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    Asahikawa_kamo

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    Asahikawa_kamo

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    四神パロ。モブ旅人(性別不問)が四神の治める国を旅する話です。今回は玄武編。前の話を読まないと分からないです。
    モブが主人公のためとにかく喋るし出張ります。あと特殊設定の嵐。

    ##四神パロ

    旅人と四神 三、玄武 港を通り、幾つかの商街を抜け、そうしてやっと朱雀領からはるばる辿り着いた青龍領は旅人が思っている以上に長閑な田園風景が広がった土地であった。彼方此方で籠や荷車にいっぱいの野菜や果物、魚を詰め込んだ人々が道の端を歩きながら朗らかに会話をしている。遠くではおそらく牧畜だろうか、牛や豚がこれまた呑気そうに闊歩しているようで、その脇では子供たちが楽しそうにはしゃぎ回っていた。

    「朱雀領に比べてなんにもないでしょ」

     どこまでも広がる田畑を眺めていた旅人へ、隣に座っていた青年はそんな言葉を漏らす。とはいえその横顔は何処か温かく、慈愛を含んだ笑みを浮かべていた。彼の故郷は此処なんだろうか、そんなことを過ぎらせた旅人は緩やかに首を振る。

    「いいえ。こんなにも人々の笑顔で溢れているじゃないですか、それだけでたくさんのものがあるでしょう」

     およそ、旅人からそんな返事が返されると思っていなかったのだろう。青年は少し驚いた表情で旅人の方を見た。と、同時に馬車はぎいと大きな音を立てながら、田畑の合間から現れた海にも見える大河の岸辺、幾つかの露店が並んだ待合所のような場所の傍で歩みを止める。どうやら、目的地に着いたようだった。
     ぱっと顔を上げた旅人の視線の先には、大小様々な舟が人や荷物を乗せて行き交っている。その頭上には大きな橋が架かっており、薄く見える橋向こうには遥か昔、この辺りが大洪水に見舞われた際唯一残ったとされた大鳥居が頭を出していた。一度人命共にすべてが流されてしまった後に商街として復興を遂げたその場所は、小島と言うにはあまりにも広い。その島で信仰されていた、現青龍領の氏神である青龍とはまた別の氏神であった稲荷神の名を冠して、現在は稲荷の市と呼ばれているのだという。
     御者の案内に従って馬車を降りた旅人は、凝り固まった身体をぐっと大きく反らして伸ばす。既に暮れかけている橙の日を見詰めながら今晩の宿のことを考えていた旅人に、先程隣に座っていた青年が話しかけてきた。

    「道中、色々聞かせてくれてありがとうございました」
    「ああ。いえいえ、旅人ですから。この程度、お安い御用というやつですよ」
    「いつもは別の方法を使って帰るので、こういう風に異国の旅人と話す機会はなくて。良い経験になりました」

     どうやら青年は見目に違わぬ金持ちのようだ。この国において相乗りの馬車以外の方法で領を跨ぐとなれば、自ら馬車を抱えているか、自身が馬に乗るか、玄武領以外の三領であれば小型舟か。しかしどれをとっても自らにある程度の地位や金がない限りは難しいものだ。服の装飾や彼が持つ番傘の高級さや緻密さと、先日の赤い服を着た華美な男の服装を鑑みるに、おそらくは何かしらの商人の組合か集団か。
     頭の隅でそんなことをゆるやかに考えた旅人だったが、まあやはり彼らの素性を明らかにしたところで異国人であり旅人でしかない自分にはあまり関係はないので、思考の外にそれらは捨てることにした。

    「私の方も。この国や青龍領の話、興味深くて楽しかったです」
    「此方こそ。では、君の旅に喜びが多からんことを」

     青年はぽんぽんと旅人の肩を何度か叩いた後、ひらりと手を振って去っていった。その姿は公道の端で行き交う馬車や人々の合間にすぐ立ち消えていく。彼におまじないをかけてもらったかのように、叩かれた肩は少し温かかった。
     彼の背を見送ってから、旅人は自らの足元に置いていた自分の荷物を背負い直す。朱雀領は足早に抜けてしまったが、青龍領は土地が広いことも相俟って移動するのに何日か各地を泊まり歩かねばならない。今晩の宿を早く探すかと歩き出した旅人の足取りは、各地で出会った人々のことを思い出してどこか笑んでしまうほど軽かった。

       ◇

     稲荷大橋近くで一晩を明かした旅人は、大河を渡り市をゆっくり見回った後にこれまた手伝いを条件に荷方船へ乗せてもらう約束を取り付けていた。基本的に旅人自身、どの国でもこうして誰かの手伝いをしながら移動手段となり得る馬車や船に乗せてもらうか、大衆向けの相乗り馬車に乗ることが大概を占めているが、後者はともかく前者のように気前よく乗せてくれる人が毎度いるとは限らない。今回の旅は運が良いなと荷載せのために掴んだ籠の中身は、大量の野菜が詰まっていた。
     船は様々な野菜や、朱雀領から運ばれてきた幾つかの輸入品を乗せて川を北上していく。青龍領内では基本的に川の流れは穏やかであるためか、上りも下りも楽なのだという。長い雨で増水したりしない限り、北にある玄武領へ行くには船を使った方が早いという話は、丁度数時間前に稲荷の市で立ち寄った茶屋の女将さんが話してくれたのだ。
     とはいえ、ここは広大な土地を持つ青龍領。どれほど船の進みがよくとも、最低一日ほどはかかるという話だったため、日が暮れた頃に一度宿泊のためと小さな舟屋へと停まり、そこの程近くにある休憩所で一夜を明かすこととなった。どうやら旅人たち以外にも行商や飛脚、廻船人などがそれぞれ思い思いに休んでいる。これも旅の醍醐味かとどこか心がそわついている旅人の心とは裏腹に、身体は疲れのせいか横になった旅人の意識をすぐに眠りの谷へと落としていった。
     早朝の少し冷えた空気の中、目が醒めてすぐにまた荷方船へと乗せてもらった旅人は大河を北へ北へと上がっていく。水の音の中、ぎいぎいと船が揺れつつも段々と霧がかかるようになってきたことに気付き、同じ船に乗っていた廻船人へと問いかければどうやら元より、青龍領と玄武領の境目付近は霧が濃いのだという話だった。

    「けど、今日は霧が薄い方だな」
    「そうなんですか?」
    「ああ。いつもは一寸先も見えないような濃いもんがかかったりするんだが。お前さんを歓迎してるのかもしれんなあ」

     からからと笑う廻船人の言葉を聞きながら、旅人は霧へと視線を向ける。薄くかかったその向こう側には山々が立ち並び、青龍領の河岸から見た風景とはまるで違っていた。降り立つ領ごとに風景の変わる国の様相に、旅人は少しばかり笑みを浮かべる。その双眸はどこか楽しげにきらりと輝いていた。
     船が霧の中を小一時間ほど進むと、河の真ん中に赤と白の旗が唐突に表れた。それを見てか、廻船人は船を巧みに操って河岸へと進んでいく。と、薄掛かった霧の合間から先日停まった場所とはうって変わって大きな舟屋がぬっと現れる。どうやら、ここが船旅の最終地点らしい。既に櫓の下や側には大小様々な船が停まっており、川岸の波に呼応するかのように揺れ動いていた。
     運賃代わりの荷降ろしに手を貸した後、旅人は世話になった廻船人に別れを告げようと自らの荷物を背負い直す。というところで、廻船人は旅人へ唐突に鈴を手渡してきた。何でも、玄武領から西にある白虎領へ行く際は山道を歩かねばならないが、その山々には熊が出るのだという。行商人や旅人が襲われたという話は数知れず。故にここいらの領民は皆、山に入る際は氏神である玄武神からの加護を込めた、白蛇と亀を象った模様の入っている鈴を持ち歩いているのだとか。
     見知った奴が食われたなんて話、聞きたくないからなと笑った廻船人からの鈴を受け取り、旅人は懐に入れていた旅のお守りへと括りつける。こうしておけば失くしやしないだろう、そう思い下げた鈴は小気味よくちりんと鳴いた。
     青龍領と同等程の玄武領だが、その人口は青龍領の半分以下だ。寒冷地であり土地の大半が山である玄武領は、その少ない盆地や山奥にいくつかの小中集落がある程度だという。山々で狩猟を主としている民か、玄武領の山でしか栽培、採取することの出来ない薬草から薬を調合している薬師たちがまとまって住んでいる村がほぼ大多数で、観光地はない。が、唯一玄武領のみ、特に寒い日の夜に空へ様々な色合いの反物のような光がかかることがあるということで、それを見に他領や他国から人がやってくることはあるのだという話だ。
     ただ、旅人のように玄武領を見て回りつつも山越えをし、白虎領に入ろうなどという輩はおそらく飛脚か歩荷程度だ。それ故に玄武領でも更に北の方になっていくと、そもそも山小屋程度の宿泊場しかない。元よりそれは承知の上であった旅人だが、いくら舗装されている山道とはいえ此処が今回の旅の正念場だろうということは、およそ旅人自身も検討がついていた。
     川から離れ、北上するように山を目指す。時折平坦な道を通る荷馬車に乗せてもらいながら風景を眺めれば、辺りは森と山の合間には川と、それを取り囲むように小規模の集落が点々としているようだった。どうやらあの辺りが聞く話による薬師たちの村なのだろう。玄武領の薬は兎角よく効くという話で、時折この地に産まれた若者が白虎領で医学を学び、その後玄武領に戻ってきては新薬の開発をすることもあるのだという。元々この国では疫病の流行りは少ない方ではあるが、玄武領の者は他領と比べて健康で長生きなのだとか。それはおそらく、氏神の玄武神が遣わす白蛇と亀、どちらも長命である生き物所以だろう。
     玄武領で点々と宿や無人の山小屋に泊まりながら、少しずつ北へと向かっていく。白虎領へと入る道は北の山々を一度経由して、それから下山していくように西へと繋がっているため、日が照っていても寒々しい山を登っていかねばならない。馬車を使ってもなお既に玄武領へ入って三日が経った頃、旅人は時折掛かっている白虎領行きの案内板を頼りに山中を歩いていたが、ふと気付けば少し荒れた獣道のような場所に入ってしまっていることに気付いた。はっと顔を上げ振り向けば、既にそこは森の真っ只中。まずい、知らずのうちに道を違えたか。そう過ぎった旅人は振り返り戻ろうともしたが、広がっているのは道は鬱蒼と茂った木々に隠れて見えず、勿論先も見えやしなかった。
     幸い、日は未だ高い時間帯であるからすぐに開けた場所に出なければならないということはないが、完全に元の道を見失ってしまっている以上悠長にしている暇もない。さてどうしたものかと呼吸を吐いた旅人の元へ、今度はがさりと何か明らかに大きなものが木を揺らす音がした。そして、枯れ葉と枝を踏む足音。見遣れば、薄暗い木々の向こう側に黒い影が見えた。
     これはいよいよ不味いことになった。咄嗟に旅人がそう思ったのは、数日前旅人を玄武領まで運んでくれた廻船人の話を思い出したからだ。玄武領の山には熊が出る。しかも人を襲い、これまで幾度となく犠牲になった人がいるという。道を違わなければ出会わなかったかもしれないが、ここはむしろ向こう側の縄張りだ。出てきてもおかしくはない。
     旅人の懐際で、熊除けの守り鈴がちりりと鳴く。既に遭遇してしまった以上、どうやって逃げれば良いのだろうか。頭の中で様々なことを巡らせて身体を強張らせた旅人の元へ、足音はどんどん近付いてくる。最悪、朱雀領の行商人から貰った香辛料でもぶつけて山道を駆け降りるしかない。そう思い自らの荷物へ手を突っ込もうとした旅人の元へ、唐突に近付いていたはずの熊が喋り出した。

    「あれ、人がいる」

     透き通るような声色に思わず旅人が瞬くと、木の影から姿を現したのは熊ではなく長身の男だった。青空を思わせるような双眸は不思議そうに此方を見ていて、どうやら旅人が彼の足音を熊だと勝手に勘違いしていたようだ。どこか少し気まずそうに、しかし本物の熊ではないことに安堵から息を吐くと、男はぱちりぱちりと二度ほどまばたきをしてからあっと声を上げる。

    「不破さんともちさんが会った旅人ってもしかして……」
    「……もしかして、あなたもあの御二方の同胞ですか?」
    「うん。そんなものかな」

     会話の切り口から察してそう返すと、男は微笑んで頷いてきた。成程、どうやらあの番傘持ちの青年同様、彼らの友人だか仲間だかのようだ。つくづく縁があるなとその綺麗な碧の様相に目を細めていれば、男はところで、と問いかけてくる。

    「それで、君はなんでこんなところに?」
    「……実は迷ってしまって」
    「ああ、そうなんだ。山の精にでも悪戯されちゃったかな」
    「山の精……? 玄武様ってことですか」
    「あー……いや、玄武ではなくて。まあ元の道に戻りつつ話そうか」

     獣道を先導するように歩き始めた男の背を着いていく最中、男はこの国に伝わる信仰の話を搔い摘んで説明してくれた。聞けばこの国では土地の守り神とされている氏神の四神とはまた別に、個々の民が信奉する神々というものが存在しているのだという。一例として玄武領では遥か昔から、玄武神から民は贈り物として山を賜ったとされていた。山は富にも、畏れにもなる。民を怠惰にはせず、ただ貧窮にもしない山々には玄武神の遣いとして常に白蛇と亀が居座っており、彼らは山の精として民たちの生活を見守っているのだという。そんな信仰が、玄武領にはあるという話だった。

    「とはいっても、実際別に藤士郎でもなく景でもないんだけどね、山の精って」
    「え?」
    「ううん、何でも。ま、山の精ってちょっと悪戯好きみたいだから、これからの道中も気を付けてね。はい、元の道」
    「あ、何時の間に……助かりました、ありがとうございます」
    「いいえー、君はちょっとばかしそういうのに好かれやすいみたいだから。多分この先は大丈夫だろうけど、白虎領まで怪我とかしないようにね」
    「はい。本当にお世話になりました」

     人好きそうな笑みを浮かべた男は旅人の肩をぽんとひとつ叩くと、元来た獣道を戻るようにして登っていく。おそらくこの獣道の先に集落でもあり、そこに住んでいる者なのだろう。彼の背が木々の合間に消えていくのを眺めながら、旅人は彼が叩いた自らの肩が熱を帯びるように温かくなっているのを感じていた。
     予想外の迷子を仕出かしてしまったが、兎にも角にも少し時間を食ってしまった旅人の足は少し早めに歩き出す。傾きかけている日の位置を確認してから、次に見えた山小屋で晩を越すかと決めたその脳裏に、ふととあることが過ぎった。

    「……あれ。私、あの方に白虎領に行くなんて話をしたか?」

     たった一抹の、吹き消えればおそらく飛んでいきそうな記憶の差異。ただやはり旅人は、まあいいかと持ち前の呑気さでその疑問を頭の外へ放っておいた。今はただ、あの親切で物知りな男との出会いに感謝する他ないのだ。
     その足は、そうして玄武領の山々を越えていく。あと数日のうちにはおそらく、旅人はこの国最後の領である白虎領へと辿り着くだろう。
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    Asahikawa_kamo

    DONE
    第四本目 加賀美ハヤト 「ホテルの最上階」 昔、まだライバーになる前の話をひとつ、話させてください。
     仕事の出張の折に、とある地方のビジネスホテルへ滞在したことがありまして。一泊二日程度の短いものだったんですが、いかんせん地方ということもあってホテルが少なかったようで、少し駅から離れたところに取っていただいたんですね。総務の方がせめてと最上階の部屋を抑えてくださって、チェックインしてエレベーターを降りると部屋が一部屋しかなかったんです。
     実際広くて綺麗ないいホテルでしたよ。眺めも良くて、よく手入れが行き届いているなと感じました。……ただ、少し不自然なところがいくつかありまして。
     まずひとつすぐに思ったのは、廊下の広さと部屋の広がり方がおかしいと感じたんです。私が当時泊まった部屋はエレベーターを出て真横に伸びた廊下の右突き当たりにありました。部屋の扉を開くと目の前に部屋があるわけですが、扉がある壁が扉に対して平行に伸びてるんですよね。四角形の面にある、と言えばいいでしょうか。扉の横の空間がへこんでいて、そこにまた部屋があるなら構造上理解出来るんですが、最上階はテラスなどもなかったので、不思議な形をしているなと思ったんです。
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