兄弟喧嘩「なぁ、ツム」
「なんや、サム」
「北さん、今頃何してはんのやろな」
「…………」
治の問いかけへの侑の返答はなく、雑誌をめくる音だけが静かに響いた。
高校を卒業し、双子が二人とも実家を出た今も、実家に顔を出せば部屋にはあの頃と同じ2段ベッドが待っていた。双子が成長したからと言って、家の間取りが変わるわけではない。
「なぁ、ツム」
「なにて」
「北さ「もうわかったわ!!!」」
声と同時に上段に横になっていた侑の腰のあたりの床板が、急に盛り上がり始めた。二枚に分かれた床板の継ぎ目の部分を下段の治が器用に両足を使って押し上げているのだ。
「こらこらこらこら!やめえや!!」
侑が地元を離れて数年。いつの間にか、北さんこと北信介と双子の片割れ治が良い仲になっていた。いつの間にか、と言っても全く心当たりがないわけではない。おにぎり宮を開業するにあたって、いろいろと相談を聞いてもらっている様子だったし、おにぎりに北さんの育てたお米を使わせてもらうことはもちろん、稲刈りの手伝いや、田植え、野菜の収穫、最近では北さんのおばあちゃんのゆみえさんに店を手伝ってもらっていることすらあった。
1835