キャッチャー・フォー・ユー「あー!あとちょっと!」
「あーあ、残念…」
「うおおお!やったー!」
「頼む頼む…!来てくれ〜‼︎」
きゃあきゃあと悲喜交々な歓声をあげながら、人々がこちらを見つめている。
僕はぬいぐるみのベルトルト。この透明な囲いの中で、外の世界へとだれかが連れ出してくれるのを、他のぬいぐるみたちとともに待っている。
僕らの頭上で右へ左へと動くアームは、この場にいるふわふわの誰かを掴んだり掴めなかったりで、外でその様子を見ている人々も、ここにいる僕らもヤキモキとしてしまう。
最初に僕たちが入れられた箱の前に立ったのは、悪ぶった感じの馬面の男だった。何度も何度もチャレンジして、ミカサのぬいぐるみを外へと連れ出した。
そしてその様子を見ていたらしい彼の友達(ぎゃあぎゃあと騒々しい坊主の子と何故か片手に芋を持っている茶色のポニーテールの子だった)に茶化されて顔を真っ赤にしながら、三人仲良くこの場を後にした。
見た目とは裏腹に、丁寧にぬいぐるみをしまっていた彼は、きっとミカサを大切にするだろう。
次に来たのは黒っぽいゴテゴテな服を着た女の子だった。迷いない手つきの無駄のない所作で、とんでもない早業でエレンのぬいぐるみを颯爽と掴み取ると、大事そうに抱えてるんるんと帰って行った。
あのペースで景品を取られたら、破産してしまう…と店員たちが恐々としていた。
その次はそばかすの散った背の高い女の子と、綺麗な顔立ちの背の小さな女の子が、お互いにそっくりなぬいぐるみを取って帰って行った。
お人形遊びは柄じゃないけど、これなら何人でも欲しいぜ。
私も。ユミルそっくりのぬいぐるみが取れて嬉しいわ。鞄につけようかな。
なんて話していて、とっても仲が良さそうだった。
最後に来たのは大学生くらいの男女四人組。
兵長!あ〜!兵長!こっちに来てください〜!
と、四苦八苦しながらリヴァイさんのぬいぐるみを何とか獲ろうとするも、どうにもうまいようにいかないらしい。
四人が、「もうお金が…!」なんて言っているうちに、「ちょっと失礼するよ」と、俳優さんみたいな金髪紳士が現れ、リヴァイさんを獲りにかかった。が、全然取れない。スマートな紳士だが、こういったゲームには慣れていないのだろう。驚くほどに全然取れない。だが紳士は涼しい顔をして、びっくりするような額の札束をなんども両替して、相当な金額を積んで遂にリヴァイさんのぬいぐるみを勝ち取って行った。
大学生たちはポカーンとその様子を見ていて、嘘だろ…?あれならこの機械ごと買った方が安いんじゃないか…?このゲームセンター買い取った方がはやかったろ…などとドン引きした様子で口々に話していた。
そんなこんなで僕の周りのぬいぐるみたちは軒並み外の世界へと飛び出していった。
僕はドキドキ、ソワソワしながら、この機械の前に人が立つのを待っていた。
だが待てど暮らせど、アームが僕を掴むことはなかった。僕の前を通りすがる人たちは、これはいらないなぁ、とか、もっとかわいいのが向こうにあったよ、と言って、僕の前を興味なさげに通り越していった。
僕がこの透明な箱の中に入れられて、どれくらい時が経ったのだろう。
今日も閑散とした箱の中にひとり。キラキラ輝いてる外の世界。楽しそうな人々の様子。でも僕だけ蚊帳の外だ。周りの様子を見るのがつらい。売れ残ったぬいぐるみはその後どうなるのか、僕は見えない明日に怯え、透明人間になった気分で、誰も見ていない箱の片隅で目を閉じた。
ガタンッ
急な浮遊感と、どこかに落とされた感覚で目が覚めた。眠っていた僕は訳がわからないまま、むんずと大きな手に体を掴まれた。
「ハハッ寝相が悪いな。あんな隅っこに寝転がってたら、でかくても見えないだろ」
「ほんと。やっと見つけたよ…それにしてもあんたUFOキャッチャー下手すぎ。朝までかかるかと思った」
「コツを掴むまでが長かったんだよ。俺の手持ちで取れるとこまで漕ぎ着けたんだから、上出来だろ」
僕を狭いところから拾い上げた大きな手から、小さな細長い指の手がサッと僕を奪い取ると、ポンポンと頭や体についた塵を払ってくれる。それを慌てて大きな手がまたバッと僕を奪い取ると、大事そうに胸に抱いてくれた。
「じゃあ帰るか、俺たちの家に。な、ベルトルト」
こうしてライナーとアニに見つけてもらった僕は、透明な壁の中を抜け出した。
ふわふわのぬいぐるみは癒されるものだと言うけれど、ぬいぐるみの僕は、この二人の存在に癒やされて、助けられた。
もう僕はひとりじゃないという安心の中、僕は彼らの腕の中で、今度はぐっすりと眠りについた。