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    kapiokunn2

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    kapiokunn2

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    3年くらい前にぼんやり考えていた『バツイチになった丞』の丞紬の話です。丞が一度結婚しています。途中までだけど、続き書く時自分でも読み返しやすいように、メモとしてここに上げとくことにします。

    初恋が泣いている「結婚するんだ」
    丞には、半年くらい前に恋人ができた。二回、舞台で共演した一つ年上の女優さんだった。
    俺たちは再会したときに既にいい歳だったし、それから何年も経っているのだから、良い恋愛をして結婚なんて何もおかしくはない。それに、長年の付き合いの幼馴染が結婚するなんて喜ばしいことだ。式は挙げなかったけど入籍はして、丞は俺とルームシェアしていたマンションを出て行った。部屋が片付き次第新居に遊びに行かせてもらうことにして、俺は丞に花束を贈った。引っ越し祝いに何がほしい? と聞いたら、「お前が選んだ花がいい」と言ったのだ。
    「意外だね」
    「……花、飾ろうと思ったら片付け早く進むだろ。そこだけでも」
    丞らしい理由に笑ってしまった。だからよく足を運ぶ花屋さんに行って俺は花を選んだ。大切な人の佳き日に贈る花を。
    「おめでとう」
    「ああ、ありがとう」
    「またね」
    「明日も一緒の稽古だしな」
    マンションの下まで見送った。車で奥さんを拾って新居に向かうのだという。
    一人ではこの部屋は広すぎるから、来月には俺も引っ越すことが決まっている。桜の花はすっかり散って、もう少ししたら新緑の季節だ。リビングに戻ると、棚に置いていたサボテンが目に入った。少し前、一緒に買い物に行ったとき、丞が気に入って買ったものだ。
    まだ小さいので刺はやわらかで、ちょんとつついても痛くない。持たせてあげたら良かっただろうか。
    「君はうちで暮らそうか」
    そのうち花が咲くかもしれないし。それを最初に見るのは俺が良いなんて、ちょっと我儘かな。
    今日は家に一人でいる気分ではないので外に出よう。いつものように出かけたら良いのだ。この間丞に選んでもらって買ったばかりのスニーカーはとても軽くて、どこまでもいける気がした。
    それからあっという間に一年が経った。

    『引越しをすることになったから手伝ってほしい』
    丞から電話が来たのは、一週間前。
    オフだった俺は朝から掃除洗濯を済ませた後にのんびり本を読んでいて、そろそろ買い物にでも行こうかと思っていた。俺も運転できたら買い出しがもっと楽かな、なんて思ったけど、別に不便は感じていない。俺一人分の買い物なんて、あれこれ買っても大した量にはならないからだ。丞は『園芸用のでかい土とか買いに行くなら呼べよ』なんて言ってくれた。でもさすがに新婚さんの手を借りるのは申し訳なくて頼んだことはない。丞は外にいるのか、向こうからは車の走る音が聞こえた。
    「いいけど…引っ越すの?」
    「ああ。お前の予定に合わせるから、来てくれないか?」
    「大丈夫。あとでスケジュール確認してからLIMEするね」
    その後に空いている日を伝えて、すぐに予定は決まった。丞は俺と違ってすごく几帳面だし力もあるし、手伝いに行ってもあまり戦力にならなそうだけどいいのだろうか。そう思ったけれど、頼ってくれているのならなんだか嬉しい。
    そんなわけで、手土産にお気に入りのカフェのドーナツを携えて丞の家に向かった。最寄り駅から十五分ほど歩いた、緑の多い場所。近くには大きな運動公園があってジョギングしてる人も多く、丞が好みそうな物件だ。いい場所なのになあ、と思いながらのんびり歩く。ご近所トラブルを起こすこともなさそうだし、手狭になったのだろうか、なんて。
    インターホンに出たのは丞だった。部屋は五階。何回かお邪魔したことがあるけど、奥さんに会ったことはあまりない。大抵向こうは仕事か、他の用で出かけていた。俺たちが昔からの仲であることを知っていて、二人にしてくれているのだと丞は言った。実際、男二人の方が気楽に過ごせるので俺も気にしないことにしている。でも今日は引っ越しの手伝いだしさすがにいるだろう。
    「お疲れさま」
    「ああ、急に悪かったな」
    玄関のドアを開けたのも丞だった。以前はシューズボックスの上にスティックタイプのフレグランスが置いてあったり、壁にポストカードが飾られていた。奥さんは割とアジアンというか、オリエンタルな雑貨が好きなのだ。アロマもいつも蓮やプルメリアの甘い香りだった。ガイさんと東さんの部屋に雰囲気が近かった気がする。今はほとんど家具もなく、きれいに片付いていた。
    「丞だけ?」
    「……ああ、そうだ。時間あるならとりあえずコーヒーでも飲まないか」
    「うん。俺ドーナツ買ってきたんだ。奥さんが帰ってきてから食べようか」
    「いや……気にしなくていい」
    丞にしてはやけに答えを濁すな、と気が付いた。というか丞は意外と態度に出やすいので、多少付き合いが長ければ多分誰でも気が付くかもしれない。廊下を抜けた先のリビングはもう最低限のものしか置かれていなかった。ソファ、テレビ、空っぽの棚。あとは段ボールがぽんぽんと積まれている。
    「俺、必要あった?」
    「それでも一人でやるよりは早いだろ」
    「まあ……そうだね」
    座っててくれ、と言われたので大人しくソファに座って待った。グレーの布張りは丞の趣味だろう。テレビを眺めて待っていたら、ローテーブルにコーヒーが置かれた。ホーロー製の緑のマグカップだ。丈夫で使い勝手が良さそうで、丞らしい。丞は隣に座って、コーヒーを一口飲んだ。
    「……離婚した」
    「うん。……えっ!?」
    自分の声の大きさに俺は驚いてしまった。青天の霹靂とはこのことだろう。しかし現実の窓の外はどこまでも晴れ渡る、雲一つない青空。丞は気まずそうに眉をひそめていた。
    「まあ……片付けながら話す」
    「えっと……そうだね。あ、ドーナツ食べる? ここのおいしいんだ」
    丞は自分からはあまり甘いものを食べないけれど、嫌いなわけではない。今日持ってきたドーナツは生地におからを使っていて、甘さも控えめなので気に入ってくれるだろう。丞はココナッツがまぶしてあるものを手に取った。
    「コーヒーありがとう」
    俺はシナモンのドーナツを取った。丞は落ち込んでいるのだろうか。いや、あまりそうは見えない。とりあえず少しお腹も空いたし、お気に入りのドーナツを一口かじった。外側はサクッとしてるのにふわふわの生地の食感にいつも癒される。今も、話題は重いのに胸にほわりと温かいものが広がった。
    「どう?」
    「うまい。ちょうど甘いもん欲しかったしな」
    「そう、よかった」
    二人で黙々とドーナツを食べ、コーヒーを飲んだ。昔から全然変わらない、いつもの俺たち。紙の箱にはシンプルなブラウンシュガーのドーナツがぽつんと残っていた。

    白い箱に入っていたのは、一度も使ったことがなさそうなペアのシャンパングラス。お祝いか何かでもらったのだろう。俺はそれをそっと、段ボールの底に置いた。
    「引っ越し屋さんはいつ?」
    「明後日。近いからその日のうちに運び込みも終わるんだ」
    「明後日も俺、夕方からなら空いてるから手伝おうか」
    「じゃあ……頼む」
    俺が食器を一枚ずつ包んでいるうちに、丞は鍋やフライパン、炊飯器なんかの調理用具をさっさと箱に詰めていた。今日を入れてあと二日しかここで過ごさないなら、料理だって別にする必要はないだろう。食器も、奥さんが持って行ったのか処分したのか段ボールの半分も埋まらなかった。さっきのペアのグラスは置いていかれたのだろうか。それとも見落とされたのか。取っておいたところで使われる機会は想像つかないな、とつい丞の方を見てしまった。手際良く段ボールにガムテープで封をしている。丞も料理とかしたのだろうか。ルームシェアしているときは俺より丞の方が料理をしてくれる率が高かった。そういえばダイニングテーブルと椅子がなくなっている。キッチンにはさっき使ったマグカップと電気ケトルだけ残した。
    「あとは包むものある?」
    「服とかだな。それが終わったらメシ食いに行こう」
    「丞の奢りでね」
    「わかってる」
    次の作業は寝室だった。何となく入るのに一瞬躊躇ってしまったけど、ここもほとんど家具はなかった。確かベッドが二つ並んでいたのにそれがない。丞がいま使っているらしい布団と、タンスと備え付けのクローゼット。それくらいだった。
    「ここの服と…あとは向こうの部屋にあるのはトレーニングとか芝居関係か。とりあえずここだけ頼む」
    「あの……家具は結構処分したの? テーブルとかもなかったし」
    「向こうが持ってったのもある。あとは人に譲ったりな」
    「そうだよね、使えるのに捨てるのは勿体ないし」
    丞に後ろ向きな雰囲気はないし、当たり前だけど部屋が片付いていくのは気持ちが良い。丞は元々大切に服を着る方だから大量にあるというわけでもなく、手分けして詰めていたら案外すぐに終わった。このTシャツ、大学の文化祭で作ったやつだ。ああ、何となくとってある。そんな他愛無い話をしながら。うっかり奥さんの服が出てきたらどうしようかと思ったけどそんなことはなかった。いや、元奥さん。段ボールに封をして俺たちはひとまずお昼ご飯を食べに外に出た。家を出るときに丞は「頼む」と言って俺のバッグにするりと財布を落とした。昔からこうなのだ。
    「紬、何が食いたい」
    「これと言って……あ、駅からの道にファミレスあったよね。ゆっくりできるしそこはどうかな」
    「良いぞ。じゃあ行くか」
    寮を二人で出るときにも、丞が一人でマンションを出ていくときにも、俺たちは一緒に引っ越しの準備をした。まさかまた二人で作業することになるとは思っていなかった。しかも、こういう理由で。当たり前だけど丞とは頻繁に顔を合わせているので久しぶりということもない。でも二人で出かけるのは多分、三ヶ月ぶりくらいだ。丞の肩の位置って俺よりこんな高かったかな、歩幅も全然違うけど歩く速さを同じにしてくれるのは相変わらず心地いいな、とか思ってしまった。以前共演した女優さんが飲み会のとき酔っ払って『バツイチの男の人は妙な魅力があるんです』なんて言ってたのを思い出した。まさかそれが俺にも適用されているのだろうか。
    ランチのピークタイムを過ぎたファミレスは半分くらい席が空いていた。店の奥、角の席に俺たちは座ってメニューを眺めた。
    「コーヒー飲みたいからドリンクバーつけていい?」
    「いつもそうしてるだろ。……俺は決まった」
    「待って、早いよ」
    「どうせまた期間限定の何かで迷ってんだろ」
    「うん……パスタもおいしそうだし、あんかけ焼きそばも気になる」
    「どっちも麺なのかよ」
    「だって今しか食べられないんだよ?」
    丞が笑った。結局俺はあんかけ焼きそば、丞はハンバーグとチキンソテーのセットを頼んで、サラダを一つシェアすることにした。喉が乾いてしまったのでひとまずアイスティーを取りに行こうとしたら、「アイスティーだろ」と丞が席を立った。ドリンクバーに向かう丞とすれ違った大学生くらいの女の子がちらりと振り返るのが見えた。目をきらきらさせて席に戻っていく。こういう場面を俺は物心ついた頃から何度見ただろうか。
    ウーロン茶とアイスティーを持って丞が戻ってきた。レモンもミルクもシロップもなし。逆に俺が飲み物を取りに行ってたら、やっぱり「ウーロン茶だよね」なんて言っていただろう。居心地いいなあ、と改めて思ってしまった。
    「それで、何で離婚しちゃったの」
    「いま聞くのかよ」
    「結局片付け中話してくれなかったでしょ」
    「話してやらなかったわけじゃない。……まあ、いいか」
    食事の皿が下げられて広くなったテーブルにコーヒーが二つ。冷めないうちに口をつけて、俺は話を切り出した。丞が窓の外に目をやったまま口を開く。
    「……別に、仲が悪くなったわけじゃない」
    「それは何となく……わかるけど」
    「結婚っていう形でなくてもいい。それに気付いたんだ、お互い」
    「演劇に対する姿勢は似てるなって俺は思ってたよ。二人ともストイックで」
    「尊敬してるし、役者としてはこれからも付き合っていくだろうな。それが一番良い関係なんだ」
    さっきまで僅かに眉を寄せていた丞は、いまは晴れやかな表情だった。最善の選択をするには何かを諦めなくてはならない時もある。丞もきっとそうだったのだ。
    「カンパニーの皆には、今度行った時にでも話す。他の関係者にはまあ……隠すことでもないし、自然と広まるだろ」
    コーヒーを二杯飲んで俺たちは店を出て、マンションまで歩きながらずっと芝居の話をした。この通りは銀杏並木がずっと向こうまで続いている。秋が楽しみだと思ったけど、丞が引っ越してしまうなら黄金色に染まった並木道を歩くことはなさそうだ。
    「そういえば、ひとつ面白い仕事を受けたんだ」
    「面白い?」
    「ナレーションの仕事なんだ。その話もしたいから近々寮に行く」
    「ナレーション……! いいね。何の?」
    丞は数年前に一度受けたのが好評で、時々声の仕事をするようになった。低くて、澄んでいて、海や湖の少し深いところを思わせるのに冷たくない。俺はもちろん丞の声も好きだった。寝付けない夜のホットミルクのように、まだ体が目覚めきってない朝のミネラルウォーターみたいに、すっと染み込んでくるやさしい声。
    あとは、例えば冬の夜空。眺めていると不思議と心が落ち着いてくる。それと同じ力が丞の声にはきっとあるのだ。
    「プラネタリウム」
    「え?」
    「昔、時々兄貴も一緒に行っただろ。小学校の近くのプラネタリウム」
    俺たちの地元の科学館の中にあったプラネタリウム。区営だし、都心にあるような最新設備のものじゃない。でもそんなことは関係なく、天井いっぱいに広がる星空を見て、星座にまつわる神話を聞いたりするのが俺たちは大好きだった。
    丞の声で紡がれる、星と星の物語。想像するだけで胸が躍った。
    明後日の夕方に丞の新居に行く約束をし、俺は電車に乗って一人暮らしのマンションに帰った。帰ってくるまで気がつかなかったけど疲れていたみたいで、ソファに座り込んだらもう立つ気力がなくなってしまった。
    引越しの作業自体は多分、そこまで疲れなかった。いきなり聞かされた『離婚』というワードで精神的に疲れたのだ。丞本人があっさりしていたのが幸いだったけれど。
    いや、あっさりしているように見えて色々と複雑な気持ちはあるのだろう。でも丞が今それを言わないのなら、俺も何も聞かない。本人が話してくれたらそれでいいし、俺自身が必要だと思ったらきちんと話をする。そうやって付き合ってきたのだ。
    プラネタリウム、楽しみだな。昔のことを思い出そうと目を閉じたらうっかり眠ってしまって、起きたら真夜中だった。慌ててシャワーを浴びてベッドに入り、ぼんやり考えた。丞は一体何が欲しくて、何を諦めたんだろうか。考えても全くわからないけど、ただ一つ思えるのは、俺は丞にはいつも笑っていてほしいということ。それだけだ。あまりわかりやすく笑顔を見せること、親しい人以外にはあまりないけれど。でも俺はいつものように笑えていただろうか。俺の方が勝手に深刻になって暗い顔をするのは、丞はきっと望まない。
    気がついたら眠っていて、すぐにまた朝は来た。天気は生憎の雨。変な時間に寝たり起きたりしたせいで何だか頭がぼんやりしていて、昨日丞に会ったのも現実感がない。でも、新しい家の最寄り駅と住所のメモを見て夢ではなかったんだなと実感した。そういえばこの数ヶ月は稽古や公演以外で顔を合わせることがほとんどなかったので、久々にゆっくり話せたのは嬉しかった。気持ちはちょっと複雑だけど、やっぱり丞と過ごす時間は楽しい。
    また一緒に暮らしたりできたら。さすがにそれはないか、と俺はその考えをカップの底に残ったコーヒーと一緒に飲み干した。ぼんやりしていて砂糖をいつもより入れすぎたコーヒーの甘さがやけに胸に張り付いた。
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    kapiokunn2

    REHABILI二人は俺の推しCP。的な感情の至視点の同棲丞紬です。
    春も嵐も。 遊びに行くのは二回目だった。一回目は、二人が引っ越してすぐ。あの時はまだ開けていない段ボールがいくつかあったけど、あの二人のことだから今はすっかり片付いているだろう。シンプルで無駄なものがなくて、でも所々にグリーンやちょっと独特のセンスな雑貨が置いてある、それぞれの譲れないところがよくわかる部屋。駅からの道は何となく覚えている。わからなくなっても地図アプリ使えばすぐわかるし、と俺は記憶を頼りにぶらぶらと歩いた。ぶら下げた保冷エコバッグの中には大量の差し入れ。ここに来る電車の中では、カレーのにおいが車内に充満してしまわないかとちょっと不安だった。
     確かコンビニがあったはず、と角を曲がった。記憶は間違っていなかったようで、すぐ先にコンビニがあって、そこからまた少し進んだところのマンションの前で俺は足を止めた。エントランスの脇に小さな花壇があり、カラフルな花たちがそこを彩っていた。片手に持っていたスマホで電話をかけた。着いたよ、と伝えてエレベーターで三階へ。三階くらい階段上れ、と誰かさんには言われそうだが俺はなかなかに重い差し入れを持っているのだ。許されたい。廊下の突き当たり、一番奥の部屋。思えばもうそれなりに付き合いの長い友達の家なので緊張するのもおかしな話なのだが、インターホンを押すのはちょっと勇気が必要だった。そういえば俺、友達の家に行くとかもほとんどなかったし、一応付き合ったことのある彼女の家なんて一度も行ったことない。きっとここに住んでる二人は、お互いの家もまるで自宅みたいに行き来していたんだろうな。よし押すか、と俺は人差指でインターホンのボタンをロックオンした。するとだ、押してないのにドアが勝手に開いた。俺もついに不思議な力に目覚めたのかと思いきや、ドアの向こうから現れたのは家主の紬だった。
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