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    slekiss

    @slekiss

    QMA・YGO(GX未履修)・悠久・格ゲー(主にSNK系、初期のBB)・刀剣等。
    今描ける環境ほぼないので基本文字書きのひと。
    過去絵(主に描きかけて飽きたやつ)や駄文をぽいぽいと。

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    slekiss

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    はい今日は何月何日ですか? そうですね1月6日です(嘘
    そんな訳で大遅刻かましたアルベルト(とシアンさんの)誕生日ネタ。ほんのりアル1主。何でも許せる方向け。
    外国では間接ちゅーはあまり意識しないときいたので、そこらへんは敢えて突っ込んで表現していません。

    1主:シアン・ローズ。口の悪いツン多めのツンデレ。今回はかなりのデレ(当社比)
    朝がクソ弱い。

    以上を踏まえておけば読めると思われます。

    #悠久幻想曲
    longFantasia
    #腐
    #アル1主

    わける、いわう その日、シアン・ローズは明けきらぬ薄暗い街の中を歩いていた。
     人々が起き出すには少しばかりまだ時間がある。冬の朝特有の空気が容赦なく剥き出しの頬を刺し、思わずぶるりと身震いした。
    「あ、シアンさーん、こっちこっち」
     聞き馴れた声に顔を上げれば、早朝にもかかわらず何故か行列を成している一角が目に留まる。その中央あたりで手を振っているのは、シアンを呼び出した張本人。
    「よかったー、約束通り来てくれたんだね」
     おはよう、と笑顔とともに挨拶をくれたのは、茶色の髪に大きな黄色いリボンが印象的な少女、トリーシャであった。
    「おう、おはよう。てかこんな朝っぱらから何の用だよ」
     ふわあ、と欠伸をしながら問うと、彼女はいきなりシアンの腕をとらえた。そのまま呆気にとられたままのシアンと自分の立ち位置をくるりと入れ替える。
    「よっし。じゃ、よろしくねシアンさん」
    「は?いやちょっと待て。わかるように説明しろ!」
     ぽんぽんとシアンの腕を叩いてから素早く踵を返そうとするトリーシャの肩を、慌ててひっ掴んで引き留める。
    「えー、ボク、今日は花の水やり当番だから急いでるんだけど」
    「それと今の俺の状況に何の関係がある。いいから説明しろ」
     昨晩いきなりジョートショップに押しかけて来たと思ったら、一方的に約束を取り付けて嵐のように去っていかれたのだ。説明しろと詰め寄るのは至極当然といえよう。
    「んもう、しようがないなあ」
     やや大袈裟に溜息を吐いてみせて、トリーシャはよく聞いててね、と人差し指をたてた。
    「実はね、今日はアルベルトさんの誕生日なの」
    「……は?」
     予想の斜め上を行く言葉に、シアンの思考が一瞬フリーズする。
    「わかった?」
    「──いやわかんねえよ!!」
    「えー、シアンさんちょっとニブくない?まだ頭働いてない感じ?」
     それだけ言えば通じるでしょ、と言わんばかりに首を傾げられるが、彼女の言葉は何の説明にもなっていない。ただ単にアルベルトの要らない個人情報を知っただけだ。たとえシアンが朝に強いタイプだったとしても、アルベルトの誕生日を知ったぐらいで彼女の思惑を読み切れるなどとは到底思えない。
    「誕生日にはケーキがつきものでしょ。アルベルトさん、ここのケーキ好きなんだって」
    「だからどうした」
     今日はアルベルトの誕生日で、それを祝うために彼が好きだというケーキが必要である。
     そこまではわかる。だが、何故自分がこんな朝っぱらから呼び出されて、こんなところに立たされているのかがわからない。核心に迫ったようではあるが、肝心の説明がなされていない上に全くさっぱり理由に触れられていないという事実に、はたして彼女は気付いているのか。
    「ここすっごい有名なお店だから、これくらい朝早く並ばないと売り切れちゃうんだよね」
    「そうかい。だがそれと俺がここに居ることに何の関係がある?」
    「まだわかんないの?ボクの代わりにケーキ買っておいてねって言ってるの!」
    「はァ!?」
     やや食い気味にシアンが叫ぶ。
    「なんで俺があの槍馬鹿のためにこんな朝っぱらから呼び出されなきゃなんねえんだよ!!」
     これがトリーシャ本人のためであったり、彼女の友人──たとえばイヴやシェリルなど──のためであれば、渋々とはいえ普通に了承するところだったが、なにしろ対象があのアルベルトである。あれほどいがみ合い、最終的には取っ組み合いの喧嘩に発展するほどに仲の悪い相手のために、なにが悲しくて自分が「おつかい」を頼まれなければならないのか。
    「そもそもなんで俺なんだ。他に頼める奴居るだろうが」
    「あ、そうそう忘れてた。はいケーキ代。流石に奢らせるのは気が引けるからね」
    「話を聞け!!てか金の問題じゃねえし!」
     むしろそれ以外のことを気にしてくれ。
    「ああっ、ボクもうホントに時間ないんだ。早くしないとお花が花壇から脱走しちゃう」
    「下手な嘘で話逸らしてんじゃねえ!!」
    「とにかく!ボクホントに急いでるから!じゃあねシアンさん、ケーキよろしく!!」
    「おい、ちょっと待て!」
     しゅたっ、という効果音が聞こえそうなぐらいの勢いで手を挙げると、トリーシャは今度こそ振り返ることなくその場から走り去っていった。
    「──ッ!やってられっかクソッタレ!」
     吐き捨てた勢いのままその場を離れようとして。
    「……」
     ぴたり、と踏みとどまった。
     別に柱に縛り付けられているわけでも、トリーシャとちゃんとした約束を交わしたわけでもないのだから、このまま列から外れたところで責められる謂れはないのだけれど、今ここを離れたら後でトリーシャから延々と文句を言われるのは想像に難くない。それに、このままケーキをゲットすれば、もしかしたらアルベルトの野郎に貸しを作ることが出来るかもしれない。それから──

     好物を前にしたあいつは、どんな顔をするのだろうか。

    「……って、なに考えてんだ俺は」
     咄嗟に浮かんだ考えを打ち消すように舌打ちをするが、一度脳裏に過ったそれは消えることなくシアンの胸の内に燻ったままだ。
    「……阿呆くさい。どうかしてるぜ」
     店はまだ開く様子がない。自嘲を含んだ溜息を吐きながら、シアンは店の壁に寄り掛かった。
     本来即断即決がモットーであるはずなのに、何故かこの件に関しては「列を外れて帰る」という選択が出来ずにいる。
     自分の性格上、心底嫌うもののために、しかも苦手な早起きまでして何かをしてやるなど到底ありえないことだ。それなのに、こんなくだらないことで悩み、帰宅することを決めかねている時点で、本当は──

    「完全に詰みじゃねえか、こんなの」

     ほんのり目尻に散る朱を自覚しつつ、シアンはそれを誤魔化すように行列を睨めつけた。
    「早く開けよ、クソッタレが」



     あれから数日が経つ。シアンはベッドに寝転がったまま、ぼんやり天井を眺めていた。
     あのあと、購入したケーキをトリーシャに渡す際、当然のようにアルベルトの誕生日パーティに誘われたのだが、どうせ顔を合わせれば喧嘩になるのはわかりきっている。いくら気に入らないやつだとしても、せっかく友人たちが設けた祝いの席を台無しにするような野暮な真似はしたくなくて、シアンは適当な理由をつけてそれを断った。勿論トリーシャには散々文句を言われたが。
     それより、今日は久し振りに何の予定もない休みだ。先程目が覚めたばかりだが、いっそこのまま寝溜めをするのも悪くない。さてどうしようかと考えはじめたそのとき。

     微かにドアを叩く音がきこえた。
    「……はい?」
     誰だろう。
    「アリサさん?」
     一番可能性の高い名前を呼んでみたが返事がない。
    「誰だ?」
     誰何の声に、ドアの向こうで何やら躊躇うような気配がしたが、相変わらずいらえはない。寝起きで重い身体を動かすのも億劫なので勝手に入ってこいと言いたかったのだが、生憎ドアには鍵を掛けてある。シアンは仕方なくがしがしと栗色の髪を掻きながら起きあがると、無言でドアを開けた。
    「うおっ」
     開くと思っていなかったのか、訪問者は驚いたような声を上げて一歩飛び退る。
     そこに居たのは──
    「……アルベルト?」
    「よ、よう」
     何故こいつがここに居る?
     てっきりアレフ辺りだと思っていたシアンは、予想外の更に外に居た人物の突然の来訪に一瞬混乱した。
    「は?え……なんで?」
     寝起きで惚けた琥珀の双眸がまるく見開かれる。結うどころか梳いてすらいない栗色の髪がさらりと揺れた。
    「……えと、その、なんだ。入っても、いいか?」
    「え?あ、ああ……」
     余程惚けていたのだろう。普段ならば問答無用で叩き出してもおかしくないアルベルトを、あっさりと迎え入れてしまった。
    「……お、お邪魔します……」
     あちらもあちらで動揺しているらしく、常ならば絶対に言わないであろう言葉を宣いながら、所在なさげに部屋の片隅で突っ立ったまま微動だにしない。
     ただ、その視線だけは物珍しそうに──当然ながら、シアンの部屋に入ったのは初めてだったので──きょろきょろと落ち着きなく室内を見回していたのだが。
    「……で?」
    「へ?」
    「へ、じゃねえよ。何しに来たんだ手前」
     なんか用かよ、と漸く我に返ったシアンがすうっと琥珀の瞳を細めながらアルベルトに視線を向けた。
     いつもの見馴れた青い長衣ではなく、くだけた私服らしきものを着ているところをみると、どうやら今日は非番らしい。珍しいものを見たなと思っていると、アルベルトは手にしていた小さな白い箱をシアンの前に突き出した。
    「……やる」
    「あ、え?」
     またもや予想だにしなかった出来事にシアンの言語中枢が仕事を放棄する。言われるままに箱を受け取ると、それとアルベルトの顔を交互に見つめた。
     開けていいかという意味だと思ったのだろう。アルベルトは壊れた人形のように何度も首肯を繰り返した。
    「……?」
     その勢いに押されたかたちで箱を開けたシアンは、箱の中身を認めた瞬間再び固まることになる。
    「……これ……」
     そこには、あの店のケーキが入っていた。
     但しそれは、シアンが買い求めたホール状のものではない。カットされた状態のケーキがひとつ、冷却魔法のかかった小袋とともにちょこんと箱の底に鎮座ましましている。
    「昨日、トリーシャちゃんに聞いたんだ。オレの誕生日に出てきたケーキ、テメエが並んで買ったんだってな」
    「……っ」
     内心シアンは舌打ちした。そうだ、買ったものを渡すことだけに気を取られて、口止めするのを忘れていた。
    「金を出したのはトリーシャだ。俺は並んだだけだ。だから」
     そんなことをされる謂れはない。そう言いたいのに何故か言葉が続かなかった。
    「それから」
     まだ何かあるのか、と戸惑い気味にアルベルトの顔を見る。少し高い位置にある薄墨色の瞳と視線がかち合った。
    「テメエの誕生日も、1月なんだってな」
     今度こそ、シアンの琥珀が驚愕の色を刷いた。
    「なんで……」
     こいつがそれを知っているのか。


     シアンはエンフィールドの門前で行き倒れているところをアリサに助けられた。その際、名前を含む記憶の一切を失っていたため、衣食住はもちろんのこと、新たな名前までも彼女から与えられることとなる。その恩返しとして今もなおジョートショップで働いているが、受ける依頼によっては怪我などで病院の世話になることも多く、カルテ作成に必要だということで、受診時に誕生日を求められた。
     突然言われたことだったが、記憶を失くした後のシアンはそういうものに頓着する性質ではなかったため、どうせならわかりやすい日付にしようとあっさり新年最初の日である1月1日に決めてしまったのだ。
     だがそのことは大っぴらに話してはいない。それを知るのはドクターと、それから。
    「……アリサさんが教えてくれたんだ。オレと近いから、って」
    「……そうか」
    「だから、テメエの誕生祝いも兼ねて、それを」
    「……そ、うか」
     腹から胸にかけたあたりがぞわりと疼く。それがなんなのかわからなくて、知らず箱を持つ手に力が入った。箱が軋む音に、慌ててそれを緩める。
    「それだけだ。じゃあな」
     こころもち早口でそう告げて扉へ向かうアルベルトの腕を咄嗟に掴んだ。
    「……え?」
     振り返った薄墨色の瞳に戸惑いが滲んでいる。
    「え、あ……いや」
     何故そんなことをしたのか、シアン自身もよくわかっていない。けれど、このままアルベルトを帰すのはなんだか違うような気がした。
    「……手前は」
    「は?」
    「手前のは……ないのか」
    「え、オレ?」
     アルベルトは純粋に驚いた。
     素直に受け取って貰えたこともそうだが、よりによって自分の取り分の話など、いつもの彼からは想像がつかない。部屋にあげてくれたことといい、一体どうしたというのだ。
    「オレ、はこないだ食ったし……」
    「ひとりじゃ嫌なんだよ」
     手前も食ってけ。
     無意識に飛び出たその言葉の意味をアルベルトが問い詰めるより先に、手掴みでケーキを持ち上げたシアンが、それを勢いよくアルベルトの口に押し込む。
    「むぐ!?」
     咄嗟のことにアルベルトはほぼ反射的にケーキを噛み砕いた。口周りをクリームで汚しつつもごもごと咀嚼するのを見届けると、シアンは三分の一ほどに小さくなった残りのケーキをぽいと口に放り込んだ。
     口の中のものを飲み込んでから、クリームにまみれた掌をぺろりと舐める。ある意味いろめかしいその仕草にどぎまぎしていると、
     「ん、美味い」
     初めてみせた満足そうな笑みに、今度こそアルベルトの鼓動がこの上なく跳ね上がったのだった。
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