どこからか流れてきた強い血の匂いに、ジャンヌは足を止めた。付近にモンスターがいることは確実だが、悲鳴や助けを呼ぶ声などは聞こえない。
手遅れ、という言葉が頭に浮かんだ。嫌な想像を振り払い、急いで匂いの元を探す。
やがて、とある路地に辿り着いた。息を殺し奥へと進んだジャンヌは、目の前に現れた血の海に思わず息を飲む。
だが、幸いにもその血はバース7の人々のものではなかった。地面に転がっているのはガルムやトロールといったモンスターの死体のみ。つまりは、既に他の契約者の手によって倒された後だいうことだ。
一体誰が、と彷徨わせた視線の先にフードを被った男の姿を捉える。
その足元には血まみれの人物がうつ伏せに倒れていた。恐らくモンスターを率いていた兵士だろう。鎧は砕け、片腕は見当たらない。その背には槍が突き刺さっており、標本箱の昆虫のように地面に縫いとめられていた。
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