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    大きくお話はうごきません。
    今章のメインにつづく説明回。

    #ひよジュン
    Hiyojun

    九尾の日和と人の子ジュン「・・・あのぉ、」
    ドタバタと愉快な対面を果たした四人は現在、客間のテーブルをはさみ、それぞれに茨のいれた紅茶とジュンが手土産に焼いてきた木苺のパイを手元に並べて座っている。ジュンは隣に座る日和の尻尾が上向きになって時折揺れるのを視界の端にとらえながらも、斜め前に座る凪砂のじっとみつめる視線に耐えきれず声を上げた。
    「凪砂・・・さま?えっと、オレの顔に何かついてます?」
    「・・・あれ?私?・・・あぁ、ごめんね。日和くんの連れてきてくれたパートナーである君のことが気になっちゃって。見つめてしまっていたみたい。君がジュンだね、初めまして。私は凪砂。よろしくね。・・・私にも日和くんみたいにステキなあだ名をつけて呼んでくれると嬉しいな。」

    凪砂ににっこりと微笑まれると全てを赦されたような不思議な感覚に陥る。あだ名・・・というのも烏滸がましい話だが、ジュンには先に気になることがあった。
    「あの、名前っ、えっと・・・あぅ」
    ジュンの放った素っ頓狂な言葉に凪砂と、先程まで興味なさげにしていた茨までもが目を丸くしてはてなを浮かべている。「・・・名前?凪砂だよ。ごめんね。聞き取りづらかったかな?」人の子とお話しするのは久しぶりだからうまく声帯が使えてないのかな?と凪砂が茨に確認する姿を見ていられずにジュンは俯きかける。
    「ジュンくん、大丈夫だよ。ちょっぴり緊張しちゃったね。凪砂くん、ジュンくんはどうして凪砂くんや茨が自分のことを知っているのか気になってるみたい。」
    ジュンの頭にぽすんと手を置いたあと、視線を凪砂に向けて日和が優しい口調でジュンの聞きたかったことを問うてくれた。

    ジュン自身、最近気づいたことなのだが、長い時間を日和と二人で過ごし、会話の主導権を持たずに成長してきたため"自発的な会話"というものがどうにもうまくいかないのだ。日和はとてもお喋りで、たくさんの話をジュンに聞かせてくれたし、日和のいない時は本を読んで知識を蓄えたり、庭に遊びにくる小鳥などの小動物にはすらすらと自分のことを話せたのできっと話せない訳ではない。最近は時折遊びに来るようになった燐音もジュンの会話練習に付き合ってくれている。———少しは上達したと思ってたんすけどねぇ。がくりと肩を落としたジュンに凪砂が声をかける。

    「・・・ジュン。気を落とさないでほしいな。私も日和くんや茨と出会うまでは人語というものをうまく操れなかったよ。だからジュンもできないと思わずに沢山話をしてほしいな。」
    そこから、そうそうと続いた凪砂の話の内容はあまりに人外的で且つ難しい言葉が多かったのでジュンにはピンとくるものが殆どなかったが、なんとかわかる部分を繋ぎ合わせて要約するとつまりこういう話だった。———凪砂は神だから分かろうと思えばなんでも分かる。日和に手紙を飛ばした時には既にジュンの存在を知っていた、と。
    確かに神社で神さまにお願いする時は頭の中で願い事を唱えるものだというし、凪砂も神であるのだからジュンの想像の及ばない能力を持っていてもおかしくはないのだろう。それでも、目の前でつらつらと話される内容がとても現実のものとは思えずに混乱した。

    「閣下の話をまともに理解しようとしても到底無理ですよ。そういう事もあるんだな程度に消化してしまわないと、高尚すぎてとても理解には及びません!特にジュン氏。あなたは人の子。神などという遥かに遠い存在を理解しようとする事自体が無謀———烏滸がましいとも言えるでしょうな。」
    「・・・それって、寂しくねぇですか?」
    声に出してからジュンははっとした。神さまに対して寂しいだなんて失礼なことを言ってしまっただろうか。でも、日和が親愛なる家族として大切にする存在のことを、例え分からなくとも理解しようとしないのは違うと思った。神さまだからといって最初から諦めるのはひどく寂しい。神さまにもこの寂しいという感情が当てはまるのかは分からないがそう思わずにはいられなかった。

    「・・・ジュンは優しいね。」
    細められた凪砂の眼に視線が釘付けになる。神が———凪砂がこうして微笑んでくれるのならなんだって出来るような気がした。家という日和の加護を出る時に日和からは口酸っぱく、人ならざる者に簡単に心を開いてはいけないよと忠告されてきたのだが、この人たちと一緒にいて悪いものに心を奪われることなんてないんじゃないかと思えた。


    さて、と茨の打った手で少しずつ緊張も解けてゆるりと続き出した会話が止まる。
    「では、本題に入るとしましょう。」
    「・・・本題?」
    「えぇ。今回殿下、もといお二人をお呼びしたのは協力いただいたいことがありまして。」

    凪砂にちらりと目配せをしてから茨が話し出した内容はこうだった。

    凪砂と日和を離れ離れにしたあの事件から、二人の加護を失った村はみるみるうちに衰退していき、数十年もすると消滅してしまった。凪砂はこの土地に人や妖の侵入を許さない結界をしかけて、争いのない静かな暮らしを求めた。———どうやってそこに茨が入ってきたのかはまた別の話として、最近この土地の中に兎が一羽、正確には兎の妖だが。が迷い込んできた。どうやって入ってきてしまったのかは分からないが、神の張った結界を幾度も自由に通れるわけもなく、今度は出られなくなってしまったのだ。

    「出してあげればいいね?」とは日和の意見であり、ジュンも思ったことだったのだが、肝心の兎を見つけられないと。凪砂がおおよその居場所を特定して茨が実際に現場に向かうという作戦を何度かとったのだが、姿が見えたのは最初の一度きり。明るい水色の髪がぴょこんと跳ねたと思った次の瞬間には見失ってしまったようで、こちらに敵意はなく外に出してやりたいだけなのだと声を張ってみても、返ってくる声はなくただただしんと静まり返ったいつもの景色が広がるだけだった。

    「まぁ、呼びかけに応じなかった兎さんの気持ちはわからなくもないですねぇ?」とはジュンの言葉で、日和は同意として大きく二回頷いた。「どういう意味です?」「べっつに〜?」と始まった小さな諍いは凪砂の「・・・これがキャットファイトってやつだね。二人ともとっても可愛らしいんだけれど、話を進めてもいいかな?」という一見すると馬鹿にしているともとれるような純粋な言葉でこれまた小さく収拾した。

    こほん、と咳払いをして茨は続ける。
    「そこで、この土地をよく知り、且つ見目は無害そうな日和殿下に捜索のお手伝いをいただきたくお呼びした次第であります!」
    ピシッと敬礼のポーズを決めた茨にがっくりと肩を落とした日和が「無能な毒蛇の尻拭いってこと?悪い日和!」などと答えるものだから、隣のジュンはこの失礼なお狐さまは・・・と天を仰ぐほかなかった。
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    パイプ

    PROGRESSひジ
    怪我をしたジュンくんが今と過去の怪我をとおして日和からの愛を自覚する話。途中。とても途中だけど、長めのお話は連載形式にしないと筆が進まないマンなのでぽい
    怪我の功名、愛に触る「ねぇ、ジュンくん。ぼく、怒ってるの。だからね、」
    今日からその怪我が治るまで、ぼくが君のお世話をしてあげるから存分に反省するといいね。


    とあるバラエティ番組の登山企画で手を滑らせた共演者を無理な体制で庇ったジュンは右手首の筋を損傷してしまい、技師に誂えてもらったサポーターをつけて最低でも一ヶ月の安静を言い渡された。
    Edenとしては新曲のフリ入れ期間でもライブ前のレッスン期間でもなかったし、個人としても冬の寒い時期は身体を張った企画はそう多く入ってこないので、仕事で迷惑をかけることは少なく済んだのが幸いだったのだが、右手首を動かしてはいけないというのは日常生活において不便なことばかりだ。
    医者には痛みは徐々に引いていくと言われているものの、昨日怪我したばかりのそこは未だにうっすら熱を持ち、ジクジクと痛みを訴える。身体が動かせないのだから英語の勉強をしようとペンを持っても指への力の入れ方次第では手首まで痛んでしまうのだからもうお手上げだ。
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