「せんせ、ちこくちこく!」
一つベッドの上、すやすやとまだ夢の中であろう五条の体を揺さぶりながら、隣で同じように横たわったままの虎杖が声をかける。遅刻の言葉とは裏腹に、起こし方はすこぶる優しい。
五条がもぞもぞと身じろぎ虎杖に巻き付く肌色の長い腕に力が加わると、目を閉じたままでも覚えている唇の場所を、虎杖よりも少し大きくて艶やかな唇が、起こそうと騒ぎ立てる唇を塞いだ。
「ン、……もう八時になっちゃうよ。ほらちゃんと起きて」
「まだ目覚まし鳴ってない」
「さっき止めた」
「嘘」
「うん、嘘。だから早く起きてよ」
虎杖の不可思議な言葉にまだうつらうつらする瞼をこじ開けると、五条の今日は虎杖の満面の笑みから始まる。
「おはよう、先生」
「おはよ」
五条が横目見た時計の針は、案の定本来起きるはずのそれよりも三十分早い。
ショートスリーパーなのは今も変わらないが、それはあくまで短時間でも支障がないというだけで、恋人の隣で一緒に眠ると言う行為は五条にとって至福のひと時だった。
「今日から出張なのに、早起きさせてごめんな先生」
寝起きの声とは遠く、自分の為に悩んだであろう時間に五条は虎杖の優しさを噛み締めながら、二人の間で繋がれた暖かな手がぎゅっと握り締められると、応えるように五条も握り返す。
「嘘つきな悠仁くんにはお仕置きが必要とみた」
「甘いよ先生。今日はエイプリルフールだから嘘ついてもいい日なんだな~」
悪戯な笑みが近づき五条の唇を啄む。
つい二日前に知らされた五条の急な出張。見覚えのある日付に託けて、虎杖はささやかな我儘を欲張ってみせた。そしてそれが分からない五条でもない。
物分かりがよくて寂しがりやな恋人の為、一刻も早く帰って来れるよう努めようと心に誓う。
勿論、虎杖が作り出したこの三十分も、存分に愛し合うに抜かりなくーー。