夜は長いので「ねぇ、もう暗くなったから本読むのやめにしない?」
つまらなそうに囁いて、襟のあわせをツツッと細い指で撫でられるほど、近くに寄ってきた鈴蘭からふわりと酒の香りを感じて、ソウゲンは苦笑しながら本に栞を挟んだ。
「では、何をして過ごすのです?」
赤く染まった頬を指先で撫でると、鈴蘭は不服そうに唇を尖らせその場にころんと横になって、ソウゲンの膝の上に頭を乗せ、腰にギュッと絡みついた。何を考えているのか暫く眺めていると、膝の上で1人百面相をしている。きっと閨に誘う言葉でも考えているのだろうと、ソウゲンは嬉しそうに黙ってそれを眺めていた。笑い声が漏れてしまわないように、口元を押さえていたのに、あまりに困っているその可愛らしい表情に思わず、ふふと声が漏れてしまった。
「あ〜、笑ったでしょ…もう……わかってるくせに」
「……さて、なんの事でしょう」
頑なに知らないふりを続けるソウゲンに、鈴蘭はしびれを切らして。やっと口を開いたかと思ったら、かぷっと、脚の根元にある熱の塊に優しく歯を立てた。
「…ッ…鈴蘭殿…意地悪して申し訳ないのです」
「本当に思ってるの?」
「えぇ。……ほら、夜はもう冷えますから、するなら布団へ入りましょう?」
顔を上げた鈴蘭の額に口付けて。
「夜は長いですから。…先に寝たりしないでくださいね」
低い声で囁くと、着物の襟の隙間から肌まで真っ赤に染まっているのが見えた。借りてきた猫のように静かになってしまった恋人をどうやって暴こうかと考えながら。布団へ導くその足取りは少しだけ早くなっていく。