転生電車 かたんかたんと、電車の音がする。眠気に揺られながらも少しずつ醒めた意識を持ち上げるように瞼を開いて、ぼうっとする頭を少しだけ擡げる。ああ、どうやら知らぬ間に寝てしまっていたようだった。ふと視線を左右に彷徨わせて、辺りには私以外の人がいないことに気付く。どうやらこの車両には私しか乗っていないらしかった。
身体は小刻みに心地の良いリズムで私を揺らしていた。電車はずっと真っ直ぐに向かって走っている。眠気からまだぼんやりとする意識が、鈍く私の思考を遅らせていく。思えばいつ電車に乗っていたのだろう。ひどく長く眠っていた気がするが、寝てしまう前のことが何も思い出せなかった。
途轍もない眠気に欠伸を噛み殺して、ふわふわ、ゆらゆらと揺れる頭をそのままに、電車の揺れに身を任せる。振動に合わせて視界に映る前髪が右往左往し、何となく身体を包む温かさが更に眠気を助長させていた。もう一度寝てもいいだろうか、なんて少しばかり思考が過ぎりながらも、どうにかして視線をゆるやかに上げた。
電車の窓の向こう側には、鮮やかな橙色が広がっていた。夕暮れ時か、と一瞬思ったが、どうやら紺空のふちの方から橙が滲むように覆い尽くそうとしているのを見る限り、朝焼けだと気付くまでは然程時間はかからなかった。こんな早朝に私は何処へ行こうとしているのだろう。もう一度思い出そうと少し首を傾げるも、やはり思い出せることもなく俯くと、ふと視界に自分の足が映る。──その足は、靴を履いていなかった。
裸足のまま、乗り込んでいる電車。夢遊病にでもなってしまったか、そんなこと言おうものなら大笑いされてしまうだろうなと思考が巡って、ふと重たいままの思考が一瞬だけクリアになった。けれどそれもまたすぐにもやがかかったように紛れてしまう。いや、疑問だけはずっと残ったままでぼやけた頭の中で浮き沈みを繰り返していた。
大笑いされるだなんて、そんなの、誰に。
「…………ここは、何処だ?」
そこでようやく、とあることに気付いた。私は今どこにいるのだろう。この電車はどこに向かおうとしているのだろう。重たい頭で辺りをぐるりと見回して、他に乗客がいないことを確認してから立ち上がる。ぺたりと裸足のままで一度電車が進んでいる方とは逆に歩くと、自分が座っていた座席からほど近い貫通扉には誰もいない操縦室と線路が続いていた。どうやらここは一番後ろの車両のようだ。なら、隣の車両に移動して誰かを探し、ここが何処なのか知らければ。
顔の思い出せない誰か、いつの間に乗っていた電車。どこに向かっているかも分からない行き先。分からないことばかりしかない状況の中で、私は確かにこの電車から降りねばならないという意識に駆られていた。
その意志さえ、何故とらわれてしまうのかも分からないまま。
◇
「あ、社長!」
「しゃちょぉ~」
「……え、葉加瀬さん? 夜見さん?」
がらりと開けた扉の先、ふと見慣れた影が陽に当てられて此方を見たその顔は見覚えのある同期の二人だったと認識した瞬間、思わず驚きから立ち竦んでしまった。いつも通りの目映い笑みでにこにこと笑って私を出迎えてくれた彼女たちは、隣あって座っていたその真ん中に大きめの空洞を開ける。ぽんぽんと軽く叩かれた座席はおおよそ座れとでも言われているのだろう。二人の間に座ることももう既に慣れ切ってしまっていたからか、私は特段疑問も持たぬままにそれに従い座る。
腰を下ろした私を見てか、彼女らは覗き込むように私を見つめるとにぱっと笑みを浮かべた。
「しゃちょ、元気?」
「あ、ええ、はい……元気ですが……?」
「そっか、なら良かった。元気なのが一番だもんねー」
二人のルビーレッドに輝く瞳が、きらきらと光に反射して煌めく。けれど彼女たちの言葉の意図が分からずに私は首を傾げるばかりだ。それを見てか、彼女たちは反対側の座席向こうに広がる朝焼けに視線を向けて、ぽつりと呟いた。
「社長はさ、」
「はい?」
「もしプリンとパフェがあって、どっちも食べたいけどどっちかしか食べれないってなったらどうする?」
「え、なんですかそれ」
「夜見はねえ~、パフェがいいなあ」
「今は夜見に聞いてないんだよな~……」
やはりずっと、質問の意味が分からない。先程と同じように首を傾げてみせるものの、両側に座った彼女たちは私の答えを待つように此方を見ているばかりだった。
「……ええと、もし選ぶなら、じゃあプリンですかね……? パフェは夜見さんが食べたいらしいですし」
「わ~い、やったあ。じゃあしゃちょ、はんぶんこしよ~」
「そっかそっか。そりゃあ社長も選びたいよね」
「え? ええ、まあそりゃあ……」
「そういう権利、あるもんねえ」
「……選んでもいいなら選びますけど、全然……?」
「ん。じゃあ行きなよ、社長」
「どこに?」
「先。私たちからはなーんにも話せないんだよ。ごめんね」
「ごめんねえ、しゃちょ~」
間延びする夜見さんの声と、どこか困った表情で私を見る葉加瀬さんが、それぞれ私の手を取って入ってきた方とは逆側の、進んでいる先の貫通扉の前へと進ませてくる。向こう側は暗くて見えづらく、咄嗟に振り返ろうとした私の前で、目の前の扉は触ってもいないのにがたがたと振動に合わせて少しずつ開こうとしていた。まるで、進めと言わんばかりに。
吸い込まれるように一歩を踏み出した私に、背中越しに声がした。
「しゃちょ~、ちゃんと選ぶんだよお」
「自分の幸せを一番に考えなね」
「またねえ」
「ばいばい」
声は確かに私の耳へと届きながら、しかし背中越しに隔たった扉に堰き止められてしまった。彼女たちの言葉に思わず振り返った後ろの車両には、先程まですぐ向こう側に居たはずの彼女たちの姿はおろか、あったはずの車両さえ既になくなってしまっていた。
◇
「おー、来た」
「……チャイカさん?」
「社なら居ないぞー。来れないからな、あいつは」
次の車両には前の方の座席にチャイカさんが座っていた。足を組みつつ、私へと手を挙げる姿にどこか嬉しさがこみあげて近寄ると、チャイカさんは肩を竦めてみせてから向かいに座るように促してきた。彼に従って座った私が少しきょろきょろとしてしまったからだろう、チャイカさんが社さんは居ないと口にしたことで少しだけ気落ちしてしまった。そうか、いつもの三人ではないのか。別にチャイカさんと二人だけだというのが嫌なわけでは毛頭ないけれど、社さんがいるならそれはそれで楽しいというのに。
そんなことを過ぎらせたからだろうか。向かいにいたチャイカさんはどこか苦笑気味に笑みを見せてから、私を見遣った。
「何も覚えていないんだな」
「……ええ、申し訳ないんですが」
「まあ、そうだとは思っていたから良いけど。私から話せることだって何もないしな」
「そう、なんですか?」
「同期だって何も言わなかったんだろ。なら私が言うことなんてないな。どうしても知りたいなら、前に進めばいい」
「……前、」
「先頭車両に行けばおのずと分かる。望んだのは、アイツらだから」
「じゃあ、私はそこに行かねばならないんですね」
「いや。それは加賀美の勝手だろ。先頭車両まで行けば、加賀美が知りたいことは知れるかもしれない。でもそれは同時に、知りたくないことまで知らなきゃいけなくなる。此処に居れば、それは知らなくてもいいし。選ぶのは加賀美だ」
そう言いながら、チャイカさんは瞼を少しだけ持ち上げ、その金色と緑が入り交じったような新緑を思わせる細い瞳を私に向けた。じいと数秒、私とチャイカさんの視線が交わる。こうやって私の目を真っ直ぐに見る時、彼は大事なことを伝えようとしているということを長い付き合いの中でよく知っていた。だから今かけられた言葉も、強く何かを伝えんとしているのだろう。惜しむなと言わんばかりに、後悔するなと言わんばかりに。
私は少しの間の後にチャイカさんから目を逸らすと、座席から立ち上がった。ふとずらした視線の先に映った電車の外の景色は、葉加瀬さんと夜見さんといた車両の時に見えていた田園風景から、まばらに電柱柱が見えるようになっていた。朝焼けは変わらずに紺色を橙に染めていて、その灯りは少しだけ顔を覗かせている。もう一度視線を向かいの彼に戻せば、また先程のように肩を竦めて見せられた。
それへは何も言わないままで前の車両へと進むために扉の方へ向くと、背中へとチャイカさんの声が響く。
「もし、またがあるなら。次は社と三人でまたパック剥くか」
「……ええ、勿論」
次の車両に行くための扉が、電車の揺れに合わせてかたんと開いた。チャイカさんの言葉が、そして葉加瀬さんと夜見さんの言葉が、私の頭の中で呼応する。どこか少しばかり浮かび始めた可能性のことを考えながら、私はまた一歩を踏み出して彼の元を後にした。
いつか、また三人で遊べることを夢見ながら。
◇
「あー、来たよ葛葉」
「んあ……あーーーーーっ!? 社長来たわ!」
「はははっ、何だかお待たせしましたか。すみません。叶さん、葛葉さん」
次の車両に足を踏み入れた瞬間目に飛び込んできたのは、嬉しそうにぱっと顔を明るくさせる叶さんと、座席に寝転がっていた葛葉さんが同じく私を見てから転げ落ちるように立ち上がった姿だった。思わずくすくすと笑ってしまえば、二人は少しばかりきょとんとした表情で顔を見合わせてから途轍もなく嬉しげに笑って私の手を引いた。やはり先程までと同じように、電車の座席へと座らせて。
叶さんと葛葉さんが掛けたその一番端へと腰掛けると、二人はただ楽しそうにしながら電車の揺れに合わせて肩を揺らしてみせた。
「元気そうじゃん社長! 良かった~」
「ね、顔色も良いし」
「ええと、ありがとうございます……? そこそこ元気ですよ。むしろ私より葛葉さんの方がいつも顔色よくなかったりしたじゃないですか。肌色のせいだっていつも仰られてましたけど」
「…………」
「……葛葉さん?」
「ん、んやあ。ごめん、……そっか。社長、あの頃のこと覚えてんのか」
「ええと、何を……?」
「なーんでも。そうだ加賀美さん、ここまで来てるから多分他の車両の皆に言われていると思うけどさ。何か聞きたいことある? 僕らでいいなら何でも答えるよ」
「えっ」
彼らの言葉に思わずその瞳を見遣ると、赤とシルバーグレーの色彩が少し細くなる。葉加瀬さんも夜見さんもチャイカさんも先の車両に行けと言っていたけれど、ここが先頭車両なんだろうか。そう思って視線をずらせば、自分が入ってきた扉とは真逆の前の方には、まだ扉があった。ということは、まだ先はあるわけで。
私は少しだけ思考を巡らせてから、彼らをもう一度見た。嬉しそうな表情の反面、その瞳の色たちは何かを思案しているようにも見える。先輩が後輩を試すような色合い。試練とまではいかなくとも、見定めるような光彩。
「……いえ、この電車はまだ先があるんでしょう? 前にいる人に聞きますよ」
「いいの? もしかしたら彼ら、話してくれないかもしれないよ」
「構いませんよ。どうやら私が此処に居て、同期の彼女たちやチャイカさんやお二人に会ったのは、その誰かに巡り会わせるためですよね。なら、きっと話してくれますよ」
「……社長、本当に良いんだな?」
「ええ、良いですよ」
「そっか。……やっぱ社長は大人だなー」
「僕ら、嫌な先輩面しただけじゃない? これ」
「エッ、いやそんなことは決してないですけど……!?」
二人が纏ういつも通りの雰囲気にどこか安堵感を覚えながらも、私はまた座席から立ち上がってから扉の前へと歩み出た。二人もまた私を追うように少し離れた場所に立つと、ふと軽口の合間の途切れた間の中で、叶さんが言葉を零した。
「加賀美さんさ」
「何ですか?」
「運命って、信じる方?」
その質問の意図に思わず振り向きかけた私は、どうしてか「まあまあまあ」なんていう葛葉さんの言葉越しに身体を正面に固定される。そのままで、なんて真剣さが滲む葛葉さんに逆らいも出来ず、結局振り向けずに扉の方を向くしかなく、見つめるその向こうに何があるかは見えないままだった。
電車の揺れる音がする。かたんかたんという小気味いい音の中で、叶さんはまた声を混じらせて呟く。
「僕は信じるよ。加賀美さんや彼らが信じなくても、僕らは信じてる」
「ん、俺も信じてる」
「……何故、ですか?」
「……だって、ね」
「な」
がたん。目の前の扉が電車の揺れに合わせてひとりでに開いた。それに吸い込まるかのように一歩を踏み出した私の耳には、雑音の中で掻き消えそうになりながらも声を張り上げた二人の、祈りと願いにも似た声を拾い上げていた。
きっと、好かれているんだろう。もしくは、信頼されているとも言うのかもしれない。先頭車両にいる、彼らとやらは。それを何となく感じてか、私は少しだけ目を瞑って、次の車両に辿り着くまでの数歩を歩く。彼らの言葉を反芻するように。それから、その誰かに会い、きちんと話をするために。
「そうじゃなきゃ、」
「この話はハッピーエンドにならないからさ」
◇
電車は小気味良い音を奏でながら走り続けている。田舎を思わせる田園風景から始まって、電柱の多い景色を抜け、今は都市部の間を走っているかのようなビル群を縫うように景色は変わっていた。空は相変わらず紺と橙を織り交ぜていたけれど、太陽は未だ昇る気配はない。今まで歩いてきた車両は特段何も感じなかったというのに、この車両だけはどうしてか少し薄ら寒い感覚がした。
背を向けた扉の反対側、座席を挟んで対極側に扉はない。あるのはガラス張りの車掌室だけで、誰も居ないというのに電車はひとりでに走り続けていた。
その車掌室の前に置かれた座席に、三つの影が見える。それぞれが三種三様に座り込んでいて、顔を俯かせていた。そのひどく見慣れた影たちに私はそっと歩み寄ると、小さく声を零すように呼び掛ける。
「……剣持さん、不破さん、甲斐田さん」
電車の音に掻き消えそうなほどの声だったというのに、彼らは私の声を拾い取った途端弾かれるように床から此方へと顔を上げた。それからその双眸たちの中に私を認識した瞬間に表情を歪ませる。悲しそうな、それでも嬉しそうな、複雑な感情を詰め込んだ眉尻が困ったように下がっていた。
今にも泣き出してしまいそうだ、と三人の表情を見つめる私に、甲斐田さんがどうにかして声を絞り出した。
「……社長、どうして来たんですか」
「……三人から、すべてを聞かなくてはならなかったので」
「それが、社長の望まない答えの可能性だってあるんですよ!」
「勿論。その覚悟で来ましたから」
「……社長はいつもそう。苦しいって分かってんのに、それでも真正面から現実を受け止めようとするやん」
「ええ。だって、それが我々が……私が目指していた、大人ですからね」
いつだっただろうか。四人でグループを結成すると決めた時に、各々の理想とする大人について話をしたことがあった。勿論多種多様の理想とする大人があった中で、私は逃げない者と言ったのだ。それを三人は、格好いいと言ってくれたことがあって。
そこまで思考が巡って、ああと独り溜息にも似た声が出た。そうか、これすらも私は忘れていたのか。かたんかたんと揺れる電車の中で、私はほぼ無意識に思い出したとある一言を漏らした。
「──もしかして、私は死んだんですか?」
三人のうちの誰かが。否、全員が息を呑んだ。
「……思い、出したの?」
「社長、今からでも遅くないからやっぱり、」
「もう無理やって、甲斐田……!」
覚えている。憶えている。多忙から来た流行り病を拗らせて、運悪く内臓に菌が回ってしまったと告げられた時のこと。急激に落ちていく体力から立ち上がれなくなり、そんな私の元へ彼らは何度も何度も足繁く見舞いに来てくれた。何でとも、どうしてとも言わずにグループを解散することもなく、ずっと四人でろふまおだからと、ずっと言い続けてくれていた。
ああ、どうして忘れてしまっていたんだろう。そんなことを思い出して、目を細めた。
「ずっと傍にいてくださって、ありがとうございます。……もう、大丈夫ですよ」
途切れていく意識の中で、手を握られていた。ひとりではないとでも言うように、温かさがあった。だから去り行くその瞬間まで、孤独ではなかったのだ。
伝えるために落とした一言は、三人の瞳からいくつかの雫を零させてしまっていた。
「……社長、」
「もう、ひとりで大丈夫なん?」
「……ひとりで、平気ですか……?」
「……ああ、いえ。……一人はまだ少し、寂しいかもしれません」
夜が明ける。紺と橙を滲ませた空のずっと向こう側から、朝日がやってくるのが見えた。それと同時に電車は緩やかに速度を落として、ごとんごとんと音を立てながら四人の身体を揺らしている。何となく、そとそろ降りねばならないと頭が認知していた。それから、ああとまた思考が何かを導いた。この電車は、最後まで優しかった彼らが私のためにと用意したゆりかごだったのかもしれない、と。
それならば、もう降りなければ。包み繭は、もう必要ない。立ち上がり、歩くことが出来るということが分かったから、今度は進まなければ。彼らが守りたいと願ったものを、私にも守らせて欲しいから。
「なので、皆さんも来てくださいませんか。また四人で、ろふまおとして」
「……ずっるいなあ、ほんま」
「社長が、変わらなくて良かった」
「当たり前でしょ、そんな。……行くに決まってるよ。解散なんてまだしないって」
きいい、と少しばかりのブレーキ音と共に、電車がホームに滑り込む。開け放たれた扉に、静けささえ思わせる少しの間。視線を交差させた私が手を差し出せば、三人はようやく笑顔を見せて立ち上がった。その微笑みはいつかの、楽しかった日々の景色を思わせる。
永遠は願えないのかもしれない。そんなものはないのだろう。だから有限であるものを慈しみ、もう一度を祈り、再会を願う。これは彼らが望んだもので、私はそれに答えたまでのことなのだと。本当にいるかどうかも分からない、神様とやらの気紛れが叶えた奇跡。
四人で降り立ったその駅は、終点であり始発だ。眩しくて、きらきらとした光と温かさと、しゅわしゅわとした泡に包まれるような心地の中で意識が溶けていく。それでも、掴んだ手は離すことなどないと誓った。これは、そう。ハッピーエンドになるための軌跡でなくてはならないから。
「また、来世でも宜しくお願いしますね」
「勿論」
「待ってるからね、社長」
「その時はまた無人島からだな」
「うわ、それは嫌だな……」
「あっははは!」
遠のく意識の中で、上がった笑い声。ただそれが、耳の中に残って離れない。もしまたすべて忘れてしまったとしても、その声を頼りにまた巡り合えるだろうと確信した。もう一度四人で在るために。もう一度、四人で居るために。
ぱちりと弾けた泡は、次の生への合図として。いつしかまた相見えて、肩を並べる日まで。
「……待ってるから」
誰かが零した一言は、確かにこの魂に刻まれている。
『──改札を出ますと、転生へと直結致しております。またのご利用を、お待ちしております──』