愛の重さ「ねぇ、ソウゲンちゃん。手袋暖かい?」
「えぇ、とても」
待ち合わせ、出会って開口一番尋ねる鈴蘭に、ソウゲンはその贈り物の手袋を、まるで医者が出てくるドラマの様に。今から手術でもするかのように自慢気に見せる。そして、その手で鈴蘭の手を握った。
「ポケットに手を入れなくても暖かいので助かるのです」
手が繋げる。そういう意味だと理解した鈴蘭は、仕事嬉しそうに、大きく頷きながら「うん」とその手を強く握り返す。そして、約束のクリスマスマーケットへと二人で歩を勧めた。
キラキラの電飾。賑わう飲食スペースに、ソウゲンは眩しそうに瞬きを繰り返して、物珍しい物でも見るようにあたりを見回した。人が多すぎて、気をつけなければすぐに逸れてしまいそう。握った手を身体に引き寄せて、鈴蘭の腕をしっかりと掴む。
「ホットワインもあるよ」
「鈴蘭殿、お酒はまだ飲めないのです」
「知ってるよ〜、ソウゲンちゃんは飲まないの?飲んでもいいよ?」
他愛のない話をしながら身を寄せてゆっくりと歩く
。こんなに密着していても、誰も気にしていないのんだなと思えば、人混みも悪くないなとソウゲンは思う。ふわりと鼻をかすめるシナモンの香り。サンタの帽子を被った店員がかき混ぜる大きな銅鍋に視線を向けた。
「鈴蘭殿、温かいぶどうのジュースもありますよ。珍しいですね。」
「すごいスパイスのにおいだね〜温まりそう。あとで飲もっか?」
「そうですね。もう少し見て回ってからにしましょう」
本当は、今飲んでもよかったのだが。せっかく繋いだ手を離したくないのが本音だった。
クリスマスのオーナメント、キャンドルやアクセサリーの店を一緒に周り、ソウゲンは商品を手に取りながら、横でそれらを見つめる鈴蘭の顔色を盗み見ていた。その表情から、鈴蘭が欲しいものを見つけ、手袋のお礼にプレゼントしようと考えて居たのだ。
「それが気に入ったのですか?」
片手に収まるほどの小さなクマのぬいぐるみのキーホルダーを見つめ、微笑んでいるのに気がついた
。
「ん?なんかね、目が垂れててね。ソウゲンちゃんみたいだなぁって思ってね」
見て。とこちらへ見せてきた。いまいち何処が似ているのかは分からなかったけれど。
「もし気に入ったのでしたら、手袋のお礼に買わせて頂きたいのです。」
「え、いいのに…」
「クリスマスのプレゼントなのです」
「そっかぁ…じゃぁこの子連れて帰ろうかなぁ」
ふふふと目を細めて笑って、ありがとう。と、鈴蘭はそのクマの頭を撫でた。
「小さいソウゲンちゃんだね」
「鈴蘭殿が無理をしないよう見張ってもらいましょう」
釣られるように、ふふふと笑ってそのクマのを預かりレジへと届ける。そして戻ってきたそのクマをソウゲンは一度ぎゅっと胸のあたりで抱きしめた。頭の上に疑問符を浮かべた鈴蘭の手を取りその手に、そっとのせる。
「なにしてるの?」
「……少しだけ小生の魂を込めておきましたので…大切にしてくださいね」
そう紡ぐと、鈴蘭の瞳がまるでイルミネーションの様にキラキラと輝く。手にのせたそのクマを鈴蘭はぎゅっと抱きしめて。さっきよりも少しだけ重たくなった気がするなぁと心の中で呟いた。
「ありがと」
お礼を言うと、ソウゲンは嬉しそうに目を細めた。そして、空いた手を差し伸べて。
「小生とも、手を繋いでもらえますか?」
なんていう。両手で大事に抱きしめたぬいぐるみを鞄にしまって、その手を繋ぐ。少し身体も冷えたから、暖を取るように擦り寄った。