Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    warabi_hq

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍙 🌾 ⛩ 💕
    POIPOI 10

    warabi_hq

    ☆quiet follow

    付き合いはじめてすぐくらいのいちゃいちゃ

    #治北
    theNorthOfTheCountry
    #おさきた

    あめ沛然と軽トラックの天井を打つ雨の響き。
    ガラスの向こうの景色はひっきりなしに打ちつける雨粒でぼんやりとした抽象画のようになっていた。

    なんとなく流していたラジオの声もかき消され、この狭い空間に二人、取り残されてしまったようだ。

    忙しなく動くワイパーの動きも追いつかず、仕方なく治は路肩に車を寄せ、ハザードのボタンを押した。

    助手席で心配そうにフロントガラスいっぱいの抽象画を眺めていた北信介もその判断に賛成らしく、一旦シートベルトを外すと、ゴソゴソと作業着のポケットを探りはじめた。

    「この様子ならすぐに止むやろ。飴ちゃん、食うか」
    「いただきます」

    出てきたのは熱中症対策であろう、真新しい塩飴。
    (相変わらずちゃんとしてはんのやな)
    微笑ましい気持ちで受け取り、袋を開け口に放り込んだ。

    「支度して待っとるやろし、早よばあちゃんにおっちゃんとこの梅届けてやりたいけどな。これはしゃあないな」

    言いながら自分の分も探しているのであろう、ゴソゴソしていた信介のポケットから出てきたのは、封が開けられ、空になった袋。
    そういえば、さっき梅を分けてもらいに行ったおっちゃんとこのちっちゃい子にも飴ちゃんあげてはったな。
    子どもには袋を開けてからあげたのだろう。手持ち無沙汰に空袋を両手で小さく折りたたみながら、何事もなかったかのようにシートベルトを締め直して窓の外を眺める信介のことが急に愛おしく感じられた。

    雨はまだ止まない。

    治は助手席に身を乗り出すと、信介の肩を半ば強引に抱き寄せ、驚いて見上げる信介と唇を重ねた。
    二人の間でコロコロと転がる塩飴と信介の舌を心ゆくまで堪能した後、ゆっくりと見つめる。

    突然口移しに塩飴を返された信介は、驚いて目を丸くしていた。

    「半分こしましょ」

    「あほ、こんなとこで、誰かに見られたらどうすんねん」

    「俺らラブラブですー言うて、最高の笑顔を返したりますよ」

    顔を真っ赤にした信介が恥ずかしそうに目を逸らし、何かに気付いて徐に空を指さした。

    いつの間にか空は晴れ、虹が渡っていた。

    「さて、ゆみえさんが待ちくたびれてますね。早よ帰って梅仕事、頑張りましょ!」

    田畑の真ん中でうずくまるように停まっていた軽トラックは、軽快に走り出した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    warabi_hq

    MAIKING途中書きのどんきつねさん的なきたさん。
    まだようやく両片想いになったくらいの段階。
    治はこの頃お店の2階に住んでいます。
    小さなキッチンに見合わない大きな冷蔵庫を置いていて、部屋は和室なのでテーブルじゃなくちゃぶ台で食事。
    お店が軌道に乗ってきて、時間的にも金銭的にも余裕ができてきたらもうちょっと広い近所のマンションに引っ越します。
    白狐宮治にとって『飯を食う』という行為は、人生の中で1番の幸福な時間であった。ところがこの数日、落ち着いてその至福の時間を過ごせていない。

    おにぎり宮の営業を終え、一人暮らしにしては立派な冷蔵庫のある部屋に戻り、一日頑張った自分のために拵えた夕飯の並んだちゃぶ台の向こうに、ちょこんと正座する想い人、北信介の姿があった。いつもと変わらない服装のそのひとには、本来あるはずのない、狐のものと思われる真っ白いふわふわの尻尾と、頭の上にはツンと立ち上がった同じく白くふわふわの三角形の耳が存在していた。彼は治が食事を摂る間、きちんと正座をしたまま、じっとその様子を見守っている。

    これが、治がここ最近落ち着いて至福の時を過ごせていない大きな理由だった。そもそも実家で農業を営んでいる彼が、こんな時間に街中の治の部屋にいるはずがないのである。
    3286

    related works

    recommended works

    takikomi_maze2

    DONE神さんにお仕えしてる狐北さんの片想いのお話です(治←狐北さん)北さんの切ない顔が見たくて書きました。

    治北の日に向けて書いたのですが、間に合わず…でも無事に11月中に完成しました!
    長いためぽいぴくでは3つに投稿を分けています。
    力尽きて推敲はざっくりなので少しずつ直していくかもです。
    続きはこちら②→
    https://poipiku.com/1909016/7832007.html
    心の実る処【治北】① 散々ためらった末に信介は漸く戸のくぼみに指をかけた。途端、炊けた米と出汁の温かい香りが一気に胸を満たした。
    「いらっしゃいませ!」
     店内から威勢の良い太い声が響いた。
    「お客さん、店内ですか、お持ち帰りですか?」
    「えっと……」
     カウンターの向こうから帽子を被った男が同じ声量で聞いてきた。まさか選択肢があるとは知らなかった。店内を見ると座敷の席に家族だろうか、一組座っていて、数席のみのカウンター席には一人掛けていた。
     店員を見るとにこにこと笑ってこちらの返事を待っていた。
    「そこの席、空いてますか?」
     カウンターの角の席を指差すと、どうぞ、と男が着席を促した。座ってから改めて店内を見渡すと、カウンターもテーブルも深い飴色になった木材で床は石のような硬い材質でよく磨かれているのがわかった。
    10744

    takikomi_maze2

    ArtSummary2022お試し開催したワンドロワンライにて「年末」をテーマに書いたお話を少し直しました。
    二人は「家族になる」ではなく「家族になっていた」というのが似合うなと思います。

    今年も一年ありがとうございました!
    好きなものを好きな時にしか書けない私ですが、読んでくださり、そしてブクマなどしてくださる皆さまのおかげで楽しく創作ができました!
    来年も皆様が推しを満喫できますように✨
    良いお年をお過ごしください!
    家族【治北】「……え?」
     視界が薄暗い。おかしいと思い寝ぼけた目を開くとやはりそこは物の輪郭がぼんやりとするほど暗く、北の記憶にあるさっきまでの自室の明るさがどこにもなかった。少し横になる、と布団に潜ってからだいぶ時間が経過したことが伺えた。
    「あかん」
     すっかり寝坊をしてしまった。
     今のうちにと今日の今日まで農業機械の手入れや倉庫の整理、今後やってみたい農法や作ってみたい野菜のことを調べていると、大晦日とはいえいつもと変わらない忙しさで動いていた。そんな北を見た祖母や治から、夕食の支度はしておくから夜更かしに備えて少し休んだら、と提案を受け、台所に立ってもあまり役に立たない自覚があるため二人に甘えて二階の自室に下がった。ひんやりとした布団に体をもぐらせても大して眠気は来ないだろうと思っていたが、どうだろう、自分で思っているよりも疲労していたのかもしれない。
    3435