花よりステーキ ライナーはスマホを弄りながらレジャーシートの上でひとり寝転がり、幼馴染の帰りを待っていた。
宵の広がる空にはもうすぐ大輪の花火が咲く頃だ。
地元の花火大会は、アニの実家(道場を経営している)が大会に協賛をしているため、毎年花火の観覧スペースの分配があった。子供の頃は三人の親も同伴で花火やお祭りを楽しんだものだが、みんな成長した今はライナーとベルトルトとアニと、幼馴染三人で祭りへ繰り出すようになっていた。
とは言え場所取りをしておかなければ、あっという間にスペースは無くなってしまうもので、場所取りを買って出て、ベルトルトとアニの二人に買い出しを任せた。……ベルトルトがアニに片想いをしているのは知っていたし、アニだって満更でもない様子なのだ。ちょっとしたきっかけだが、これで二人の仲が進展するといいと思いつつ、なかなか戻って来ない二人に寂しさも募らせていた。
あの二人が何処かにしけ込んで、俺ひとりここに取り残されたらどうしよう、なんて不安に思っていると、両腕に荷物を抱えた幼馴染ふたりが戻ってきた。
ベルトルトは「ただいまぁ」と言いながら両腕いっぱいの荷物をにこやかに掲げて見せ、アニは「ほら」と水鉄砲と手持ち花火のセットをライナーへ手渡してきた。
戻りが遅かったのも頷ける荷物の量に「大量だな」と笑うと、「ライナーが好きそうなものを選んでたらこんなになっちゃった」と向こうもまた笑っていた。見れば確かに焼き鳥、フランクフルト、唐揚げ棒に牛ステーキ串など、ラインナップが肉肉しいものばかりだった。
自分の好物を選ぶ幼馴染たちの様子を想像し、表情を綻ばせながら、「こんなのもあるのか、旨そうだな」と牛タン串を手に取ると、のっぽの幼馴染は「アニが見つけたんだよ!…手分けして買ってたら牛のステーキ串が被ってしまって」と照れながら話していた。……せっかく二人きりで買い出しに行かせたのに、お前ら個人行動してたのか!とツッコミを入れそうになったが、「でもライナーお肉好きだから食べてくれるよね?」なんて上目遣いでお伺いをたてる黒髪の幼馴染の様子にむっつりと口を閉じた。
ライナーは可愛いものを目にすると、真顔で黙る癖がある。それを知っていて、こちらのやりとりを隣で見ていた金髪の幼馴染は、肩をすくめて「…ご馳走様」なんて呟いている。
アニ、違うんだと頭の端で思いながらも、「はい、あーん」とカップルよろしくステーキ串をこちらの口へ差し出すベルトルトを拒めずに、あーんと、口を開けた。その瞬間、花火が打ち上がった。
夜空に咲く大きな花火を見つめる嬉しそうな幼馴染の顔が目に焼き付く。……結局、ベルトルトとアニの仲は特に進展しなかったようだが、それでも良い。いや良くはないのだが、暗闇の中花火に照らされるベルトルトに見惚れてしまった自分に、二人のことを応援することは出来ないなと、今更ながらに悟った。
今後のことは置いておいて、とりあえずかわいい黒髪のっぽの幼馴染に屋台飯を食べさせて貰う幸せを享受する。今のライナーにはドンドンと打ち上がる花火より、ベルトルトが口に運んでくれるステーキ串の方が大事だった。