命様と美鈴の話「……土とは、こんなにも温かで柔らかい物だったのだね」
ぽつりと、呟いた。
少しでも彼女が寒い思いをしなければ良いと思い、呟いた。
─もう何もかも、手遅れなのに。
「…すまな、かった」
土についていた手に力が入る。
それまでずっと押し留めて、見ない振りをしていた感情が溢れれば溢れる程、視界は歪んだ。
「すま、ない……。すまないっ…」
何が神だ。何が人の願いで生まれた存在だ。
何も救えず、それどころか幼い娘まで死に追いやって、何が神だ。
こんな神になんて、なりたくなかった。
「どうして我はっ……物しか、直せないんだ…」
人も癒せたら、そうすればこんなことにはならなかった。
守りたかった娘を亡くすことも、守らなければならないはずの人間達を……もう、守りたくないと思うことも。
「我は……もう、神ではない…」
こんな不出来で、望まれない神など何の必要がある。誰が求める。やはりあの時我は死ぬべきだった。そうすれば、美鈴は死なずに済んだ。美鈴は生きて、死ぬべき我が死んで。それで全て、良かった。そうある、べきだった。なのに。
「どうして助けた。どうして我如きの為に……生きて、などと…」
─どう、か…生きて、下さい。生きていれば、諦めなければ…きっと報われる。それを私に、教えて下さったのは……命様、です。
蘇る今際の言葉に爪を立て、唇を噛む。
我は神に相応しくない。そして報いなんて物が欲しい訳でも、それが己に与えられると思っている訳でもない。それでも、例えもう誰にも望まれないとしても、我は……美鈴の神でいたいと、思ってしまった。
「……すまない」
そんな資格が無いことは疾うに分かっている。
それでも、生を願われたこの命でこれ以上ここに留まることは出来なかった。
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命の君
遠い昔の弥琴。とある集落で祀られていた「物の命を司る神」だが、瞬時に物を修復/破壊出来るその力故に人間達から正しく「物」のように扱われ、最後には争いの原因を押し付けられ処刑されかける。
物だけでなく、人の傷もなおせる神になりたかった。
美鈴
集落で暮らしていたただの人間。
幼い頃、両親の形見(勾玉)を命の君に直して貰って以来ずっと彼女を「神として」慕っていた。
処刑の計画を知り命の君を逃がそうとするも最早生きる気力すら無くしている姿を見て、無理矢理幽閉場所から連れ出して共に逃げ、最期は追っ手から彼女を庇い命を落とした。
自身を「不出来な神」と卑下する命の君に、言葉を伝えられないまま。
(書く気力が尽きてしまったのでめっちゃざっくりとした経緯)
集落の者達の望みで生まれた命様(後の弥琴)だが、物を瞬時に修復(と破壊)が出来るので段々と人間達は物を大切にしないようになり、命様を「守るためだ」と偽り幽閉し酷使するようになる。
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ある時別の集落と争いになり、ふと命様を戦いに連れていき相手の武器や砦を壊させたら良いのではないかという話になり、実際連れて行ったら本当に全部を一瞬で破壊してしまい、便利は便利だけども味方側も恐れだす。
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一方他の集落では便利かつ脅威である命様を奪おうと一致団結し、命様が戦に連れ出されている間に集落に襲って来るように。
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集落では怪我人が増え、命様はそこで「お前がいるから襲われる」「どうして怪我人は治せないのか」と八つ当たりを受け自分に絶望してしまう。
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遂には命様を処刑すれば争いが収まると集落の者達が考え決行しようとするも、その前に事態を知った美鈴が単身で命様を逃がす。
(逃げてとお願いしたら「(処刑されても)別に構わぬ」と言われたので怒って無理矢理連れ出した)
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逃避行の間、何故自分を助けたのかと問われた美鈴が「昔大切な形見を直して貰ったから」と答え、命様はその気持ちが理解出来なかったものの美鈴の優しさに充てられ少しづつ感情を取り戻すが、追っ手に追いつかれ美鈴が命様を庇う。
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そのことにキレた命様が追っ手の武器と元いた集落の物を全て破壊。慌てて逃げて行った追っ手を無視して美鈴を助けようとするも致命傷であり、そのまま美鈴は「生きて欲しい」という言葉を遺し亡くなる。
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道具も無しに手で土を掘り続けて墓を作り、泣き崩れる(絵の部分)
という経緯。
この後は美鈴に生きてと言われたのでとりあえず生きねばと思い彷徨ううちに他の神様に拾われます。
んで生きてと言われたから生きます。美鈴の望みに囚われたまま大体1万年くらい生きて、ようやく美鈴は命様を縛りたかったのではなく大好きな命様に自分の意思で生きて幸せになって欲しいと祈っていただけと理解します。
物を直す力があるから神様なのではなく、救ってくれたその優しさを神と呼び慕っていた。
美鈴の言葉が最早無意識に呪縛と化していた弥琴だけどシェイムさんのお陰でその事に気づき、多分その後に明海と話したりしたのかなと。(多分)
「…美鈴はあの時、どういう気持ちで生きてと言ったのだろうね」
「……そりゃ、弥琴に生きて欲しかったからだろ」
「その理由が分からないのだよ…」
「はぁ。命を掛けてもいいと思えるほど、弥琴に救われてたからだろ」
「っ…」
「自分の意思で、集落の奴らに反してでも…弥琴を助けたかった。生きていて欲しかった。まーつまり……最初から最後までずっと、弥琴はその娘にとっての神だったということさ。神ってのは敬愛されるものだからな」
「……」
「…助けてやった心当たりはあるのか?」
「………幼い、頃に…私が、親御の形見を直してやった、らしい…。その時に、親御の想いを読んで、教えた…と……」
「なら、それが救いだったんだろ。親御を亡くした死より辛い絶望の中で唯一の」
「……そう、か。私はもうあの子を……救えていたのか」
「あぁ。だから、弥琴にも生きて…幸せになって欲しかったんだろ。ただ生かされるだけじゃなくて、自分で生きて…な」
「…ふふっ。はぁ、ほんと今更だね…。今更気づく…とは」
「本当にな。……で、今は幸せか?」
「…あぁ。とっても、ね」