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    kapiokunn2

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    kapiokunn2

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    あの不思議な出来事と、楽しい飲み仲間。

    不思議なあの子 自分は不思議なことには耐性がある。何故かはわからないけどそんな自信があった。昔から本を読むのが好きで、物語の中の魔法やファンタジーの世界に目を輝かせていたからなのかもしれない。こんなことがもし自分の住んでいる世界でも起こったらどうしよう、とわくわくしていた。幼馴染はどちらかというとリアリストで、『そんなことが起こったら困るに決まってるだろ』とまじめに返してくるタイプ。でも変身や合体をするロボットものの作品が大好きで、いつか自分でも作りたいとよく言っていた。いつからかはそんな話をしなくなったけど、ずっと、ずっと一緒に過ごして大きくなってきた。お互い趣味も嗜好も違うのに、『演劇』という本当に好きなものだけは同じだった。だから大人になってもずっと、例えば演じる場所は違っても、一緒だと思っていたんだ。

     秋も深まり、そろそろ外出にはコートが必要になってきた。そんな肌寒い気候でも、暖かいお店の中で飲む冷たいビールは最高においしい。
    「紬、ペース早くない?」
    「え、そうかな。喉乾いてたからかも……」
    「飲みすぎるなよ」
    仕事帰りの至くんと合流してガイさんのお店で飲むことはすっかり定期的なイベントになっていた。今や天鵞絨町のひそかな人気店なので、金曜日の夜となるとガイさんも密くんも忙しそうにしている。
    「ガイさん、人手が足りなかったら丞が手伝うから言ってくださいね」
    「おい茅ヶ崎」
    「そうか。それは助かる」
    「俺も至くんも手伝うから大丈夫ですよ」
     とは言いつつ二人の仕事には少しの無駄もなく、俺たちの出番はなさそうだ。しかし以前、なにげなく丞が接客の手伝いをした時は、お客さんが『丞が接客してる』とSNSに書き込んでその後すごく混んだということがある。雨の月曜で客足も少なかったためにガイさんは喜んでくれた。
    「俺、同年代の飲み仲間とか今までいなかったな」
    「そうなの?」
    「学生の時の友達も同僚も、まあ誘われて暇だったら行くけど……って感じかな」
    「でもお前は暇じゃないんだろ」
    「一秒でも早く我が家に帰りたいからね」
     今は厳しい同居人がいるけど、と至くんが小声で付け足した。MANKAI寮に住んで、そういえばずいぶん経つ。冬組の公演も次でもう9回目だ。

     あの、不思議な体験。俺と丞、それから三角くん以外は誰も気づいていないあの数日間。
    『喧嘩した劇団員は、仲直りしない限りその日をループし続ける』
     入団したばかりの頃の俺と丞は、ろくに目を合わせることもできなかった。せっかく同じ劇団に入ったのに、俺がいるせいで丞が芝居を楽しめない。俺なんかがリーダーじゃ、冬組を勝たせることができない。日付けだけではなく、俺の頭の中も同じことでループし続けていた。
    「けど二人が仲直り、っていうか和解? してくれてほんとよかった。いきなりニコニコで鍋つついてた時はびっくりしたけど」
    「は? そんなだったか?」
    「昨日まで信じられないくらい険悪……っていうか一方的に丞が紬をいじめてたのに、俺が帰ったら肩並べて仲良く飯食ってたよ」
    「仲直りしてなくても肩並べてご飯は食べてたよ」
    「そもそもいじめたりはしてない」
    「でもその後すぐ、至くんがお酒飲もうって誘ってくれたんだよね」
     ちょっとした会話はしてたものの、まだ打ち解けるには至っていなかった頃だった。暇なら少し飲もう、と誘ってくれた。
    『春組は学生ばっかりだしね。左京さんとか東さんに、飲みませんかなんて誘う勇気はまだない』
    『わかるかも……』
    『というかお前この部屋で生活してるのか』
    『めちゃくちゃ快適でしょ』
     はじめての乾杯は、散らかりきった103号室だった。新しい住人のおかげで今は定期的に片付けが行われているらしいけど、あの散らかった部屋はなんだかんだで居心地が良い。それからお互いの部屋だったり、寮の談話室や外の居酒屋で俺たちはなんとなくこの三人の親交を深めてきた。
    そろそろ最後の一杯にしようかと話していると、ガイさんが俺たちの前にグラスを置いた。
    「試作品なんだが、もしよかったら飲んでくれ」
    「へー、ガイさんのオリジナル?」
    「確か、冬の花をイメージしたカクテルを試作してるんですよね。きれいな色だなあ」
    「ああ、グレープフルーツジュースをベースにしてみた。感想を貰えるとありがたい」
     表面に浮かんでいるのはゆずの皮を刻んだものだろうか。爽やかな香りで、飲み会の締めにもぴったりだった。
    「もしかして……水仙の花ですか?」
    「そうだ。色味で表現してみた」
    「まさかの丞が当てた」
    「俺が当てたら悪いのか」
     俺を挟んでの二人のやりとりは、疲れてても、うまくいかないことがあっても俺を笑わせてくれる。この二人がいてくれてよかったなと思えるのだ。

     一度は分かれた道だけど。いや、この先も分かれることはあるかも知れないけど、俺たちは離ればなれにはもうならない。
    演じる場所や住む場所が、例え変わっても。
    でももしまた、素直に仲直りできない時がきたら、不思議な人形が落っこちて来るのだろうか。
    「紬、なにニヤニヤしてるの?」
    「えっ、してた!?」
    「おい、飲み終わったら店の片付け手伝うぞ」
     あの不思議な人形、今度会えたら写真に撮っておいて誰かにかわいさを伝えたいんだけどな。そんなことも思ったけど、喧嘩はしないにこしたことはない。時計を見たら、ちょうど日付が変わったところだった。早くまた丞と、冬組の仲間と舞台に立ちたくて仕方がない。不思議な縁で繋がった俺たちの季節が、もうすぐ始まる。
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    Replies from the creator

    kapiokunn2

    REHABILI二人は俺の推しCP。的な感情の至視点の同棲丞紬です。
    春も嵐も。 遊びに行くのは二回目だった。一回目は、二人が引っ越してすぐ。あの時はまだ開けていない段ボールがいくつかあったけど、あの二人のことだから今はすっかり片付いているだろう。シンプルで無駄なものがなくて、でも所々にグリーンやちょっと独特のセンスな雑貨が置いてある、それぞれの譲れないところがよくわかる部屋。駅からの道は何となく覚えている。わからなくなっても地図アプリ使えばすぐわかるし、と俺は記憶を頼りにぶらぶらと歩いた。ぶら下げた保冷エコバッグの中には大量の差し入れ。ここに来る電車の中では、カレーのにおいが車内に充満してしまわないかとちょっと不安だった。
     確かコンビニがあったはず、と角を曲がった。記憶は間違っていなかったようで、すぐ先にコンビニがあって、そこからまた少し進んだところのマンションの前で俺は足を止めた。エントランスの脇に小さな花壇があり、カラフルな花たちがそこを彩っていた。片手に持っていたスマホで電話をかけた。着いたよ、と伝えてエレベーターで三階へ。三階くらい階段上れ、と誰かさんには言われそうだが俺はなかなかに重い差し入れを持っているのだ。許されたい。廊下の突き当たり、一番奥の部屋。思えばもうそれなりに付き合いの長い友達の家なので緊張するのもおかしな話なのだが、インターホンを押すのはちょっと勇気が必要だった。そういえば俺、友達の家に行くとかもほとんどなかったし、一応付き合ったことのある彼女の家なんて一度も行ったことない。きっとここに住んでる二人は、お互いの家もまるで自宅みたいに行き来していたんだろうな。よし押すか、と俺は人差指でインターホンのボタンをロックオンした。するとだ、押してないのにドアが勝手に開いた。俺もついに不思議な力に目覚めたのかと思いきや、ドアの向こうから現れたのは家主の紬だった。
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