君に夢中蛇の尻尾のような長い髪。どうやって手入れをしているのかと聞くと、はて、なんの事やらと言いたげな顔で踪玄は首を傾げるものだから。
鈴蘭は大きな溜息をついて、初めての給料ですこし良いドライヤーを買ってあげた。
元々それなりに綺麗な髪をしているのだから手入れをすればもっと綺麗になるはずだし、何より今の髪型が好きな鈴蘭からしてみれば、それを維持してほしいと言うのが本当の所だ。
「鈴蘭殿のお給料なのですから、御自分の為に使ってください」
一度はそう断られたものの。
「僕が泊まりに来たとき用。んで、踪玄ちゃんも使っていいから……ね」
お願い。と視線に込めれば、彼は潔く引いた。
…のは良いが。泊まりに来て、一緒に風呂に入って。その度に、鈴蘭を足の間に座らせて。自分より先に鈴蘭の髪にドライヤーをかけて乾かすのだ。
「踪玄ちゃんの方が長いんだからさ、先にかけなよ〜」
「長いので、先にすると鈴蘭殿が風邪を引いてしまいます」
額を撫で、頭を撫で、タオルを当てて櫛で梳かして。自分でするよと手を出すと、ドライヤーを持つ手を高く上げて。持たせないように意地悪をする。
「小生にさせてください」
このやり取りももう何回目か分からない。しっかりと乾くまで。丁寧に扱われて。
「うん、いいでしょう」
と、顳顬に口付けまで降ってくる。まるで手取り足取り世話をされるお姫様みたいだ。
……まぁ、それも悪くはないけど。髪を乾かしてくれて居るのはメイドさんじゃなくて王子様なんだよなぁ。なんて。
ガラにもない事を思ったせいで、頬がじわりと熱くなる。
「おや、すこし当てすぎましたか?」
そう心配して顔を覗き込む踪玄の手から、ドライヤーを奪い取って。
「交代っ!」
と今度は鈴蘭が踪玄にドライヤーを当てる。その彼の肩は愉快そうに小さく震えていて。
熱が引くまでこっちを見ないでと思いながら。ドライヤーの風の音で、彼の声が聞こえないのはやっぱり寂しいから。早く終わらせようと長い髪に指を通した。