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    yuno_tofu

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    yuno_tofu

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    人間嫌いの神様が元人間の小娘に興味を持つ話。

    第一印象おどおどとしていて、自信なさげな小心者の小娘。
    それが、ゆのへの第一印象だった。

    「綾月…ゆの、です」

    礼儀はあるらしく最初はちゃんと私の目を見て自己紹介しようとしていたが最後には目が泳いでいたし、その後もずっと落ち着かない様子で結望ちゃんの方ばかり見る。
    確かに事前に聞いている話からして親、もしくはそれに準ずる者達から酷い扱いを受けていた…つまり恐らく大人が苦手であろうことも、何か重い物を抱えているらしいことも知ってはいたが、だからといって同情する気にもならない程に「ただの人間」。

    そんな姿に早くも帰りたいなという気持ちは湧いたけれど、まだ見極めるべき事項があったので流石に席を立つことは無く、いつも通り元気な結望ちゃんの話を聞きながらそっと半透明な彼女を一瞥した。

    「(確かに普通の霊とは違う……が)」

    器を持たぬ魂は不安定で、儚い。真っ直ぐ心を持たなければいずれ堕ちてしまうものだ。だから四十九日の間にその未練を断ち切るというのが親族にとって大事なことではあるが、この娘は結望ちゃんの話を聞く限り既に一年近くこのまま。霊特有の魂の不安定さも無く、他の者達に認知出来ないという点を除けばまるで生者となんら変わりない。だから結望ちゃんだって「霊ではない」と判断したのだろう。

    しかし、それが「生者である」という証明にはならない。

    「(例外的な要素はあるが……死を自覚していない霊、至純霊しじゅんれいに似ている。どうして魂だけで保てているのかは分からないが……恐らく死者だ)」

    少なくとも弱い精神を持ちながら堕ちないのはこの世界の理の外の者だからだろう。であればとりあえず即座に処遇を決める必要も無さそうだ。勿論、今回私がここに来ることになったきっかけである明海をそれで説得出来るかは分からないが。

    そんなことを思いつつ、ふと視線を感じて彼女の方を見るとただ真っ直ぐこちらを見ていた。さっきまで色濃かったはずの恐れを感じない目で、真っ直ぐと。…まるで、私を確かめるかのように。
    けれど目が合ったことに気づくとすぐに彼女は軽い会釈だけして目を逸らし、また気弱な少女に戻っている。それらはあまりにも一瞬の出来事で、さっきの目は私の勘違いだろうかと思う程だった。不意に用を思い出したらしい結望ちゃんが席を離れればそれは確信に変わるほどに。

    「そう緊張しなくていい」

    「…はい」

    「見た所、随分若いね。歳はいくつなんだい?」

    「18…です」

    「親は?」

    「っ……今は、いません」

    「そうか。この世界に来た理由は?」

    「わ、私の世界にも神社が、あって…それで、懐かしくて……」

    そう答えながらも、彼女はずっと下を向いていた。まるで折檻を受ける子供のようだ。確かにわざと威圧しているのは私だが、こう見るとやはりさっきの目はただの勘違いだったらしい。

    そう思って溜息を吐くと、少し不安気な顔を向けてきた。けれど私がただ作った笑顔を返すと若干引き攣った表情をする。どうやら瞬時に作り笑いだと分かる程に人の機微には敏感らしい。が、それだけのこと。
    もうすっかり興味が失せて、だから最後に退屈しのぎがてら気になっていたことを一つ聞いてみることにした。

    「……君は、人間だろう?」

    「はい…」

    「妖も見たことのなかったただの人間。それなのに結望ちゃんが怖くないのかい?確かにあの子は人畜無害な性格をしているが、妖だ。人間とは違─」

    「関係ありますか?」

    突然言葉を遮られ、思わず少し目を見開く。
    確かに目の前にいるのは同じ小娘だ。けれどその目はさっきのように、いやさっきよりも真っ直ぐと全てを見透かしでもするかのように私に向けられていて、言葉にはなんの揺らぎも無かった。まるで別人のように。ただ、堂々と。

    「種族なんてどうでもいいです」

    「……ほぅ?けれど人間は知らないものを恐れる生き物だろう」

    「そうですね。けど、妖についてはまだよく知らなくても結望ちゃんについては知ってます。私は結望ちゃんが妖だから友達になった訳ではありません。ここに居るのも、ただ結望ちゃんといたいだけです」

    「…なら他の者は?」

    「結望ちゃんの味方なら味方です。……敵なら、人だろうが妖だろうが…神様だって私の敵です」

    はっきりと、あまりにもはっきりとそう言ってのけた小娘の目には覚悟と…それから僅かな敵意すら感じ取れた。

    どうやら、ただの小動物かと思いきや随分立派な牙を持っているらしい。
    きっと私がどれだけ彼女自身のことを悪く言っても必死に耐えるのだろうけれど、もし仮に少しでも結望ちゃんのことを悪く言えばその瞬間に首元に噛み付いてくるだろう。

    ─それはあまりにも不遜で、面白い。

    「……あっはっはっ!」

    つい盛大に笑ってしまい、涙が零れる。
    当然ゆのは狐につままれたような顔をしていたけれど、お構い無しに笑いながら涙を拭った。

    「はー、本当に君は面白いねぇ」

    「へ…?」

    「いや、気にしなくていい。済まないね、威圧して」

    「い、いえ…」

    もうすっかり最初の気弱な少女に戻ってしまったけれど、きっとこの娘は守りたいと決めた者の為であればどのような恐怖でも全て振り切って何事もやってのけるのだろう。何を敵に回しても、折れることなく。

    それはどこか古い友のようで、自然と懐かしさが込み上げた。
    まぁ私の友は「小心者」という言葉の対極にいるような娘ではあったけれど。それでもまさか、ここまで変わった人間に出会うことになるとは。

    「(早々に帰らなくて良かった)」

    内心そう思いつつ、結望ちゃんが戻ってくるまで暫く戸惑った顔をするゆのを眺めた。







    「それで、弥琴。ゆえの所のあの余所者はどうだったんだ?」

    「ん、あぁ心配いらないよ」

    「え」

    「確かに難はあるが……悪いことはしないさ。少なくとも私達が結望ちゃんを傷つけない限り」

    「はぁ?そんなことする訳が……というか、ただの人間が」

    「おや、侮っては行けないよ。あぁいう目をする者は愚直だからね」

    「褒めてんだか貶してんだか…。……というか弥琴が人間に肩入れするなんて珍しいな」

    「ふふっ、そうだねぇ。気に入った、かな 」

    「……え、本気か?!」

    声を跳ねさせながら、明海はまるで信じられない物でも見るような顔をする。けれど気にせず笑って酒を仰ぐと隣からは大きな溜息、それから「こりゃ明日は雪だな…」なんて声が聞こえた。
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