夏橙と小銃 今日のためにあつらえた涼しげな色合いの浴衣、父さんが選んでくれた透き通った飴玉のようなかんざしと、宝石のような鼻緒飾りの草履。
夏の宵、ごった返す祭りの中、さりげなく人の波からこちらを庇いつつ、あれやってみる?あれ食べなくても大丈夫?と、いちいちこちらへお伺いを立てるのっぽの幼なじみに、アニはため息をつく。
「…そんなに気を遣われたら、疲れるんだけど」
「え?あ、あぁごめん」
わたわたと大袈裟に慌ててみせるベルトルトの様子を尻目に、「あ、射的やろうよ。あんた得意でしょ」と声を掛けると、「う、うん!」と言いながらこっちの後をひょこひょことついてきた。なんというか、大型犬の飼い主にでもなった気分。
腰を屈めて、低い射的の台からスナイパーのように玉を撃つ。正確なショットは、水鉄砲のおもちゃの箱をパタリと倒した。
「銃で銃を獲るなんて変なの」と笑うと、「そうかな…?」と照れていた。その反応にも思わず笑ってしまった。
射的の戦利品の他にたくさんの食べ物を屋台から買った。リンゴ飴に、焼きそばに焼き鳥。ステーキ串なんてものも買って、たくさんになった荷物を全部持とうとするから、「半分持つよ」と言うと、頑なに拒否される。
「僕がそうしたいんだ」
アニには荷物を持たせられないと宣い、まるでか弱いお嬢様のような扱いをされ、鼻白んだアニはベルトルトの脛へと鋭く蹴りを入れる。
痛みに悶絶してしゃがみ込んだベルトルトから荷物を奪い、その中から水鉄砲だけを彼の胸へと押し付け、「私のボディーガードをしたいならそれだけ持ってな」と言うと、アニはさっさと歩き出した。
顔にふりかかる髪を、ほんのり赤くなった耳に掛けながら。