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    夢魅屋の終雪

    @hiduki_kasuga

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    夢魅屋の終雪です。推しのRがつくものを投稿してます

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    夢魅屋の終雪

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    ※女体化注意
    江澄は月に一度満月の前後三日間女体化する体質。
    虞氏の先祖の中で妖魔と婚姻を結んだ者がおり、その為だと伝わっている。
    虞氏一族全員に現れる事ではなく、稀に表れる体質のため、世間にはあまり知られていない。
    虞夫人は、新月の前後の三日間男体化していた。

    #曦澄

    月下の夜想曲【一夜目】雲夢江氏の宗主は、満月の前後になると決まって妓楼に通うという噂がある。
    馴染みの妓女がいるのかと勘繰る者がいるが、そうではない。
    その妓楼は、江澄が秘密裏に丸ごと買って楼主となった遊郭である。
    蓮花塢でも限られた者しか知らない江澄の秘密があるのだ。

    「はぁあああ、めんどくさい」

    妓女にしては行儀の悪い着飾った女性が、部屋の一室で足を組んで座っていた。
    そこには、やり手婆と雲夢江氏の仙師が控えている。
    やり手婆は、江澄が幼いころに世話になった乳母だ。
    十数年前から江澄の私邸からこちらに移って、妓女たちの世話をしている。
    その隣にいるのは、江澄の護衛と世話役の梓観世という男。
    普段は主管の補佐役を務めているが、
    生まれたころから江澄の従者として育ったためにこの秘密にかかわるには重要な人物になる。

    「仕方がないでしょう、公表なさらないのならここで隠れていただくしかないのです」
    「そうですよ、坊ちゃん。月に三日のお休みだと思えばよいのです」
    「休んでられるか」
    「主管や私たち門下を信じて頼ってください」

    ふてくされるように、頬を膨らませてぷいっと顔をそむける女性。
    彼女こそが、雲夢江氏の明星である。江澄その人だった。

    「子供の頃は、こんな事なかったのに」

    そういって、ごろんと床に寝転んだ。
    満月の前後の三日間、江澄の体は女になる。
    女体化し始めたのは、数えれば十六年以上も前の事。
    温氏に私刑された時に変な術でもかけられたか?と温氏の仙術を調べたが、そんなモノはなかった。
    ならば血筋かと思うが、江氏宗家は江澄だけ分家もちらほら生き残ったが、文献は燃やされてしまった。
    ならば眉山虞氏に聞けばいいかと訪れたら、とんでもない事を伯母から聞かされた。

    『虞氏の先祖の中で、妖魔と婚姻を結んだ方がいらしたの。
    妖魔の血のせいでね、虞氏は、男は満月女は新月の前後の三日間に性別が変わる体質なの。
    でもその妖魔の血は薄れているから、今となってはあなただけが発症しているわ、阿澄。
    三娘もその体質でね。新月前後の三日間は、男体化していたのよね』

    知らなかった。母が男になっていたなんて……父は知っていたのだろうか?
    夫婦だから知っていただろう。
    いや、仲の悪い夫婦だったし年中別居みたいな生活を送っていたのだ知らなかったかもしれない。
    眉山虞氏から、母についてきた家僕たちは知っていたのでは?
    だが、虞氏の家僕を母に持つ梓観世は知らなかったようだ。
    母に付き添っていた金珠と銀珠は確実に知っていただろうし、
    もしかして愛人だったのでは?なんて、自分の親でよこしまな妄想をして思考を打ち止めした。

    体質か、なら仕方ない。で、すむか!と、当時は荒れたものだ。
    とりあえず、梓観世と主管が話し合った結果がこの妓楼だ。
    元々壊滅状態だった遊郭を破格で買い取って、料理と芸事と夜狩で成形を立てている。
    雲夢は広い為、蓮花塢だけでは情報が来ない。
    しかも、江澄が荒れまくったせいで、辺境では妖魔や邪崇が出ても信頼が地に落ちた。
    辺境ではないけれどここは雲夢の見張り台のようなモノだ。
    妓楼に努めている妓女たちは、雲夢江氏の門下の仙師である。
    それを支える従業員たちも江澄が選んだ信頼のできる者たちだ。
    この企画を立てた時に、反対される事は多少はあったが選ばれた仙師たちは「楽しそう」とこちらで務めている。

    江澄や雲夢江氏の重鎮が通う遊郭となれば、遊びついでに情報は落ちるし店経由で依頼も来る。

    「俺もやり手婆の年頃だと思わないか、趙婆」
    「なんてお方でしょう。お婆の生きがいを取る気ですか?」
    「だって、なんで俺が筆頭妓女にならにゃならんのだ?裏方でもいいじゃないか。休みだっていうなら、休ませろ」
    「休めと言ったら、退屈だと二か月も持たなかったのは誰ですか」

    ぴしゃりと皺のついた手で、江澄の足を叩く。
    だからって、筆頭なんてつけなくたっていいじゃないか。

    「それに、あなたがいけないのですよ。うかつに客の前に出ててしまうから」
    「お前が、俺を馴染みの妓女とかいうからだろう」
    「妓楼に女性がいるのだから、妓女だとしか言いようがなかったんですよ」

    顎を掴んでにらみつけても、この従者には意味がない。
    そんな戯れを鏡がうつしだしており、江澄は亡き母が写っているように見えた。
    その時、一瞬だがびくりと手が震える。梓観世から手を離すと、鏡を見つめる。
    女の江澄が着飾れば、母にそっくりになるのは当たり前なのだ。その化粧が、母を江澄を一番美しく輝かせるのだから。

    (まぁ?!母に似なかったのは、この胸なんだが?!)

    男の時の方がまだ大きいその胸は、豊満だった母とは違って控えめだった。
    お陰で、紫蜘蛛!と母に憧れを抱いた者たちが集まってきたが、この胸を見て「違いますね」なんて言いやがる。
    胸で、女性を判断するな!と叱れば、変な客が付いた。
    まぁ、姉も?控えめだったし?と自分に言い聞かせた。
    今は座敷に出る時は、口元を布面で隠している。顔を見せろという客がいるが、楼主の命でできないと断っている。
    楼主は、江宗主であることは客には知られておりそれで大体は治まった。
    それに、梓観世が馴染みの客として江澄と共にいるから、江澄が客の相手をするのは稀なのだ。
    梓観世の妻は、江澄の父方の親戚で分家である。
    しかも主管の妹なので、事情は把握済みなので夫婦の間に亀裂は入っていない。

    「最近、俺の体質が変わった理由が解った気がする」
    「偶然ですね、私もです」

    ぽつりと鏡の前でつぶやけば、従者も頷く。
    金丹移植だ。一度破壊された金丹は、元に戻ることは無い。
    けれど、金丹移植したために眠っていた妖魔の血が目覚めて体質変化となったのかもしれない。

    「梓観世」
    「なんですか?」
    「お前、昔は俺の事魏無羨によく間違えてたが……それもやっぱりこれか?」

    梓観世は、忌々しいあの日から人の顔を区別がつかなくなった。
    見え方としては、顔だけが見えないのだという。
    区別をつけるには、声、仕草、匂い、服装、髪型というモノだ。そして、無意識的に金丹を見抜いていた。
    それに気づいたのは、つい最近だった。
    人間、一つの感覚が壊れてしまえばほかの感覚で補うというのはよく言ったものだ。

    「はぁ……退屈」

    江澄は、大きくため息をついて再び寝転がった。
    女体化したからと言って、性格は変わるものではない。
    しかし、表立って仕事もできない出かけられない動けないというのが、江澄には退屈でしかなかった。
    その退屈しのぎが、お座敷で芸事を客に披露する事である。
    お陰でこの十六年以上は、舞や歌の稽古も努力してきた。

    『江宗主の剣術は、まるで舞っているようで美しいですね』

    その言葉を発したその人の顔が、江澄の脳裏に浮かび上がった。
    ぼっと火のついたように顔が赤くなり、うつ伏せになって乳母と従者から見えないようにする。

    (もうそろそろ、あの人が閉関を終えるんだったか……)

    舞のようだと褒めてくれたその人は、観音廟の事件から心を閉ざした。
    江澄も文を出したが、読んでくれていたらしい。返信も来たが、定期文だ。それどころか、優麗だった文字がぶれっぶれで読みにくい。
    そこから彼の心境を察してしまう。けれど、文を書き続けずにはいられなかった。
    この一年は、この退屈な三日間の一時は暇つぶしにもなった。

    【そろそろ、閉関を解こうと思っています】その一文を読んで、心が弾んだ。

    子供の頃から、宗主の跡継ぎとして知り合った。
    座学の時に実力を見せつけられて、その強さに憧れた。
    襲撃を受けた後、金丹移植の時に保護された時は彼の優しさに癒された。
    宗主になった後も藍氏は、江氏を後押ししてくれていた。
    何も返せぬまま、三尊のように、金光瑶のように親しくなれぬまま年月を過ごした。

    (ほかの宗主たちよりは、多少は親しかったとは思う)

    だが、金光瑶や聶懐桑ほど彼と過ごしたかと言えば否だ。
    江澄には、女体化するという秘密があった。それを、藍曦臣にすら知られたくはなかった。
    だから、距離を置いた。
    江澄の悪夢の一つに、妖魔の血を引く事で罵られる事があった。
    同族殺しだとか、妖魔の血を引く者は宗主にふさわしくない、父が振り向かなかったのも当然だと。
    『汚らわしい』と、藍曦臣にさげすまされた夢が一番つらかった。

    「……ん?」

    外が騒がしくて江澄は、腕力だけで体を起こす。
    不穏な気配を察知したのだろう梓観世は、乳母を背に庇う様に立つ。
    江澄が、窓を開ける。すると、何かが飛び込んできた。邪崇だと気づいた時には、それは目の前に迫っていた。
    従者に引っ張られて突撃をするのは免れたが、次に飛び込んできた者が窓をけ破ったのだ。
    その勢いで邪崇を壁に蹴り飛ばしたのだ。霊体である邪崇は、物理攻撃は通じない。
    その足蹴りには霊力がこもっており、邪崇に攻撃をしたのだ。そして、霧散した。

    「封じるはずだったのにな。新しい仙術は、力加減が難しい」

    聞き覚えのある声に、従者の腕の中からその仙師を見た。
    鉄紺と言えばいいのだろうか姑蘇特有の藍染の旅装束を着込んだ仙師は、三人に振り替える。

    「あ、失礼しました」

    髪型はいつもと違って高い位置で一つにまとめ上げて居る、かつての聶明玦がしていたような髪型だ。
    額には抹額がしていないが、髪をまとめているのは抹額ではなかろうか?
    目元には、隈ができており前髪はまとめておらず乱れている。
    変装というならば、打球点だろう。しかし、江澄はわかってしまった。

    「沢蕪君……」

    ぽつりと、言葉をこぼしてしまったのだ――――…。


    ******


    号を呼ばれた藍曦臣は、男の腕の中にいる美女を見た。
    どきりと胸が高鳴り、どきどきと心臓が跳ね上がる。
    変装がばれたとかそういう心配以前に、その女性が美しすぎたのだ。

    「お、お名前は?」

    気づけば、男に抱きしめられているその美女に名前を訪ねてしまっていた。
    後で聞けば、彼女がいた妓楼は江澄が通っているという噂の妓楼だった。
    しかし、それはただの噂であって、彼が楼主だという。
    彼女を守っていたのは、江宗主の腹心の一人であった為に説明をしてもらった。

    「では、弁償は江宗主にすればよろしいのでしょうか?」
    「あ、いえ。我が君は、所要でこちらにも蓮花塢にもいらっしゃいませんので、こちらの方にお願いできますか」

    そう彼に言われたのは、普段店を預けられているやり手婆だ。
    老婆ではあるが、大叔父くらいの年齢の仙師だと藍曦臣にはすぐに分かった。修位も低くない。
    大きな物音がして駆け付けた妓女や従業員たちも、仙師である。

    「どうして、仙師である方々がこの妓楼でお勤めを?」
    「藍宗主、気づいても口に出さないのが作法でございましょう」
    「あ、すみません」

    梓観世は、頭を押さえてため息交じりに指摘した。
    その為、こぼれた言葉を戻す様に口に手を添えたが、覆水盆に返らずだ。
    壊れた窓を戸板でふさぐからと別の部屋に、移される。

    「ああ、確かに江宗主の評判は端に来るほど『恐ろしい』『凶悪』とか申されてますものね」

    この妓楼の存在意義を説明されて、ぽんと手を打つ。
    梓観世は、苦笑しかできなかった。

    「ですが、蓮花塢に近ければ近いほど江宗主の評判は良いモノです」
    「そうでしょう」

    自慢げに頷く彼は、本当に江澄に忠誠を捧げているのだろうとわかる。

    「こちらの秘密も打ち明けられたのです。なぜこちらにいらっしゃったのですか?
    閉関中だと我が君から聞いておりますが」
    「数日前から閉関は解いていたのですが、修業をした為に霊力が高まってしまって力の制御がお恥ずかしながらできないのです。
    先ほども邪崇を封じる予定でしたが、消滅させてしまいました」
    「蹴りを入れたのは見事でした」

    彼の声的には、嘘をついてはいないが褒めてもいない。
    主の店を壊されたのだから、致し方ない。

    「修理の費用のめどがつきましたよ」と、部屋の入口から声がかけられる。
    やり手婆は、壊れた箇所を藍曦臣に説明をしてそろばんをはじいていく。
    それなりに高値が付くかな?と思っていたが、かなり安く請求された。

    「そのように少なくて、よろしいのですか?」
    「装備品は壊れていなかったんでね。まぁ、金を落としてくれるんだったら、泊まって行きなさいな。
    三日も過ぎれば楼主も帰ってきます」

    泊まっていけというのは、座敷を開けという意味でもある。

    「ここは色は売らないけれど、妓女相手におしゃべりやら芸事をたしなむ場所ですからね。
    ちょうど退屈だと言っていた妓女がいるので、それの相手をしてやってくださいな」

    やり手婆の言葉に、梓観世がぎょっとした顔をした。
    こちらの相手ではなかったのか?と首をかしげると、彼はにこっと笑った。

    「それはよろしいですね!」
    「へ?」
    「楼主代理を任されているので、私も仕事が溜まっているのですよ。
    うちを壊したと罪悪感があるのなら、彼女の相手をしてやってください。藍宗主」
    「あ、はい」

    泊まる所がなかったから、二人の申し出はありがたいものだ。
    竜胆と呼ばれた妓女が、藍曦臣の目の前で梓観世を締め上げたのはこのすぐあとの事だった。
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     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

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    DONEなんとなくGoogle翻訳調
    昔こういうノンフィクションを本当に読んだんです!本当なんです!(多分雌ライオンだったけど…)

    江澄がガチでガチの獣なのでご注意ください
    いや本当にこれを曦澄と言い張る勇気な
    あるレポート

     彼と出会ったのは吉林省東部でのフィールドワークの最中でした。もともと私の調査対象には彼の種族も含まれていましたが、生活の痕跡ではなく生きた個体に遭遇するとは思ってもみませんでした。
     彼は遠東豹。学名をPanthera pardus orientalisといい、IUCNのレッドリストにも規定された絶滅危惧種でした。
     知っての通り豹は群れを形成せず単独で生活します。彼はまだ若く、母親から離れて間もないように見えました。だからおそらく彼がこのあたりを縄張りにしたのは最近のことだったでしょう。
     幸いにしてそのとき彼はちょうど腹が満たされていたようで、私を見てすぐに顔を背けてしまいました。
     横たわる姿は優美で、狩猟の対象にされ絶滅危惧の原因となった毛皮が夕陽を浴びて輝いていました。彼は本当に美しい生き物でした。

     私は彼の縄張りの近くでフィールドワークを続けました。
     ある晩、私のキャンプに彼が忍び入ってきた時、私は死を覚悟しました。
     しかし彼はおとなしく私の目の前に横たわり、優雅に欠伸をしました。
     どうやら彼はこのコンクリートの建物を根城にすることに決めたようで 1954

    takami180

    PROGRESS長編曦澄10
    兄上やらかす
     夜明けの気配がした。
     藍曦臣はいつもと同じように起き上がり、ぼんやりとした薄闇を見つめた。違和感がある。自分を見下ろしてみれば、深衣を脱いだだけの格好である。夜着に着替えるのを忘れたのだろうか。
    「うーん」
     ぱたり、と藍曦臣の膝に何かが落ちた。手だ。五指をかるく握り込んだ手である。白い袖を視線でたどると、安らかな寝顔があった。
    「晩吟……」
     藍曦臣は額に手のひらを当てた。
     昨夜、なにがあったのか。
     夕食は藍忘機と魏無羨も一緒だった。白い装束の江澄を、魏無羨がからかっていたから間違いない。
     それから、江澄を客坊に送ろうとしたら、「碁はいいのか?」と誘われた。嬉しくなって、碁盤と碁石と、それから天子笑も出してしまった。
     江澄は驚いた様子だったが、すぐににやりと笑って酒を飲みはじめた。かつて遊学中に居室で酒盛りをした人物はさすがである。
     その後、二人で笑いながら碁を打った。
     碁は藍曦臣が勝った。その頃には亥の刻を迎えていた。
    「もう寝るだけだろう? ひとくち、飲んでみるか? 金丹で消すなよ」
     江澄が差し出した盃を受け取ったところまでは記憶がある。だが、天子笑の味は覚えて 1652

    sgm

    DONE曦澄ワンドロお題「看病」
    Twitterにあげていた微修正版。
    内容に変わりません。
     手足が泥に埋まってしまったかのように身体が重く、意識が朦朧としている中、ひやりとした感覚が額に当てられる。藍曦臣はゆっくりと重い瞼を開いた。目の奥は熱く、視界が酷くぼやけ、思考が停滞する。体調を崩し、熱を出すなどいつぶりだろうか。金丹を錬成してからは体調を崩すことなどなかった。それ故にか十数年ぶりに出た熱に酷く体力と気力を奪われ、立つこともできずに床について早三日になる。
    「起こしたか?」
     いるはずのない相手の声が耳に届き、藍曦臣は身体を起こそうとした。だが、身体を起こすことが出来ず、顔だけを小さく動かした。藍曦臣の横たわる牀榻に江澄が腰掛け、藍曦臣の額に手を当てている。
    「阿、澄……?」
     なぜここにいるのだろうか。藍家宗主が体調を崩しているなど、吹聴する門弟はいないはずで、他家の宗主が雲深不知処に来る約束などもなかったはずだ。仮にあったとしても不在として叔父や弟が対応するはずだ。当然江澄が訪れる約束もない。
    「たまたま昨夜この近くで夜狩があってな。せっかくだから寄ったんだ。そしたら貴方が熱を出しているというから」
     目を細め、伸びて来た江澄の指が額に置かれた布に触れる。藍曦臣の 1972