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    kapiokunn2

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    kapiokunn2

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    二人は俺の推しCP。的な感情の至視点の同棲丞紬です。

    春も嵐も。 遊びに行くのは二回目だった。一回目は、二人が引っ越してすぐ。あの時はまだ開けていない段ボールがいくつかあったけど、あの二人のことだから今はすっかり片付いているだろう。シンプルで無駄なものがなくて、でも所々にグリーンやちょっと独特のセンスな雑貨が置いてある、それぞれの譲れないところがよくわかる部屋。駅からの道は何となく覚えている。わからなくなっても地図アプリ使えばすぐわかるし、と俺は記憶を頼りにぶらぶらと歩いた。ぶら下げた保冷エコバッグの中には大量の差し入れ。ここに来る電車の中では、カレーのにおいが車内に充満してしまわないかとちょっと不安だった。
     確かコンビニがあったはず、と角を曲がった。記憶は間違っていなかったようで、すぐ先にコンビニがあって、そこからまた少し進んだところのマンションの前で俺は足を止めた。エントランスの脇に小さな花壇があり、カラフルな花たちがそこを彩っていた。片手に持っていたスマホで電話をかけた。着いたよ、と伝えてエレベーターで三階へ。三階くらい階段上れ、と誰かさんには言われそうだが俺はなかなかに重い差し入れを持っているのだ。許されたい。廊下の突き当たり、一番奥の部屋。思えばもうそれなりに付き合いの長い友達の家なので緊張するのもおかしな話なのだが、インターホンを押すのはちょっと勇気が必要だった。そういえば俺、友達の家に行くとかもほとんどなかったし、一応付き合ったことのある彼女の家なんて一度も行ったことない。きっとここに住んでる二人は、お互いの家もまるで自宅みたいに行き来していたんだろうな。よし押すか、と俺は人差指でインターホンのボタンをロックオンした。するとだ、押してないのにドアが勝手に開いた。俺もついに不思議な力に目覚めたのかと思いきや、ドアの向こうから現れたのは家主の紬だった。
    「至くん、いらっしゃい」
    「お疲れ。自動ドアかと思った」
    「あはは、何となくそろそろかなって開けたら本当にいたからびっくりした」
     上がって、と紬に促されて俺は玄関に足を踏み入れた。ルームフレグランスか何かだろうか、良い香りがした。そして靴を脱ごうとして気がつく。紬が履いているものに。
    「うわー、何かリアルだな……」
    「えっ? 何が?」
     そう聞き返しながら紬が脱いだのはいわゆる樹脂製のサンダル。つま先が丸っこくて、足の甲の部分には穴が空いてる定番で便利なアレだ。俺も持っているくらいだし、紬が履いていたって何もおかしいことはない。ただ、ネイビーのそれは紬の足にはどう見てもサイズが大きいのだ。
    「何かさ、それでゴミ出しとか行く感じ?」
    「ゴミ出し? え、もしかしてこのサンダル?」
     俺は靴を脱ぎ、紬に続いて短い廊下を歩いた。インターホンを押すまでのちょっとした緊張感はもう消えた。友達の家っていいな、とこの歳になって思う。

     丞と紬は今年の春にMANKAI寮を出て行った。別にカンパニーを去ったわけじゃない。稽古や打ち合わせで頻繁に寮に来る。更に、月に一度は寮で夕飯を食べる約束を監督さんと交わしているらしい。一度どころではなく、割とよく食っているけど。丞の方は紬より顔を出す頻度は低いけど、ついこの間まで連ドラに出ていたので、毎週顔を見ていた。相変わらず貪欲に自分の芝居を突き詰めているらしい。初めてこのマンションに来たのは桜が散る頃だったのに、今は紫陽花が町のあちこちで咲いていた。
    「これ差し入れ。冷凍庫のスペース空けといてくれた?」
     紬は俺から受け取ったバッグを開けた。
    「カレーだ! すごい」
    「どんなに忙しい時とか食欲のない時でもカレーがあれば大丈夫って監督さんが。二人で一生懸命作ってタッパー詰めて凍らしてたよ」
    「何種類あるんだろう……? ありがとう、重かったでしょ」
    「まあこれくらい。昔の俺なら絶対運びたくなかったけど」
     紬がタッパーを冷凍庫に詰めたり、コーヒーを淹れてくれている間、何気なく部屋を見回した。更に、窓を開けてベランダに出てみる。紬の住む家らしく、鉢植えやプランターがたくさん並んでいた。
    「外の花壇、もしかして紬がやったの?」
    「そうだよ。全然使われてなくて、管理人さんにお願いしたんだ。手入れさせて欲しいって」
    「何となくそんな気がした」
    「手伝ってくれる人もいるしね。こっちでもお庭番長やってるよ」
     そうそう、そんな風に呼ばれてたっけ。今のMANKAI寮の中庭は、紬から叩き込まれた知識も手順も完璧なガイさんを筆頭にみんなで世話をしていた。一画を工事して本格的なローズガーデンにしようとした人がいたが流石にそれは止められた。
    物干し竿でシャツが二枚はためいていた。サイズも雰囲気も違うもの。何だかここでも『同棲感』、いや、それを通り越して『新婚感』にあてられてしまった。
    「至くん、コーヒーどうぞ」
    「うん、ありがとう。ところで丞は?」
    「買い物からそろそろ帰る頃だと思うんだけど……。確か、また千景さんと何かを作るから材料を買いに行ってるはずだよ」
    「また光るのかな」
    「そうかもね」
     何かが壊れるととりあえず丞か先輩に持ち込まれるのは変わらない。それに加えて、季節のイベントごとで使いたい道具や装置も二人に依頼するものだから、団内修理部は年中無休だ。

     二人が寮を出て行ったのは正直、寂しい。でも変わらず飲みに行くし、寮で会うし、二人の家ならこうして遊びに来るのも緊張しないことが今日わかった。友達っていいものだな、なんて。
    何気なく紬の手に目をやった。いつかこの手の薬指にリングが光ったりしたら。それは俺も、とても嬉しい。
     玄関のドアが開く音がした。もう一人の大切な友達のお帰りだ。行ってくるね、とソファを立って玄関に向かった紬の後ろ姿を見て胸にあたたかいものが広がった気がした。ずっと、そういう二人でいてよ。そんなことを思った。
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    kapiokunn2

    REHABILI二人は俺の推しCP。的な感情の至視点の同棲丞紬です。
    春も嵐も。 遊びに行くのは二回目だった。一回目は、二人が引っ越してすぐ。あの時はまだ開けていない段ボールがいくつかあったけど、あの二人のことだから今はすっかり片付いているだろう。シンプルで無駄なものがなくて、でも所々にグリーンやちょっと独特のセンスな雑貨が置いてある、それぞれの譲れないところがよくわかる部屋。駅からの道は何となく覚えている。わからなくなっても地図アプリ使えばすぐわかるし、と俺は記憶を頼りにぶらぶらと歩いた。ぶら下げた保冷エコバッグの中には大量の差し入れ。ここに来る電車の中では、カレーのにおいが車内に充満してしまわないかとちょっと不安だった。
     確かコンビニがあったはず、と角を曲がった。記憶は間違っていなかったようで、すぐ先にコンビニがあって、そこからまた少し進んだところのマンションの前で俺は足を止めた。エントランスの脇に小さな花壇があり、カラフルな花たちがそこを彩っていた。片手に持っていたスマホで電話をかけた。着いたよ、と伝えてエレベーターで三階へ。三階くらい階段上れ、と誰かさんには言われそうだが俺はなかなかに重い差し入れを持っているのだ。許されたい。廊下の突き当たり、一番奥の部屋。思えばもうそれなりに付き合いの長い友達の家なので緊張するのもおかしな話なのだが、インターホンを押すのはちょっと勇気が必要だった。そういえば俺、友達の家に行くとかもほとんどなかったし、一応付き合ったことのある彼女の家なんて一度も行ったことない。きっとここに住んでる二人は、お互いの家もまるで自宅みたいに行き来していたんだろうな。よし押すか、と俺は人差指でインターホンのボタンをロックオンした。するとだ、押してないのにドアが勝手に開いた。俺もついに不思議な力に目覚めたのかと思いきや、ドアの向こうから現れたのは家主の紬だった。
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