一輪堂の仕事表向きはただの変わった雑貨店。
「大切にした物にはいずれ神が宿る」という言葉は和の国で広く知られているが、付喪神の知名度自体は低め。
付喪神という言葉は知っていても実在することを知らない者も多い。
天満の商人達も付喪神について明確に知っている者は少ないが、変わった雑貨や曰く付きの物のことなら元大儺である弥琴に聞くのが一番とは知れ渡っている。(実際は元大儺なことは関係無いのだが、元大儺だからそういうのには詳しいと言った方が懐柔するには楽だったので弥琴が言った)
弥琴と付き合いの長い商人達(遠方の者も含む)であれば付喪神のことも、一輪堂の商品の大半には付喪神が宿っていることも知っている。
弥琴の物関連の能力は主に3つあるが、そのどれも一般の客に明かすことは滅多にない。
・付喪神と話せる/具現化させられる
→付き合いの長い商人達なら大体知ってる。
・物の記憶や想いを読み取る
→想いの内容を伝えるべきだと判断した時にのみ明かす。
・物を一瞬で直せる
→信頼している極々一部の者のみ教えている。
(現時点で知っているのは神々や付喪神を除けば結望/類/アヤ/リア/ハウル/シェイムさん/侑李君くらい)
弥琴は人間達に物を大切にさせたいと思ってはいるが、無理強いするつもりは無いし諦めている節もある。しかし付喪神が生まれたのは自身の発言が原因と理解しているので極力付喪神の為には行動しようと思っており、その結果付喪神について周知はあまりしようとせずその存在を教える相手は選ぶ。
→能力を目当てに付喪神を作ろうとしたり他人の付喪神を盗もうとする者が必ず現れるから。そして付喪神は純新無垢であり善悪の区別が出来ず犯罪に利用されやすい。もし被害に遭った人々が付喪神を「悪しき存在」と決めつけて認識してしまったら、かつて神が堕ちたように付喪神という存在も邪鬼の一種になりかねない。
付喪神を持つ者の大半は付喪神の力を神様や御先祖様のお陰と思っており付喪神とは気づいておらず、周囲にも理解されないと思い黙っていることが多い。
そういう者に弥琴はあまり付喪神のことを明かさない。何が宿っているとしても物を大事にする気持ちが変わらないのならそれで良いし、不必要に広める必要も無いと思っている。但し付喪神が伝えて欲しいと要望した場合は度合いは調整して伝える。
・商船の品物確認
天満には異国貿易が始まる前から様々な商船が来ている。
商船で荷降ろしされた品は注文した商店に運び込まれるだけでなく、競りに掛けられることも多い。
一輪堂を始めて間もない頃。商品の一つだった茶器に堕ちかけの付喪神がいることに気づいた弥琴はその事を商船の者に伝え、実際茶器が勝手に動き出したことに怯えた彼は名も無き商人だった弥琴の言葉を信用。更に弥琴は「港に着いて一番に品を買わせてくれるのであれば、邪鬼や付喪神が宿っていないか確認するし船に邪鬼避けをする」と持ち掛け承諾を得た。
今では港に来る馴染みの商船全てと契約しており、付喪神を保護する一方でたまに珍しい物を見つけては競りをすることなく安価で購入している。
ちなみに当然商船側は競り後に購入した店や客に付喪神や邪鬼関連で何か起きて糾弾されるとかなり困るので、むしろ金を払ってでも弥琴に確認をして欲しいし邪鬼避けも非常に有難い。(海上で邪鬼に出くわすと致命的なので)
弥琴的には一番に品を見せてくれるならそれが対価で別に良かったが、貰える物は貰っておこうということでこれが弥琴の一番安定している収入源になっている。
・付喪神の代弁
所有者達は付喪神の存在に気づいていないことが多いが、中にはしっかり存在を理解している者もいる。
そしてそういう者達から弥琴の元に舞い込む相談の多くは「付喪神を宿した元の所有者が亡くなったので、付喪神の意向を確認したい」というもの。
所有者が亡くなると満足して共に消えてしまう付喪神もいるが、そもそも所有者の死を理解していない付喪神も多い。そういう付喪神に弥琴は死を説明し、そしてこれからどうしたいかを問う。
物を受け継いだ子孫がいる場合はその者達と共にいることを、居ない場合は所有者の元に埋葬されることを望むことが多いが、中には所有者の何らかの願いを引き継ごうしたり所有者の分まで生きようとする付喪神もおり、そういう付喪神は弥琴が店で引き取ったりもする。
・商品の販売
本業だが、あまり客足は多くない。というかたまに見に来る客はいるが売れることが少ない。
というのも、基本的に弥琴がかなり高額を吹っ掛ける為。
客は殆どが付喪神の存在を知らずにただの雑貨店だと思っている。そして高額に驚いて帰ることが多いのだが、中には高額でも強く惹かれて買おうとする者もおりそういう相手にはようやく付喪神の存在と危険性を説明し、付喪神も同意した場合は多少値を抑えて販売する。
ただ稀に付喪神側が客を所有者として強く選ぶことがあり、そういう場合は説明をちゃんとした上で格安で販売する。
ちなみにたまに弥琴が気まぐれで買った付喪神の宿っていない商品もあるが、そちらはちゃんと適正価格で売る。
・商品の買取
扱いきれない、もしくは元の所有者の意向で店に持ち込まれた付喪神を買い取ったりする。
たまに他所の店で見つけた付喪神の宿った商品を(店主には付喪神のことを言わずに)買って自分の店で並べていることも。(付喪神がその店主を気に入ってる場合や、そもそも店主が商品大事にして付喪神を宿らせた場合は買わない)
尚、時折曰く付きだと決めつけて物を売りに来る客もいるが、その場合は特になんの問題がなくても曰く付きじゃないと説得するのが面倒なので黙って買い取り、弥琴が気に入った物でなければそのまま質屋に持って行ったりする。
・物の修理
基本は一輪堂で商品を買った客限定のサービス。
販売時に「少しでも破損したらすぐに持ってくるように」と言っており、持ち込まれた商品は弥琴が力を使って直す。
その際に弥琴は破損の原因を物の記憶を読むことで確認し更には付喪神に話を聞いて修理費を決める。
不慮の事故や付喪神が所有者を守ろうとした結果での破損かつ付喪神が所有者を非常に気に入っており所有者も酷く反省したり心を痛めている場合はかなり格安。しかし付喪神が所有者を許していても不注意での破損では値段がかなり上がる。
そして乱暴に扱った場合や、付喪神が所有者の元に帰ることを嫌がった場合は修理費の請求は最早無く、代わりに弥琴が大金を払ってでも買い戻す。…大体は売値くらいかそれ以上の金額を払うので帳簿の一番の使い所。
弥琴は物を直せることを基本隠しているので、実際修理も力を使えば一瞬だが客には「(道具とかを使って)修理する」と言い誤魔化す為に一週間くらいは品を預かり、その間付喪神の所有者語りを聞いたりしている。
たまに「凄い修理士」として話が広まり購入した客以外からも品が持ち込まれることがあるが、その場合は物に込められた想いを読み取り修理するか断るかを判断する。幾ら物が大切でもいつかは壊れるのが自然の流れであり、自身の力は理に反すると思っているので、付喪神が宿っていない物であれば修理はしないことの方が多い。するとしてもかなり高額を吹っ掛けて意思確認をする。
但し、非常に大切にされてきた「形見」だけは付喪神が宿っておらずとも修理し代金は取らない。
・記憶読み
弥琴が物の記憶や込められた想いを読み取る力があることを知っている者のみが頼めるものだが、基本(知っている者が少ないので)滅多に無い。
・付喪神の調査
時折曰く付きの物として相談が持ち込まれることがあり、付喪神が宿っているかどうか調査する。
店に持ち込まれた物に宿っていた場合はそれで済む話なのだが、たまに何に宿っているかも分からないことがあるのでそういう時は弥琴が赴いて調査する。
遠方にも行くので数日店を閉めることも。
見つけた付喪神は付喪神の意向次第で持ち帰ることもある。その場合は出張費の請求はすれど引き取り代は特には貰わない。
・品物の鑑定
付喪神の調査だけでなく、たまにただの物の鑑定を頼まれることもある。
大体は真贋の見極めや年代の判断、作者についてなどを能力を使って見極めるが別に能力を使わずとも普通に分かったりはする。
値段については聞かれたら、人間の付ける価値に興味は無いがちゃんと相場や流行りや需要というものは理解しているので一応的確に付けれはする。が、面倒なので聞かれない限りはしない。
尚、商品の販売をするよりもこうした鑑定をすることの方が多い。費用も他の鑑定士よりは高いが非常に正確だしとても高額という程でも無いので頼みにくる者は少なくない。
・天満の商人達の管理
これに関しては全くもって弥琴がやりたい仕事では無いのだが、年長者というのもあり何かしら問題が起きると弥琴に仲裁を求める声が多く渋々している。
基本弥琴は他の商人達に不干渉であり、精々品の取り扱い方が悪い者が居れば付喪神達の力を借りてこっそり脅して改心を促すくらい。
しかし例えば市場を破壊する値段で商品を売る新参者が現れ他の商人達が苦言を呈した時には(純粋に品への興味もあったが)頼まれて赴き、贋作であることをさっさと見破って処遇は他の者達に任せて帰ったりしていた。
弥琴的には面倒極まりないが、お陰で地位が確立されているとも言える。
❖仕事のルーティン
・営業時間は一応10時〜17時半くらい。
・商船の来る時刻や契約していない商船主催の競りの時間を確認し、時間になれば港へ。
・予定が無い時は店で商品の手入れや手紙の返信。
・時々気分転換で散歩に行き、他所の店に付喪神が混ざっていないか確認したり瓦版を読んで最近の出来事を調べたり。
・客が来れば接客。付喪神を知っている相手の場合は居間に上げて話を聞く。
・疲れると昼寝したり結望の茶屋に行ってサボる。
・港で購入した荷物が多い時や、修理した品物や返信の手紙を遠方に送り返す時は飛脚に配達を依頼する。
❖バイトに頼むこと (家事系以外)
・アヤ
主に帳簿の管理や店の掃除など。接客や商品の手入れは補助として弥琴を手伝う程度。(アヤが緊張するから)
たまに手紙の返信を(弥琴が文面を考えて)書かせたり、瓦版を読みに行かせたり、手紙の配達を飛脚に頼みに行かせる。稀に客や商人の調査の為に読心術要員で取引等に同行させたり、異国の商人との通訳係にも。
・シェイムさん
主に接客や商品の手入れ、帳簿の管理や店の掃除など。
他にもアヤに頼むことは読心術以外全部頼む。
追加で荷物の受け取りや配達、見た目でただの人間と思われやすい弥琴の護衛、弥琴の代わりに街の情報(新しい流行や商人の話、最近起きた出来事など)を色々集めて貰ったり持ち込まれた商品の真贋鑑定を任せてみたり。
・リア
基本、荷物の受け取りや配達だけ。
たまに店の前の掃除や食材(弥琴のおやつ)の買い出しに行かせる。
❖弥琴が寝込んでた時
アヤが手紙の返信(弥琴が動けない状況なことの連絡)と店の掃除、商品の手入れをしていた。
付喪神が宿る商品は分からないので、商船には事情を説明して結望と協力し邪鬼避けと邪鬼が混ざっていないかの確認のみ。曰く付きの物などは一旦預かり、店で手入れをしつつ弥琴の回復後に確認して貰うことに。
❖弥琴の10年旅中
週4日営業くらいでアヤが店番。
弥琴の力を強く引き継いでいる茜は付喪神の中でも極めて特殊であり、弥琴同様に付喪神を視たり具現化させたりが可能。なので茜に協力して貰い商船や持ち込まれた商品の確認、付喪神の調査などを行う。
また、物の記憶は読めずともアヤは読心術を駆使して客が商品を売るに相応しい相手かどうかなどを確認。値段は弥琴を参考に付けて、何とか一輪堂を成り立たせた。
最初数年は天満の商人達から「弥琴の弟子」として一応尊重されている形だったが、10年経つ前にはちゃんと認められて時折弥琴同様に仲裁を任されることに。
しかし物の記憶を読む依頼や鑑定、修理なんかは出来ないので別の鑑定士や職人を紹介したり場合によっては弥琴が一時帰宅している時に頼んだり。
リアは品物の配達と情報収集、ハウルは異国の商人との通訳と帳簿整理の手伝い、結望は商品の手入れと返信手紙を書く手伝いなんかをしていた。