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    Asahikawa_kamo

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    Asahikawa_kamo

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    少女0kgmとslowダウナーid。

     ──先生。そう口にした声は、息にも音にもならなかった。静謐さをどこまでも湛え続けているだけの無機質な室内の中で、椅子へと身体をたっぷり預けたその白衣は瞼を落として眠っているかのような横顔を落とし続けている。
     冷たいグレーの石壁には所狭しと標本が飾られていた。青、紫、赤、緑、虹色、ホログラム。鮮やかなインクを落としたような薄い翅を細く痛みなどなさそうなピンで留め、飼い殺された蝶々達が呼吸もなく息衝いている。傷一つない美しさは確かに胸を貫かれていて、生命は既に死んでいる。自分もいつかああなるのだろうかと壁に視線を這わせていると、ぎちりと目の前から音が鳴った。静寂は、割り落とされる。

    「……加賀美くん?」

     ごろりと目の奥が蠢いた気がした。自分の眼球が動いて、視線を落とす。先程まで命ごと縫い留められているのだろうと思っていた先生は、息を取り戻したように此方を見上げていた。先生は未だ向こう側には辿り着いていないのか、そんなことを過ぎらせては、何処からか落胆が身体の端から滲んだ。
     管理する側とされる側、この世界はそんなもので構成されている。私はされる側。そして先生も、きっと。

    「……先生、診察の時間です」

     美しくないものは壁に飾られないから、夏の蝉は今でも鼓膜の奥で泣き続けているんだろう。私も未だ倒錯の果てにその身を棄てることさえ叶わないから、未だに此処で立ち竦んでいるのだろう。
     温室を思わせる緑に埋め尽くされた箱庭の中、ただ何時しか来るであろう標本の死を待っている。それが果たされた時に、ようやく私の脳裏で傾く制服の裾と、踏切の音は止むはずだ。否、そうでないと困る。そうじゃなきゃ、私は、俺は。

    「嗚呼、本当だ。ごめんね、寝てたみたいで」
    「いえ」
    「じゃあ、診察を始めようか」

     進むことの無い時計。外された秒針。羽搏くことを止めた蝶。泣き止まない蝉。上がらない踏切。落ち続ける制服。終わらない夏。終わらない夏。終わらない夏。
     御休みと言ってくれる誰かを、私たちは何時まで待てば良いのだろう。
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    Replies from the creator

    Asahikawa_kamo

    DONE
    第四本目 加賀美ハヤト 「ホテルの最上階」 昔、まだライバーになる前の話をひとつ、話させてください。
     仕事の出張の折に、とある地方のビジネスホテルへ滞在したことがありまして。一泊二日程度の短いものだったんですが、いかんせん地方ということもあってホテルが少なかったようで、少し駅から離れたところに取っていただいたんですね。総務の方がせめてと最上階の部屋を抑えてくださって、チェックインしてエレベーターを降りると部屋が一部屋しかなかったんです。
     実際広くて綺麗ないいホテルでしたよ。眺めも良くて、よく手入れが行き届いているなと感じました。……ただ、少し不自然なところがいくつかありまして。
     まずひとつすぐに思ったのは、廊下の広さと部屋の広がり方がおかしいと感じたんです。私が当時泊まった部屋はエレベーターを出て真横に伸びた廊下の右突き当たりにありました。部屋の扉を開くと目の前に部屋があるわけですが、扉がある壁が扉に対して平行に伸びてるんですよね。四角形の面にある、と言えばいいでしょうか。扉の横の空間がへこんでいて、そこにまた部屋があるなら構造上理解出来るんですが、最上階はテラスなどもなかったので、不思議な形をしているなと思ったんです。
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    Asahikawa_kamo

    DONEオーマで医者やってるidと12歳で身体年齢が止まったmcと敬語が使える5歳kgmとわんぱく9歳fwの話。
    大遅刻ハロウィンネタです。あと家庭教師してるolvもいます。
    続きもので前作は支部( https://www.pixiv.net/novel/series/11342157 )にて。こちらも季節ものなのである程度溜まったら削除して支部に行く予定です。
    ハロウィンネタ「オリバーせんせー」
    「ん? どうしたの、不破くん」
    「これなに?」
    「これ?」

     何の変哲もない、秋の夜長を肌身で感じられるようになったある夕暮れ時のこと。いつものように甲斐田家では家庭教師兼甲斐田不在中の仮保護者として、オリバーが三人の子供たちの面倒を見ている最中だった。今日の勉強を途中でほっぽり出した後に休憩として少し席を外していた不破が、唐突に何かをオリバーの元へ持ってきたのである。
     これ、と称されたものにオリバーが視線を向けると、そこには小学生向けの本が開かれていた。以前、オリバーがいつも勉強を頑張っている不破と加賀美へと幾つか本を見繕って持ってきたことがあったのだが、どうやらその中の一冊であるようだ。桜魔皇国外の国々にしかない珍しいお祭りをかわいらしい絵や写真でまとめたその本の見開きには、とある国で丁度この時期に行われているひとつのイベントについて描かれてあった。
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