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    warabi_hq

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    warabi_hq

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    まだ🍙の片想いみたいな段階で、
    食べ歩き旅行する治北のお話です。
    超鈍感🌾さん。
    多分このあともふたりはゆっくりすすむ。

    ひさしさんに方言のチェックしていただきました☺️ありがとうございました!

    「これも美味いな」

    道の駅で買い込んだその土地の珍しい食べ物を嬉しそうに頬張る北信介の横顔を、宮治は気取られないように眺めていた。
    見惚れていたと言った方が良いのかもしれない。



    ことの発端は、2ヶ月ほど前、おにぎり宮に納品に来た北信介がカウンターの上にそっと置いた、一枚のチラシだった。
    米の展示会。
    多分「米産業の未来を考える」というような内容の、イノベーションだとか、ソリューションだとか、よくわからない横文字が躍っていて、正直展示会の内容自体にはあまり興味はそそられなかった。
    試食があれば話は別かもな。
    その程度だった。東京の巨大なホールで、4月半ばの平日に三日にわたって開催されるとあった。

    「治も一緒にどうや?」

    「一緒に、ですか?」

    「せや。せっかくやから車で行って、途中の三重やら愛知やら静岡やらに寄り道して、色々見てまわりたいなと思ってんねんけど、あ、信州とかも行けたらええな。治もどうかなと思って」

    「色々、ですか?」

    「治も来るなら、食べ歩きみたいなんも、してもええかな。良い刺激になるやろ?4月やから気候もええしな」

    北さんと二人、車で東京まで。ついうっかり、露骨に喉を鳴らしてしまった。

    「それは、北さんと二人で、ていうことで合ってますか?」

    「それ以外に何があるん?まあ、誰か呼びたい人がおるなら呼んでもええよ」

    「いやいやいやいや、全然、二人でいいです。二人がいいです!」

    「店、休まなあかんやろから、無理そうやったら俺、一人でも行ってこよかと思ってんねんけど」

    「大丈夫です!行く前にちゃんと準備しておけば、そのくらいならスタッフだけで回せると思うんで!ウチのスタッフみんな優秀なんで!!」

    「ほな、オッケーちゅうことやな?」

    「はい!是非!!!」



    そういう訳で、宮治は今、高台に建てられた立派な道の駅で、富士山の見える窓辺に設られたカウンター席に北信介と二人、肩を並べて座っている。

    「美味いですね」

    「そっちのはどうや?ひとくち、交換しよか」

    「ええですよ。ひとくちと言わず、好きなだけ食べてください」

    「そういうわけにはいかんやろ。治食いしん坊なんやから」

    「食いしん坊て」

    「ふふ。昔から食いしん坊のわんぱくやったもんな」

    「わんぱくは、侑がおったからです。あいつが悪い」

    「せやな。今はそんなことないもんな。二人揃うとやんちゃくちゃなるんやろな」

    言いながら、北はそっと、それぞれの前に置かれていたトレイを入れ替えた。
    きちんと並べられたほとんど全ての食べ物が器用に箸を使って切り分けられている。
    その中のひとつに、箸ではうまく切れずに断念したのか、形の良い歯形が残っていた。
    自分より一回り小さなその跡が、とても愛おしく感じる。ゆっくりと味わった。

    行くと決めてから、二人で寄り道の計画を立てて、楽しみにしていた、三泊四日の旅。
    この四日間、ストレスに感じることは一つもなかった。食について真摯に語る彼と、あれやこれやと意見を交換しながら、自分には高度すぎてよくわからなかった展示会以外は、ただひたすら美味いものを求めて軽トラを走らせた。少しでも気になったところは、全てまわった。


    ふと、頬張ったご当地バーガーに入っていたチーズが伸びすぎて若干困っている隣の様子に気付いて、思わず笑みがこぼれる。

    「バーガーなんて、もっとワイルドに行ったらええですよ」

    伸びたチーズをおしぼりで拭った指で巻き取り、自分の口に入れた。


    昨夜。展示会の後、いくつか気になる飲食店を巡り、さらに散歩がてらホテルの近所の居酒屋で郷土料理的なものを堪能した後、部屋に戻った頃には日付が替わっていた。
    治が先にシャワーを浴びてベッドでスマホを眺めていると、シャワーを終えた北が同じベッドに潜り込んできた。
    腕を伸ばすと、当たり前のようにそこに頭を載せ、うふふ、と小さく笑い、ほどなくして寝息を立てはじめた。
    そのまま、朝までひとつのベッドで眠った。
    途中、起こさないようにそっと抱き寄せてみると、形の良い頭からシャンプーの良いにおいがした。
    散々歩き回った上に、酔っていたし、普段二十時には寝る生活の人だから、寝ぼけていたのもあるだろう。
    当然、大人の関係になった訳ではない。ただ、今までとは違う距離感を、確かに感じていた。



    「治と一緒やと、美味いもんいっぱい食えるから幸せやな」
    「俺も。俺も幸せです。北さんとおると」

    なんとなくチグハグな会話をしつつ、北は伸びるチーズとの格闘を終わらせ、バーガーの残りを治に託して今は濃いめのお茶で喉を潤していた。

    「普通の二人やと二倍やけど、治となら三倍頼める。四倍かもしれんな。その分、いろんなもんが食える」

    悪戯っぽく、でも、無邪気に笑う人の横で、美味いメシを食う。ああ、この幸せな時間も、今夜には終わってしまう。

    「せや、あとでお土産売り場にも寄ろうな。ばあちゃんにお土産買わな」

    「そうですね。この後三重にも寄るんで、赤福とかどないです?」

    「それやな、それも買お。でもここのんも見たいやんか。あと、愛知の五平餅もええな」

    「いつもお世話になってるんで、俺も買いますよ。いろんなもんいっぱい買って帰りましょ」

    「おお、すまんな。ばあちゃん喜ぶわ。じゃあ治の母ちゃんの分は俺にまかしとき」

    「ゴチになります〜」

    うきうきと、少年のように笑う彼。この茶目っ気は『ばあちゃん』の影響もあるんだろうか。
    高校の頃は、どうしてあんなに怖かったんだろうな。問題児の双子として過ごした頃とは違う、穏やかな時間が流れていた。




    あちこち寄り道をし過ぎたせいもあって、
    予定よりずいぶんと遅れて兵庫まで帰ってきた。
    高速道路を降りたタイミングで運転を代わる。

    「北さん」
    「ん?」

    信号待ちの助手席で、まっすぐ前を見る横顔を伺った。
    手にはメモ帳とボールペンが握られている。真面目な彼は、多分この旅のことを書き留めているのだろう。
    何の曇りもない澄んだ瞳に、夜の街の光が映り込んでいる。

    「この辺りでもう一泊しませんか?」

    「なんや、急に。あとちょっとで家やんか」

    「この旅のこと、記憶が薄れんうちに、ゆっくりまとめたいんです」

    ふと、目が合う。

    「確かに、それはええかもな。お互い、いろいろ参考になりそうなこともあったしな」

    本当は、あなたとまだ一緒にいたいだけです。
    適当にでっち上げた理由に素直に応じてくれる相手に、ほんの少し、胸がちくりとした。

    適当なビジネスホテルに入り、ベッドしかないような狭い部屋のサイドテーブルに、途中にあった閉店ギリギリのスーパーで買い込んできた軽めの夕飯を広げた。
    コンビニに行くより、スーパーのお惣菜コーナーの方がその土地の美味いもんがある。それが彼の持論だった。
    せっかくやから、これも開けよか。味見。そう言って、お土産の中から信州で買った日本酒の瓶を取り出してきた。
    並べられた惣菜越しに、湯呑みに注いだ日本酒で乾杯をする。



    「北さん」

    酒も進んで、ふわりとした心地よい感覚に包まれながら、つい『米産業の未来』について熱心に語る彼の言葉を遮った。

    「ん?」

    「俺、メシの時間が一番好き言うたやないですか」

    「ああ、言うとったな」

    何の話が始まるんだろう、と期待を含んだ熱い視線が痛い。

    「人間が持ってる、いくつかある欲のうち、一番は今も食欲で変わらんのですけど」

    こんな話を始めてしまったことに若干後悔しつつ、湯呑みに手酌で酒を注ぎ足し、一気に呷ってから続けた。

    「最近、2番目に変化があったんです。色、ちゅうんですか」

    「なんや、好きな人でも出来たんか」

    「はい」

    ほお、それは、ええことやな。
    でも、俺に恋愛相談されても何もアドバイス出来んけどな。
    侑にでも聞いた方がええんやないか。
    角名とかモテそうやけどどうなんやろか。
    姉ちゃんにも聞いてみよか?
    いやそもそもどこの誰や?

    親身になってか、早口で捲し立てられる言葉は、ほとんど耳に入ってこない。
    先ほど呷った酒が、ぐるぐると体を駆け巡り始めていた。

    「北さんです」

    「?」

    「俺が、好きなのは、北さんです」

    しばしの沈黙。

    「おれ?」

    「……はい」

    「北信介で間違い無いんか」

    「間違い無いです」

    驚くほど真っ赤な顔で、固まっている。

    「それは……難儀やな」

    「難儀なんですか」

    「俺は、男やからな。治の赤ちゃん産んでやれん」

    「俺はそれでも構わんと思ってるんです」

    「どういうことや」

    「そういうの抜きで、北さんのことが好きです」

    「色て、そういう意味ちゃうんか」

    心底わからないと困惑した顔に、逆に見惚れる。
    酒のせいで頭が回らず、黙りこくる。

    「難しいな」

    また、しばしの沈黙。ただ、重苦しい空気はない。それだけは断言できる。

    「正直、俺も、この旅の間じゅうずっと、治のこと家族みたいに感じとった。家族、言うんもちょっと違うな。ばあちゃんとか、姉ちゃんとかとはまた違った感覚やってん。自分の家庭を持つってこんな感じかな、とも少し思ったりしとった」

    言葉を選びながら、ゆっくりと紡がれる、声。

    「……これが、恋っちゅうことなんかな」

    もともと他の人間と、多少ずれた独特の考え方を持つ人だ。考え方はずれていても、そこから導き出された答えはだいたいあっている。この人はそういう人だ。
    そう、この人の出す答えはだいたいあっている。
    そう考えたら、治は涙が溢れ出すのを止められなかった。
    盛大に鼻を啜り、顔を歪め、泣きじゃくりながら、言葉を絞り出した。

    「それが、恋だとしたら、俺はすごく、嬉しいです」

    その後の記憶はない。

    ひどい二日酔いで目覚めた部屋のちゃぶ台には、梅干しと、しじみの味噌汁、ゆでたまご、ポカリ、ウコンのドリンクの入ったコンビニの袋と、二人で買い込んだ諸々のお土産。
    そして、整った文字で置き手紙が残されていた。


    昨夜はお互い飲み過ぎたな。
    仕事、辛いやろうけど頑張って。
    旅、また一緒に行きたいな。
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    ☺🙏💖💖💖💖💖💕💗💗💗💗😍😍☺🍙🍙🍵☺👏💖
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    warabi_hq

    TRAINING🍙の気持ちが、双子から離れて🌾さんに寄っていく過程はどんな感じだったんだろう?という妄想。
    二人もう付き合ってます。
    大人になって二人とも実家を出た前提で、何かの用事で帰ってきてるときの二人の会話。
    兄弟喧嘩「なぁ、ツム」
    「なんや、サム」
    「北さん、今頃何してはんのやろな」
    「…………」

    治の問いかけへの侑の返答はなく、雑誌をめくる音だけが静かに響いた。

    高校を卒業し、双子が二人とも実家を出た今も、実家に顔を出せば部屋にはあの頃と同じ2段ベッドが待っていた。双子が成長したからと言って、家の間取りが変わるわけではない。

    「なぁ、ツム」
    「なにて」
    「北さ「もうわかったわ!!!」」

    声と同時に上段に横になっていた侑の腰のあたりの床板が、急に盛り上がり始めた。二枚に分かれた床板の継ぎ目の部分を下段の治が器用に両足を使って押し上げているのだ。

    「こらこらこらこら!やめえや!!」

    侑が地元を離れて数年。いつの間にか、北さんこと北信介と双子の片割れ治が良い仲になっていた。いつの間にか、と言っても全く心当たりがないわけではない。おにぎり宮を開業するにあたって、いろいろと相談を聞いてもらっている様子だったし、おにぎりに北さんの育てたお米を使わせてもらうことはもちろん、稲刈りの手伝いや、田植え、野菜の収穫、最近では北さんのおばあちゃんのゆみえさんに店を手伝ってもらっていることすらあった。
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    ArtSummary2022お試し開催したワンドロワンライにて「年末」をテーマに書いたお話を少し直しました。
    二人は「家族になる」ではなく「家族になっていた」というのが似合うなと思います。

    今年も一年ありがとうございました!
    好きなものを好きな時にしか書けない私ですが、読んでくださり、そしてブクマなどしてくださる皆さまのおかげで楽しく創作ができました!
    来年も皆様が推しを満喫できますように✨
    良いお年をお過ごしください!
    家族【治北】「……え?」
     視界が薄暗い。おかしいと思い寝ぼけた目を開くとやはりそこは物の輪郭がぼんやりとするほど暗く、北の記憶にあるさっきまでの自室の明るさがどこにもなかった。少し横になる、と布団に潜ってからだいぶ時間が経過したことが伺えた。
    「あかん」
     すっかり寝坊をしてしまった。
     今のうちにと今日の今日まで農業機械の手入れや倉庫の整理、今後やってみたい農法や作ってみたい野菜のことを調べていると、大晦日とはいえいつもと変わらない忙しさで動いていた。そんな北を見た祖母や治から、夕食の支度はしておくから夜更かしに備えて少し休んだら、と提案を受け、台所に立ってもあまり役に立たない自覚があるため二人に甘えて二階の自室に下がった。ひんやりとした布団に体をもぐらせても大して眠気は来ないだろうと思っていたが、どうだろう、自分で思っているよりも疲労していたのかもしれない。
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