく生涯を終えるのが殆ど。——ただしフォークと出会わなければ。
     ケーキとは、フォークにとって最高の御馳走なのである。
     ケーキから分泌される汗や涙や血液、体液のみならず、皮膚や肉、髪の毛までもがその名の通り甘く、至高の食材なのだ。自分で自分を舐めた所で勿論甘さなど感じない。運動してかいた汗はしょっぱいし、血を舐めた所で鉄の味しかしない。フォークだけがケーキをケーキだと認識し、感じる事の出来る味覚なのだ。
     そんなフォークとケーキが出会ったら……。
     三大欲求の一つである食。そこに障害を持つフォークがご馳走を目の前に、果たして理性を保っていられるであろうか。今まで満たされる事の無かった欲が、目の前のケーキに対して執着せずにいられるだろうか。
     文献によれば、生涯を伴侶のように過ごした件はごく稀で、大概が猟奇的殺人事件として記録に残されていた。
     まぁ一般人が急にフォークになったら無理もない。その点、呪術師である僕なら、理性のコントロールはお手の物だし、もしケーキを見つけたとて、一瞬の快楽に殺してしまうなんてナンセンスな事もしない。この糞不味い食生活から逸脱し、生涯美味いモノを食べると誓おう。
     なんて心に決めて早十年。
     宿儺の器に成り得る存在でさえ千年に一度だっつーのに、その上僕のケーキにお目にかかれるなんて。
     バレないよう時たま一部を拝借し欲を満たす。余りにも甘美なソレに溺れぬよう必死に律しながら。
     捕食されているのは一体どっちか。
     悠仁と言う極上の餌に釣られたのは確実に僕の方だが、その餌の退路を塞ぐ為、少しずつ僕への好意を植え付ける。
     しかしそんな矢先に悠仁は死んだ。一時だけど。笑
     ホント最高だよね。術師やってりゃ大抵の事は経験してきたつもりだけど、宿儺にケーキに心臓無くなったのに蘇生って。半年前でさえもうこれ以上の事はないって思ってたのに、二十八歳にしてまだまだこんな事経験するなんてね。
     これから悠仁は僕と一緒に生きてもらわないといけないのに簡単に死なれては困る。だからこの機会に悠仁を匿って徹底的に呪術師としての基礎を教え込む。同時に僕ととびっきりの愛を育んでもらう。
     なんてことはない。僕のケーキが身寄りのいないお人よしの子供で良かった! なんて思っていたが、僕の事をキラキラした目で慕ってくれる悠仁に、実のところケーキ云々差し置いて僕の方がメロメロだった。
     抱き締めれば暖かく、何となく甘い香りが漂う。嫌がらせのような任務で疲弊してたとしても、足繁く地下室へ通えば、迎えてくれる悠仁の笑顔に癒されて。
     ここを出してあげられないから、一緒に映画を見たりするのが殆どだが、たまの息抜きにこっそり夜中に連れ出して、悠仁を知る者のいない場所まで飛んで散歩を楽しんだり。
     元々スキンシップに敏感な方でもないから、過剰なくらい距離を詰めたり。
     そうやってゆっくり僕を意識させてきた仕上げ。交流会前にそろそろ僕(フォーク)の存在を告白してもいいだろう。
     毎度はぐらかし一緒にご飯を食べなかった事への不信も拭ってやれる。
     もしかしたら優しい悠仁は罪悪感でも持つかもしれない。こんな状態である僕を前に、美味い美味いと食べて過ごした所為で。
     キミは一体どんな顔を僕に魅せてくれるだろう。案外何も変わらずあっけらかんとしてそうだけど。
     でもそれじゃ困る。
     同情じゃなく僕を大好きって言って愛して身を捧げて貰わないと。
     今日の為に特注で用意した食器を手に、橙の灯りを目指し一歩ずつ階段を降りる。
     さて、今日は久しぶりに美味しいディナーになりそうだ。
    「あ、先生! おかえり~」
    「ただいま!」
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